インターネットやSNSの普及からあらゆる時代の時計が簡単に入手できるようになった。そうはいったところで、パーツの整合性や真贋の問題が問われるヴィンテージウォッチの品定めは一筋縄ではいかない。この連載では、ヴィンテージの魅力を再考しながら、さまざまな角度から評価すべきポイントを解説していく。連載第4回は、エベラールのワンプッシュクロノグラフを紹介する。連載「ヴィンテージウォッチ再考」
イタリアで愛され続けるクロノグラフの名門ブランド
かつてロレックスの「コスモグラフ デイトナ」や「GMTマスター」の人気に火をつけたイタリア市場は、今もなおヴィンテージウォッチに対して強い影響力を持っている。
世界でも指折りのファッション大国であるイタリアは、洗練されたウォッチライフを楽しんでいる愛好家が非常に多いのだが、そんな彼らの琴線に触れるブランドがある。
1887年にスイスのラ・ショー・ド・フォンで設立されたエベラールは、1919年に世界初の腕時計式ワンプッシュクロノグラフを発表。その後も独自性の高いクロノグラフを次々と開発することで名声を得てきた。1930年代からイタリア海軍将校の公式時計に採用されたことや、ファッショニスタとしても知られるフィアットの元名誉会長であるジャンニ・アニエッリが生涯愛用したブランドとして、イタリアで絶大な人気を誇る。
ここで紹介する1940年代に製造されたワンプッシュクロノグラフは、エベラールならではの魅力が詰まった名機である。
一見すると、2時位置と4時位置にクロノグラフプッシャーを備えたモデルに見えるのだが、実は4時位置の方はスライダーになっていて、4時位置の方向に動かすと作動中のクロノグラフ針を一時停止できるハック機能を備えている。スタート、ストップ、リセットの基本操作は2時位置のクロノグラフプッシャーのみで行える。
ヴィンテージウォッチの命であり、最重要パーツと言っても過言ではないダイヤルは様々なバリエーションがあり、こちらの個体で見られるギルトダイヤルのスネイルデザインの人気は極めて高い。このほかにもステップベゼルやシリンダーケースなども注目すべきポイントである。
この時代のクロノグラフでは非常に珍しい大型の39mm径のケースサイズも人気の理由に挙がる。ヴィンテージウォッチと合わせるために製作されたイタリアンカーフストラップと組み合わせると一段と腕に馴染みやすくなるはずだ。
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