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2024.09.09
十二使徒には補欠がいた!? 裏切り者・ユダの過酷な最後と、その後釜に“くじ”で選ばれた者の話
キリスト教の「聖人」たちについて知れば、歴史だけでなく、教義や宗派の秘密までも読み解くことができる。『キリスト教の100聖人』から一部を抜粋してお届けします。
十二使徒とは?
新しく宗教が生まれるとき、最初の時点では、新たな教えを説きはじめた開祖、創唱者しか存在しない。だが、それをもって宗教の誕生と言えるかどうかは疑問である。開祖の説きはじめた教えを信じる者、つまりは信者が誕生しなければ、本当の意味で宗教が生まれたとは言えない。信者が生まれることで、それぞれの宗教は拡大していくきっかけを得ることができる。
その際に、どの宗教においても、弟子という存在は重要だ。儒教の『論語』は、孔子が弟子に語ったことばが中心になっている。仏教の釈迦にも十大弟子がいて、彼らが師といかなる関係を結んだのかが仏典につづられている。
イエスには、12人の弟子がいて、彼らは「十二使徒」と呼ばれる。使徒は、キリスト教の信仰を広める上で重要な貢献をしたことになるが、その姿は福音書や使徒言行録に記されている。
ただ、これから見ていくと分かるが、十二使徒のなかにはただ名前があげられているだけの人物も少なくない。そこからは、12人の使徒がいたということが重視され、個々の使徒についてはさほど情報がなかったことが分かる。
もちろん、ペトロやヨハネのように、重要な使徒もいる。また、その言動がほとんど伝えられていない使徒についても、後世にさまざまな伝説が生み出されている。使徒が実際にどのようなことをしたのかよりも、むしろ伝説に大きな価値がおかれていたりする。
これは聖人全体について言えることで、それぞれの聖人がどのような生涯を歩んだかよりも、伝説として語られたことの方が決定的な重要性を持つ。だからこそ聖人が崇敬の対象になるということが少なくないのである。
そうした伝説の集大成が『黄金伝説』ということになるが、他にも聖人にまつわる伝説はいくらもある。そこに聖人崇敬の基盤がある。
伝説に描かれることは、歴史上の事実というわけではない。それは創作されたもので、架空の出来事であることがほとんどだが、信者たちはそれを事実として受け入れていく。したがって、聖人崇敬の世界は、数々の伝説によって彩られている。今日の合理主義の観点からすれば、迷信とも言えるが、そうした伝説が人々の信仰に大きな影響を与えたことは否定できないのである。
補欠の聖人マティア
マティアは、十二使徒の補欠のような存在である。
十二使徒のなかには、もともとイスカリオテのユダが含まれていた。ところが、よく知られているように、ユダは師であるイエスを裏切る。それによってイエスは十字架にかけられて処刑されてしまうのだ。
ユダが使徒になった経緯は語られていないが、裏切りには金がからんでいる。「ヨハネ」によれば、ユダはイエスの集団の会計係をしていたが、その金をごまかしていたとされる。「マタイ」では、祭司長のもとに赴いたユダは「あの男をあなたたちに引き渡せば、幾らくれますか」と尋ね、銀貨30枚をせしめている。
よく知られているのは、イエスが最後の晩餐の席で、ユダが裏切ることを予言する場面である。「マルコ」によれば、イエスは使徒たち一同が席につくと、「はっきり言っておくが、あなたがたのうちの一人で、わたしと一緒に食事をしている者が、わたしを裏切ろうとしている」と言い出す。これによってイエスは、ユダの裏切りを予告したのだ。
ユダが、祭司長や群集を引き連れてイエスのもとへやってきたとき、イエスが誰かが分かるように接吻する。これは印象的な場面である。マタイでは、イエスに有罪判決が下ると、ユダは後悔し、金を返そうとするが、それを拒まれ、銀貨を神殿に投げ入れ、首をくくって死んだとされる。使徒言行録では、地面にまっさかさまに落ち、体が真ん中から裂け、はらわたが出て死んだともされる。
これは裏切り者がいかに過酷な報いを受けるかを示しているが、ユダがこうした悲惨な死をとげたことで、十二使徒が11人になってしまった。そこで使徒たちは、ユダの代わりを選ぼうとする。そこでは、イスラエルの十二支族のことが意識されていた。
使徒言行録によれば、新たな使徒の候補者となったのは、一人はバルサバと呼ばれユストともいうヨセフで、もう一人がマティアだった。どちらを選ぶかくじを引くことになり、マティアがあたった。くじとは安易な方法にも思えるが、古代の社会全般では、くじによって神意が分かるとされていた。ただし、その後マティアがどう活躍したかは述べられていない。エルサレムで殉教したという伝承もある。
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