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2025.07.12

スイスの名門時計ブランド、コルムが、異例の32歳新CEOを迎えた理由とは

弱冠32歳にして、スイスの名門時計ブランド・コルムのCEOに就任したハソ・メフメドヴィッチ氏。若きリーダーが日本初来日に合わせて語った、ブランド再建への情熱とビジョンとは。

コルムCEOのハソ・メフメドヴィッチ氏

革新と美の精神を貫く“唯一無二の存在”

「私たちは『誰もやらないこと』をやるブランドなんです」

そう語るのは、時計ブランド・コルムの新CEOであるハソ・メフメドヴィッチ氏。2025年5月にトップの座についたばかりの若き経営者の表情は、力強さと情熱にあふれていた。

コルムは1955年、スイスのラ・ショー・ド・フォンで創業。伝統を重んじるスイス時計界にあって常に革新を続け、「既成概念への挑戦」を印象づけるようなコレクションを展開している。

その筆頭が「ゴールデンブリッジ」。ムーブメントのパーツを縦一列に並べた構造は、時計設計における常識を覆すものだった。構造美と機能性を両立させたこのモデルは、いまやコルムの象徴とも言える存在だ。

コルムの「ゴールデンブリッジ」
コルムを代表するコレクションである「ゴールデンブリッジ」。輪列を縦一列に並べた斬新なバゲット型ムーブメントを搭載。ケースの表・裏・側面をサファイアクリスタルで仕上げており、その美しいムーブメントをあらゆる角度から堪能できる。

その他にも、セーリングボートのナットを模した12角形ケースに国際海洋信号旗をあしらった文字盤が特徴的な「アドミラル」や、20ドル金貨をそのまま時計のケースに仕立てた「コインウォッチ」、ドーム型サファイアクリスタル風防の「バブル」、孔雀の羽をダイアルにあしらった「フェザーウォッチ」など、独創的な世界観を秘めたものばかりだ。

同社のブランドロゴには“未来の扉を開く鍵”があしらわれている。それは、常に新しい時代を切り拓こうという意志の象徴でもある。

ひとりの技術者が伝統あるブランドのCEOに就任

メフメドヴィッチ氏は1992年にボスニアで生まれ、1995年にスイスのラ・ショー=ド=フォンに移住。家の周囲には工房が立ち並び、幼いころから時計の音とともに日々を過ごしてきたという。18歳で地元の職業訓練校を卒業し、メフメドヴィッチ氏が唯一応募した企業がコルムだった。

「『ゴールデンブリッジ』に一目惚れしたからです。あの構造の美しさ、直線的なムーブメントの革新性は、少年だった私の心を掴んで離しませんでした。いつかこの時計を作る側になりたい。そう信じ切っていましたから、コルムへの入社しか希望しなかったのも私にとっては自然なことだったんです」

技師としてキャリアをスタートさせた彼は、時計製造の現場で地道な仕事を重ねていく。精密なパーツを扱う繊細さと、完成品としての美しさに責任を持つ誇り。その両方の学びを得た後は、品質管理やセールスにも携わるようになり、時計ブランドとしての活動の川上から川下までを経験していくこととなった。

アドミラル 38 オートマティック ジャパン リミテッド エディション
「アドミラル」コレクションの誕生65周年を記念した最新作「アドミラル 38 オートマティック ジャパン リミテッド エディション」。海をイメージしたブルーダイヤルに、船舶間の通信で使われる国際海洋信号旗をモチーフにしたカラフルなアワーインデックス、滑らかな5連仕様のブレスレットが特徴。38mm径と小ぶりなので腕なじみもよく、あらゆるシーンで活躍する。

しかし、2013年に香港系企業の傘下に入ったコルムは、以降投資重視の経営方針が続いたことにより、徐々にブランドの方向性と市場との接点にズレが生まれてしまっていたという。

「ブランドが困難な状況にあるなかで、自分に何ができるかを考えました。このままではコルムの独自性が失われてしまうと、危機感を覚えたのです」

そしてメフメドヴィッチ氏は、ブランドのMBO(マネジメント・バイ・アウト)を決断。スイス国内でラグジュアリーとファイナンスに通じたふたりの投資家と手を組み、その結果、円満な合意の下での経営権の委譲を実現。コルムは再び100%スイス資本に戻り、メフメドヴィッチ氏が新たなCEOになることとなった。

再興のキーワードは「CORUM IS BACK」

現在、メフメドヴィッチ氏は「COLUM IS BACK」をチーム内におけるスローガンに掲げ、本格的なブランドの再建に取り組んでいる。

「私がまず注力したのは、ブランドの本質を見つめ直すことです。コルムのDNAは、創業者であるルネ・ヴァンヴァルトが提唱した『大胆な創造性と唯一無二の存在感』。『何を変えるか』と同じくらい、『何を守るか』を見極めることがブランドの再建には重要です。私たちは単なる復活を目指しているのではなく、より力強く、世界に再び存在を示すために進化するつもりです」

新体制がスタートしてからまだ間もないが、来年の2026年を大きな変革の年と捉え、商品開発やマーケティング、販売体制のすべてを見直す包括的なリニューアルを進行させているという。

「近年、時計は単なる道具ではなく、自分を語るストーリーピースとしての価値を持つようになりました。だからこそ、私たちが発信する物語が魅力的であることが、ますます重要になっています。守り続けてきたものがあるからこそ変革にも説得力が生まれますから」

コルムCEOのハソ・メフメドヴィッチ氏
ハソ・メフメドヴィッチ/Hasso Mehmedovitch
1992年ボスニア生まれ。1995年にスイスに移住。18歳で職業訓練校(時計製造)を卒業後、ラショー・ド・フォンのコルムの工房にて時計技術者としてのキャリアをスタートし、後に品質管理やセールス(ヨーロッパ・中東担当)などを経験。2025年にコルムのCEOに就任した。

弱冠32歳という若さでCEOに就任したメフメドヴィッチ氏。「もちろんプレッシャーはあります」と語りつつ、「私がこのブランドに対して情熱を持っているからこそ感じるプレッシャーです」と、自らの状況を冷静に分析する。

「私にとってCEOという立場は初めてですが、完璧な人間でなければ務まらないとは考えていません。むしろ、自分の弱点を理解し、それを補ってくれるチームを築くことのほうが重要だと思っています。私の役割は、ゴールを明確に示すこと。そして、情熱をもって方向性を共有すること。チーム全員が同じ目標に向かって熱量を注げる──それが最強の組織だと考えています」

また、ブランドの未来を担う若い世代へのアプローチも見据えている。

「私はおそらく、スイスの時計ブランドの中でも最年少のCEOです。その若さこそが、同世代の感覚を反映し、新しい価値観に対応するための武器になると思っています」

歴史あるブランドの再建。まさに激動の日々が続いているというが、同時に楽しんでもいるとメフメドヴィッチ氏は笑みを浮かべる。

「働いている時間、すべてが楽しいんです。なぜなら、コルムというブランドに心から情熱を注いでいるから。時計という世界を通して、人生そのものを味わっている感覚です。乗り越えるべき山は険しいですが、情熱を持って努力を続ければ、絶対に越えられると信じています」

情熱、責任、そして未来へのまなざし──それらをカギとして、メフメドヴィッチ氏率いる新生コルムは新時代の扉を開こうとしている。

アドミラル 38 オートマティック ジャパン リミテッド エディション
アドミラル 38 オートマティック ジャパン リミテッド エディション
日本限定。自動巻き、SSケース、径38mm。¥902,000

問い合わせ
ジーエムインターナショナル TEL:03-5828-9080

TEXT=横山博之

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