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2024.04.18
「日本企業は質問が多すぎる」調べればわかることも聞く悪癖に外国企業はうんざり
かつては水産物の争奪戦で中国に敗れ問題になった「日本の買い負け」が、今でも、あらゆる分野で進行していることが周知の事実になっています。調達のスペシャリスト、坂口孝則さんは、著書『買い負ける日本』のなかで、「買い負け」は一時的なものではなく、かつての日本経済の成功体験が構造的に悪影響を及ぼしていると分析します。その原因とは何なのか? 一部を抜粋してお届けします。第11回。
仕入先の負担が前提の業務
ピラミッド構造が生む慢心として、複数の外国企業から出てきた意見に「とにかく日本企業はクレームと質問が多い」があった。
なお、これから紹介するエピソードは本質的なものではない。ただ以前、情報通信業の会社から面白い話を聞いた。海外企業から調達した商品の段ボールにお菓子のグミが混入していたという。社内は大騒ぎになり、品質管理部門が不良レポートを要求したり、早急に品質改善体制を構築するよう依頼したり、それより緊急のテレビ会議を開催せよと叫んだり、と大混乱していた。
そこで日本企業側は大人数を揃えて、テレビ会議を開催すると、海外企業側の参加者は数名。他国の企業はこれだけの騒ぎになったことはないと呆れていた。しかし異物混入は問題だと指摘すると、海外企業は「グミを納入品に添えておくのは、一つの冗談であり、航空業界の顧客は粋なプレゼントとして受け取ってくれる」という。
そのうえで、海外企業は「グミでこんなに大騒ぎする必要ありますか」と述べたという。日本企業側は、それでも不良レポートを提出してもらうべきか議論していたらしい。繰り返すと、これは本質的な話ではないし、笑い話かジョークととらえるべきだろう。しかし、これは極端な例だが、梱包上の微細な汚れなどへの質問も多いのが日本企業という。
その他、日本企業からは恒常的に問い合わせが相次ぐ。たとえば半導体ならば、仕様・使用法、データシート……。その多くは半導体メーカーのホームページに掲載されている。とはいえ、「見てください」ともなかなか言えない。仕入先の手間暇はコストにほかならないが、あまり意識がなさそうだ、とも。
日本人の英語力の低さをあげる向きもある。多くの製品情報がウェブ上であふれているものの、それらの大半は英語だ。大手企業ならまだしも、中小企業では自分の読解が正しいのか自信がもてずに、メーカーに日本語のドキュメントを要求する例が多い。
それでもたくさん買ってくれるから、とこれまでは仕入先が日本語に翻訳してくれるケースもあった。しかし現在では翻訳を待たずに自社でスピードを上げねばならない。しかし日本企業は絶対的に遅い。
ただ、ここでやや疑問がある。私の勤務経験では、設計者たちは英語のドキュメントを読みこなしていたし、会議も英語で対応していた。この疑問を複数者にぶつけると、私が勤務していたのは大企業だったので特殊例だ、と断言されたうえで現状を教えてくれた。「英語ができる設計者もいるんです。あなたが働いていた企業もそうだったんでしょう。しかし、実際の設計をするのは仕入先の日本企業に勤める設計者なんです。レベルが低いと言うつもりはないが、やはり『こんなことを?』と思ってしまう問い合わせは多い」とのことだった。
話がずれるが、中国企業では特許技術に関わる英語論文を定期的に収集し事業に活かしている。機密情報はあるが、かなりの情報は公開されている。GAFAに代表される米国のテック企業も先端技術の論文を無数に出している。企業の競争力は巷間にあふれる情報をいかに効率的に集めるか、にある。その点で語学の壁に阻まれる日本企業は残念でならない。
しかし、製品の不具合についてはさすがに質問してもいいのではないだろうか。「自社製品が不具合を起こしたのに、なぜ対応しないのだ」と怒る人が出てくるかもしれない。
もちろん、質問自体は誰も否定しない。ただ問題は製品の不具合かもわからない質問が多出する点にある。某外資系半導体商社の幹部に聞いた。「製品の不具合というのは、製品自体が問題かもしれないのですが、使い方によっても壊れます。私が知る限りかなりのケースは使い方に起因します。日本企業に納品している製品だけが不良品率が高いってことはないでしょう」
ほんとうに半導体の不良ならやむをえないが、半導体の不良“可能性”でも日本企業の品質管理部門から次々と質問がやってくる。言いがかりに近いクレームも多々ある。さらに詳細のレポートを要求される……。
さらに氏は続ける。「日本の企業は理解していませんが、不良対応の予算が決まっています。たとえば年に20件のレポートまでは出すけど、それ以上は出さない、といった予算です。『壊れた、どうすればいいのか』という質問がたくさん寄せられても実際には答えられませんよ。クレームが多い日本企業に供給するくらいなら、海外企業に売ろう、という空気になっても仕方ありません」と諦め気味に教えてくれた。
ちょっと話が変わるようだが、日本ではインボイス制度が開始される。これに伴って、私たちの会社に、適格請求書発行事業者登録における登録番号を質問してくる企業がたくさんある。これがよくわからない。法人番号は「法人番号公表サイト」ですぐにわかる。さらに「適格請求書発行事業者公表サイト」で検索できる。なにも私たちに質問する必要はない。私も質問されたら上記のサイトからコピー・アンド・ペーストしている。
もちろん同名の会社があるし本社所在地が不明な場合がある。ただ、それは珍しい例であり、そのケースだけ質問すればいい。現在では封書で各社に調査票を送付し、QRコードで読み込ませて……と煩雑な処理を課している。
これはあくまでも私の会社の例だ。しかし同じような質問が日本中で繰り返されているのは想像に難くない。
「言いにくいが」と前置きしたうえで某メーカーが教えてくれた。
「決断プロセスが遅く、さらに購入量も減少し、さらに過剰なサービスを要求する日本企業があるとします。他国の企業と比べて、日本企業に『売りたい』と考える企業はどれだけあるでしょうか」
買い負けは、世界的な需要と供給のバランスが崩れたことに第一の理由がある。しかし、なかでもとくに日本企業が入手できなかった背後には、かなり根深い原因が横たわっている。
* * *
この続きは幻冬舎新書『買い負ける日本』をご覧ください。
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