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2021.01.08

タグ・ホイヤー、160年の歴史を伝えるヘリテージ・ディレクターの仕事観【インタビュー】

スイスの高級時計ブランド、タグ・ホイヤーは1860年に創業。それ以来生みだしてきた膨大なる時計は、アヴァンギャルドなウォッチメイキングの精神と、革命的な技術を駆使しながら、さらなる革新を追い続ける姿勢を証明している。

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今日に息づかせて明るい未来を切り拓くために

2020年で創業から160年。数々の伝説的な時計を生みだしてきた歴史を、現代に伝え息づかせながら、タグ・ホイヤーの明るい未来を切り拓くキーパーソンがいる。本国のヘリテージ・ディレクター、カトリーヌ・エベルレ-デュヴォーさんである。「眼鏡をつける時はできるだけ大ぶりのフレームで主張があるものがいい」と話す、眼鏡姿が印象的な彼女。160年の歴史を伝えるヘリテージ・ディレクターならではの仕事観を聞いた。

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――160周年、おめでとうございます。まずはカトリーヌさんの仕事から教えてください。

ありがとうございます。私の仕事は、歴史を過去のものに留めるのではなく、今日に息づかせて明るい未来を切り拓くために、それらを活用できるようにすることです。具体的に言うと、まずは本社に併設するミュージアム。タグ・ホイヤーの歴史を辿る希少なヒストリカルピースを収蔵する博物館なのですが、こちらの責任者を務めています。また、コレクターの方々からお預かりしたヴィンテージピースを修理する仕事もしており、私たちが培ってきたノウハウや知識といった豊かなブランドのヘリテージに光を当てて、歴史を伝えるのが主な仕事です。

ほかには、展示会を開催する時の管理監督、講演会での講義、コレクターの方たちがたくさんいらっしゃいますのでコレクターの方たちとの対話、ミュージアムに帰属するような貴重な歴史的な文書を読み解き管理し、もっとタグ・ホイヤーの歴史やヘリテージについて私が理解を深めたうえでタグ・ホイヤーの広報部や、トレーニング教育部、開発部、営業部などのスタッフに、さらに正しい深い知識を共有することも私の仕事です。

――歴史を伝える仕事に対するカトリーヌさんの哲学はどういったものでしょうか?

私は物語を紡いでいくストーリーテラーであることを心がけています。さまざまな歴史を紐解いていくなかで、点と点が見つかっていきます。点と点をつなぎ合わせて、そこに新しい光を当てて、新たなストーリーを浮き彫りにするのです。例えば、ミュージアムに所蔵されている歴史的なタイムピースと、コネクテッドウォッチのような最新の技術を搭載したもののつながりを見いだして結びつけたりします。ヘリテージというのはそういうものだと思っておりまして、この仕事を心の底から楽しんでいますよ。

――160年の歴史のなかで、ぶれないタグ・ホイヤーの理念とは?

いくつかあるのですが、まずはテクノロジーの面で、継続的に改善し続け、向上させ、精度を高め、そして計測を実現させること。いっぽう、新しく事業を起こすアントレプレナーとしての企業家精神を追い続けていること、あとはモータースポーツの世界観を踏襲していることでしょうか。それらは160年間受け継がれてきたものであり、タグ・ホイヤーの真実だと思っています。

――今まで数多くのアンバサダーの方々がいましたが、みなさんに通底する精神はありますか?

もともとアンバサダー制度を導入する前から、タグ・ホイヤーの時計は多くのセレブリティの方々に身につけていただいていました。稀有な時計だったこと、そして価値を認めていただいたからだと思うわけですけれど、その時代時代に合わせてアンバサダーと契約を結んできたので、契約の理由はちょっとずつ当然違っています。しかしながら共通項はあります。最初のアンバサダーはスイス人のF1ドライバー、ジョー・シフェール氏でした。1969年にジャック・ホイヤー(ホイヤー家の4代目であり、時計業界の激動の時代を駆け抜けてきた名経営者であり、現在はタグ・ホイヤーの名誉会長を務めている)が、時計の裏蓋に契約サインをした歴史的な指名だったんですが、その後に共通しているのは、ブランドを体現している人でなければならないということです。ブランドを十分理解し、愛し、誇りに思ってくださる、そして自分の生き様を時計が表現してくれると思ってくださる方です。

――歴史上、ブランドの転換期になったと思われるできごとを教えてください。

私にとって、どの年も自分の子どものようなものですから、子どものなかで一番かわいい子は誰? って言われているようなものなのでなかなか……。しかしながら、ホイヤー時代ということで言わせていただくと、やはり1969年3月3日。この日は歴史のなかでも一番大きなできごとがあった日だと思います。自動巻きクロノグラフムーブメント「キャリバー11」の発表の時であり、同時に3つの歴史的な時計を発表することになったわけです。スクエアケースの「モナコ」がそのひとつなのですが、時計界にとってもマイルストーン的な歴史的な出来事だったと思っていますので、その時にもし私がいたらぜひ参加したかったですね。

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1969年3月3日にタグ・ホイヤーと共同開発を行った企業は、世界初の自動巻きクロノグラフムーブメント「キャリバー11」を発表。マイクロローターをベースに製作されている。

「モナコ」は1969年世界初の自動巻クロノグラフムーブメント「キャリバー11」を搭載した、当時最も革新的な腕時計であり、世界初の角型防水クロノグラフ。1971年の映画『栄光のル・マン』でハリウッドのスーパースター、スティーブ・マックイーンがブルーモナコを着用したことで、タグ・ホイヤーのアイコンとなり、以来「モナコ」はタグ・ホイヤー愛好家がひとつは所有している代表的モデルとなった。

――敢えてお聞きします。ブランドを長く続けるデメリットがあるとするなら何でしょうか?

まさに長い歴史というのはそれだけすごい資産があるわけですから、どうしてもそこに固執してしまい、時に前進を留めてしまうということになりがちです。歴史は障壁になる可能性がある、これがデメリットだといえば、デメリットだと思うのですが、だからこそタグ・ホイヤーはそうであってはならないので、ヘリテージ・ディレクターという私の役割があります。いかにして、160年の歴史を負荷にするのではなく、できるだけいい意味で歴史の重みを軽量化させ、現代に息づかせ、新しい明るい未来を押し開くための力に変えていかならければならないと思っております。

そういった観点から言うと、ミュージアムの役割も、過去の遺産を展示するだけの場所とは考えていません。過去のクリエイティビティがすごかったというだけのものでなく、また、こんなすごいことをやってきたんだという知識や蘊蓄を得るためだけのものとも考えていません。むしろ、弊社の営業スタッフがここを訪れた時には厳しく戒めております。「このヒストリカルピースはすごい遺産だから、これをまた特別エディションで復刻しようよ」などといったことのために訪問してもらうのは止めてもらいたい、と。

あくまでも、かつても人というのはこんなにもクリエイティビティをもって新しいモノをつくったんだということを知り、それを活かして、現代でも同じようにクリエイティビティを発揮していこうということを学ぶための場所なんです。それを理解しないのであれば、このブランドに血が流れなくなるというふうにスタッフには話しています。

――では最後に。200周年のタグ・ホイヤーはどんなブランドになっているとお考えですか?

答えが分からない、というのが答えです。要するに分からないのがタグ・ホイヤーです。もし今、40年後の予想がつくようなブランドなら、タグ・ホイヤーではないということですね。私は私の仕事を引き継いでくれる人たちが、私よりもさらにクリエイティビティを発揮して、ヘリテージをテコ力として使い、その遺産の先の歴史を築いていってくれるような人たちであるならば、40年後のタグ・ホイヤーは想像できないようなタグ・ホイヤーになっていると思っています。

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160周年を記念して、ブランドのアイコンである「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ」コレクションのリミテッドモデルを発表。1965年に発表された回転式日付ディスクつきの初のタグ・ホイヤーの腕時計クロノグラフである、クラシックな「ホイヤー カレラ “DATO 45”」にインスパイアされたモデルになっている。第3弾は「タグ・ホイヤー カレラ スポーツクロノグラフ 160周年リミテッドエディション」。ブルーダイヤルとホワイトダイヤルのふたつのモデルには、自社製ムーブメント ホイヤー 02を搭載。ケースバックには、リミテッドエディションであることを示す「ONE OF 1860」の文字がエングレーブされている。各世界限定1860本。ともに自動巻き、SSケース、径44mm。各¥640,000

問い合わせ
LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤーTEL:03-5635-7054

TEXT=ゲーテ編集部

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