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2026.10.08

日本代表史上最高のファウル!? W杯優勝へ繋いだ「人生初のレッドカード」とは

W杯制覇、アジアカップ初優勝、リーグ4連覇など数々の栄冠を手にした、サッカー日本代表DF・岩清水梓。結婚や出産、怪我を経て、2026年に現役を引退した、彼女の半生に迫る。第2回。

日本代表史上最高のファウル!? W杯優勝へ繋いだ「人生初のレッドカード」とは
岩清水梓/Azusa Iwashimizu
1986年岩手県生まれ。2003年、高校1年生で日テレ・東京ヴェルディベレーザに正式登録され、2006年には「なでしこジャパン」デビューを果たす。2011年、ドイツ女子ワールドカップの優勝メンバーに。2018年にはキャプテンとしてリーグ4連覇に貢献する。2025/26シーズンをもって引退し、男子も含めた東京ヴェルディの「クラブアンバサダー」に就任。

2011年女子ワールドカップドイツ大会

「ワールドカップで優勝する」と大会前に言っていたら、笑われていたことだろう。それまでに出場した5大会でグループリーグ敗退が4回。1回は決勝トーナメントに進出したが、その初戦で0-4と大敗していた。ダークホースとも言えない存在だった。

ところが2011年女子ワールドカップドイツ大会、「なでしこジャパン」は世界中の予想を覆す快進撃を見せ、東日本大震災の大きな爪痕が残る日本中に希望の光を灯した。そして岩清水梓は、守備の要としてこの大会で鮮烈な記憶を人々の心に刻み込むことになる。

グループリーグを2勝1敗の2位で通過した「なでしこジャパン」は、準々決勝で優勝候補にして地元開催のドイツと激突した。圧倒的な完全アウェイの中、延長戦の末に1-0で破るという歴史的勝利を収める。この時から、彼女たちを取り巻く空気は一変した。

当の本人たちにはそんな日本の熱狂は伝わっていなかった。今なら日本代表の選手たちもSNSを通じて渋谷がどんな騒ぎになっているかを知ることができる。ところが当時は知るすべが少なかった。

彼女たちに、日本での熱狂を伝えたのは、団長だった上田栄治委員長。上田委員長が日本の新聞をドイツのホテルに持ち込み、選手は自分たちが一面になっていることを知った。「ヤバい! ヤバい! すごいことになってる!」と、見慣れていない日本での反響の大きさを目の当たりにして「それだけでちょっと嬉しかった」と振り返る。

絶対王者アメリカとの激闘

準決勝でスウェーデンを下し、迎えた決勝の相手は絶対王者アメリカ。試合は壮絶な死闘となった。

延長後半の終了間際、2-2の同点で迎えたアディショナルタイム。誰もがPK戦を意識し始めたその時、アメリカのエース、アレックス・モーガンが日本のディフェンスラインの裏へ抜け出した。この絶体絶命のピンチに、ただ一人食らいついたのが岩清水だった。

ペナルティエリア直前で彼女はスライディングする。

「ペナルティエリアに入ったら止める自信はありませんでした。だから止めるならあそこだなと思いました。ただ、ファウルしてまで止めようという気持ちじゃなかったんです。練習でも普通にやっている、いつもどおりのプレーでした」

ペナルティエリア内でファウルをすればPKを与えてしまう。だからその手前で止めるしかなかった。普段と同じタックル。だがボールには触れなかった。そして身を挺して飛び込んだ岩清水はモーガンを倒した。ホイッスルが鳴り、提示されたのはレッドカード。一発退場だった。日本中に衝撃が走ったこの瞬間を、彼女自身は極めて冷静に振り返る。

「あれが人生初めてのレッドカードでした。あのタックルをしなかったら後悔しているかもしれない。そのときのベストの判断でした」

ピッチを去る彼女の胸中には、自分が試合を壊してしまったかもしれないという恐怖があった。

「そのFKが入らなかったからよかったけど、入ったら自分が戦犯ですから」

泣きながら祈るしかなかった

退場処分を受けた彼女は、ベンチで試合を見届けることすら許されなかった。後ろ髪を引かれながらロッカールームに戻ろうとしていると、通路に小さなモニターがあった。岩清水はそこで試合を見守った。

「祈るしかなかった。泣きながら、ずっとずっと『お願い、みんな!』って。それしかできなかったから」

そして、運命のPK戦。熊谷紗希が最後のシュートを決め、日本がワールドカップ初優勝を果たした。その瞬間、彼女は「これが終わったらピッチに戻っていいですか?」とスタッフに確認し、猛ダッシュでピッチへ飛び出した。他の選手たちはもうPK戦の立役者、GK海堀あゆみに向かって走っている。岩清水は監督に抱きつき、それからみんなのところに向かった。

日本中を感動の渦に巻き込んだこの優勝で、「岩清水梓」の名前は一躍全国区となった。彼女の自己犠牲のファウルは「優勝の立役者」と称賛され、サッカーファン以外からも声をかけられるようになった。

日本代表の最高のゴールは人によって違うだろう。だが最高のファウルというと、このスライディングを思い浮かべる人は多いはずだ。

「サッカーファン以外にも名前を知っていただいていることを『すごいな』と、人ごとのように思っていました。優勝と準優勝は紙一重だけど、やっぱり全然違うものでした」

しかし、勝負の世界は残酷である。「紙一重」の差で頂点に立った彼女たちは、やがてその「紙一重」の差で地獄を見ることになる。世界女王として挑んだ次のワールドカップ、2015年カナダ大会。そこで彼女を待っていたのは、想像を絶する悪夢だった。

※3回目に続く

TEXT=森雅史

PHOTOGRAPH=ロイター/アフロ

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