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2024.10.04
家政婦が漢方医に任された仕事は、畑のミミズ取り。ランチの炊き込みご飯に入っていたものは…
57歳で家を飛び出し家政婦に! 派遣された家々では驚きの出来事が…!? 当時87歳だった「家政婦 金さん」こと石川金さんによる衝撃の実話エピソードをご紹介。書籍『家政婦 金さんのドラマみたいな体験日記』より、一部を抜粋してお届けします。
「どんな仕事でも」とは言ったけど
濃い緑の山に囲まれた、静かな集落に一人で住む漢方医、現在80歳。
「かなり頑固な方らしいから、言葉遣いや礼儀に気をつけてね」
会長さんからそう説明された後、同僚のえっちゃんと一緒に電車とバスを乗り継いで山へと向かいました。バスを降りて地図を見ながら歩くこと10分、目的地と思われるお家にやっと到着です。
「ごめんくださーい!」
「こんにちはー! さくら会から参りましたー!」
二人で大きな声を出しても返事はありません。玄関の前には大きな丸太が置いてあって、腰掛けて休むのにちょうど良さそうです。
「静かだねえ」
「空気が美味しい! これは寿命が延びそうだよねえ」
寿命を延ばしながらしばらく待っていると、家の前の竹藪がザザッと鳴り、急に老人が現れました。束ねた小枝を担いでいます。
私たちはパッと立ち上がり、
「野田先生でいらっしゃいますか」
「私たち、さくら会から参りました。石川と鈴木と申します。よろしくお願いします」
しかし先生は、
「また娘が心配して頼んだのかな。私は大丈夫だ、せっかくだが帰りなさい」
ニコリともせずおっしゃいました。
「いえ私たち、少しでもお手伝いしないと帰れないんです」
「私はこの通り元気だよ。家のことは一切不自由してないし、困ってないんだよ。心配いらないから」
「先生はお困りでなくても、私たちが困ってしまいます」
「先生、どんなことでもいいのでお手伝いさせてください。お願いします!」
二人で一生懸命お願いすると、先生はしばらく考え込んでいる様子。
「……本当にどんな仕事でもできるかな?」
「はいできます!」「頑張ります!」
安請け合いもギネス級ですが、私たちは必死です。
「ではここで少し待っていなさい」
しばらくして先生は、奥から二足の長靴を持ってこられました。
「これは男ものだから大きいかもしれんが、これを履いてこの道具を持って、ついてきなさい」
渡された道具は小さなスコップのようなものでした。急いで長靴に履き替え、先生の後を追います。着いたところは、畑でした。
「じゃあお願いしたよ」
「うー……、どんな仕事でもするって言ったから、仕方ないよね、ひいっ」
思わず小さく叫ぶと、えっちゃんも手を動かしながら、
「大丈夫? さっき寿命延びたはずだけど、今、わっ、縮んでるかも」
「とにかく頑張って取って、終わりにしよう」
「まさかミミズ取りが仕事だとは……うわぁ」
畑の土はかなり湿っていて柔らかく、少し掘っただけでびっくりするほど大量のミミズが出てきます。それをズダ袋いっぱいに取るように、ということでした。衝撃的ではあったものの、あまり時間が経たないうちに、かなりの量になっています。
思ったより早く終わりそう……と喜んでいると、先生がやってきました。深めの竹ザルを持っています。
「このザルにミミズを入れて、家の前の川で洗って泥を落としてください。洗う時、逃げられないように気をつけて」
「……はい」
なんということでしょう。ミミズを、ザルで、洗う。えっちゃんを見ても、ワクワクはしていないようです。
出されたご飯の中には…
ミミズ満タンの袋とザルを抱えて畑から先生の家に戻ると、険しい顔をしていた私たちに先生は、
「喉が渇いただろう、このお茶でも飲みなさい」
と湯呑みを渡してくれ、ヤカンから透明なお茶を注いでくださいました。
「味も色もないけど、体にとてもいいお茶なんだよ」
「ありがとうございます」
さすが漢方の先生です。そのお湯そっくりなお茶をありがたくいただき、また寿命が延びた気がしました。
家の前の小川もとても澄んでいて、底の小石や藻がはっきり見えます。
少しずつミミズをザルに入れ、冷たい川に浸しました。「うっ」と声が出るほどグニュグニュで気持ち悪いですが、心頭を滅却し、深く考えないようにしながら綺麗にしていきます。
洗い終えたものを先生のところへ持っていき、聞いてみました。
「このミミズはこの後どうするのですか」
「干すんだよ」
「干したら何かに効くのですか」
「干したものを煎じて、漢方薬として使うんだよ」
そして先生は家の中に入ると、おひつを手に戻っていらっしゃいました。
「もう昼過ぎだから、お腹が空いただろう。ご飯を持ってきたよ」
そういえばと時計を見ると1時過ぎですが、なぜか私はお腹が空いていません。えっちゃんを見ると、目が合った彼女の顔に「食欲不振」という文字が見えました。先ほどのお茶のおかげで超能力が宿ったようです。
「ほらこれ、都会では滅多に食べられない美味しいご飯だよ。栄養満点のご馳走だ」
先生はおひつを開けて見せてくださいました。お米のほかに何か入っているようです。私は、見間違いであってほしいと思いながら質問しました。
「先生、これ何かの炊き込みご飯ですか」
「蜂の子だよ」
嬉しくない正解でした。蜂の幼虫、つまりウジ虫みたいなものが炊き込まれているのです。先生は熱く語り続けます。
「食べないと損だよ。カルシウムもたっぷりだし、女性に大事な栄養素がしっかり入っているんだから」
「ありがとうございます。せっかくですが、私たちお弁当を持ってきているんです」
「外の丸太に座って食べてもいいでしょうか」
と、玄関を出てお弁当を開けたものの、二人ともほとんど手をつけられませんでした。
午後は、これも漢方に使うという、小川の土手に生えている大きな葉っぱを根っこごと抜く作業などをして、今日は終わりとなりました。私たちが帰ろうとすると、
「ちょっと待って。これはお土産だ。役に立つと思うよ」
と小さな包みを私たちの手にそれぞれ載せてくださいました。
「そんな、お土産だなんて……」
「いやいや軽いから持って帰りなさい」
ありがたくいただいて、帰り道。電車の中で開けてみました。
たたまれた紙の中には、カサカサしたものが入っています。
干物のミミズでした。
一緒に入っていた紙を開いてみると、それは手書きの説明書。
〈ミミズ茶の作り方〉
〈ミミズ茶は無色透明、無味無臭で飲みやすく……〉
私たちがお昼に飲んだ、あのお茶は……。
おかげさまで、今も元気です。
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