自身のポリシーを貫き、圧倒的な仕事をする。そんなスペシャリストたちが「今の自分を表現するジャケット」をセレクト。その着こなしに、スタイルに、それぞれの生き様が見える。今回紹介するのは、TRADMAN’S BONSAI 松葉屋 代表取締役社長の小島鉄平氏。【特集 大人のジャケットスタイル】

羽織ることで先人たちへの敬意を示し背筋を伸ばす
「羽織るという所作は、目に見えないなにかも一緒に身体に纏うようで、ぐっと気が引き締まりますよね」
ベンツやナイキなど世界的ブランドと盆栽のコラボレーションを次々に実現、世界に向けて盆栽の魅力を発信するのが「盆栽プロデューサー」小島鉄平氏だ。その小島氏がふわりと羽織ったのは、白いオールドジョーのジャケット。デザイナーの髙木雄介氏とともに、肌触りのいいシルク混の平織り素材を選び、開襟シャツ、パンツとともに仕立てた世界で1着だけのセットアップだ。
「ブランドとのコラボレーションなど盆栽を展示するイベントの場では必ず黒いジャケットを着るようにしています。主役は盆栽であり僕は黒子ですから。でもたまには、白もいいのではと髙木さんに言っていただき、落ち着いたトーンの白で仕立てていただきました」
サンダルに合わせてもよし、一方でフォーマルな場でも映えるのも気に入っている。
これまで小島氏は世界的ブランドの展示会に盆栽を提供、世界へ盆栽をアピールする勝負の場では必ずオールドジョーを着てきた。
「古いヨーロッパやアメリカの要素を取りこみながら、日本らしさもあるブランドでずっと大好きでした。アメリカのストリートカルチャーに影響されつつ盆栽をやってきた僕にとってはとてもしっくりくるし、羽織るとやっぱり背すじが伸びる」
盆栽と服という表現媒体は違えど、オールドジョーの作るものに親和性を感じていた小島氏。いつかはこのブランドのデザイナー・髙木雄介氏と仕事がしたいと言い続け、2年前からついに、オールドジョーの展示会で小島氏の盆栽が展示されるように。この白いジャケットはその展示の御礼として、髙木氏が小島氏のために仕立ててくれた特別な1着だ。
「会いたい人に会いたいと言い続けることで、かなうのだと今は感激しています。このジャケットにはボタンがなく、紐で閉じるデザインで、ここにもオリエンタルな匂いを感じて、僕にとってこれ以上ない1着です」

盆栽には先代の職人からの置き手紙がある
職人とともに盆栽仕事をする際は、半纏(はんてん)を羽織ることが多い。数百年生き続けてきた木と、何世代にもわたって手入れをしてきた職人たちへの敬意を「羽織る」ことで表している。
「先代の職人が、どの枝を伸ばしたかったのかなど、木を見れば置き手紙があるのです。その思いを汲み取ったうえで、次の職人がアレンジしていく。盆栽って完成形がなく常に進化し続けているのです。だから盆栽から教えられることはとても多い」
そのひとつに、「自由でいること」があるのだという。
「盆栽ってすごく自由に生きています。職人が針金をかけても、成長したい方向にしか枝を伸ばさない。だから木の意志を優先し職人は盆栽を作っていくんです。仕事も、自分が信じる道を自由に選び取って進むことで、一緒に走ってくれる人が現れるのではないか、そう思うようになりました」
かつては、自分たちの盆栽のスタイルを「ニュースクールな盆栽に、ストリートカルチャーをかけ合わせたもの」と説明してきた。けれど今は、時に「古臭い」と言われる盆栽こそを理解し、そこに自分たちの好きなカルチャーを表現していくことこそが大事だと思っている。
「そうは言っても木と同じで、時間が経てば僕らもまったく違うスタイルになっているかも」
そう笑う小島氏。盆栽に完成形がないようにそのスタイルにも完成形はない。次に会う時は、どんなジャケットを羽織って、どんな勝負の場にいるのだろう。進化から目が離せない。

小島鉄平/Teppei Kojima
TRADMAN’S BONSAI 松葉屋 代表取締役社長。1981年千葉県生まれ。アパレル勤務を経て盆栽チーム「TRADMAN’S BONSAI」を結成、2016年に松葉屋を設立。盆栽を世界へ伝えるためさまざまなブランドやアーティストと積極的にコラボレーションを行う。
この記事はGOETHE 2025年11月号「特集:スタイルのあるジャケット」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら