PERSON

2025.07.07

スタートアップで突き進む元アイドル・髙橋優斗、その営業法、プレッシャーとの闘い方とは

自身の生まれ故郷をさらに盛り上げ、次の時代を担う会社を作るために起業した髙橋優斗氏。その第一歩目としてギフトスイーツブランド「横浜バニラ」を立ち上げた。会社経営も菓子作りも初めてながら、「塩バニラフィナンシェ」は新横浜駅や赤レンガ倉庫などで販売、大ヒットを記録している。2024年、24歳で起業。当初は名刺の渡し方もわからなかったという髙橋氏が会社を、そして商品を作りあげていくまでの起業ストーリー。後編は、その実直すぎる営業方法、そしてプレッシャーとの闘い方を訊く。【前編はコチラ】

髙橋優斗氏

そのアイデアは100%自分の腑に落ちているか

2024年に起業した「横浜バニラ」、その代表取締役社髙橋優斗氏が作り出した最初の商品「塩バニラフィナンシェ」は、会社立ち上げからわずか4ヵ月で横浜高島屋のポップアップストアに並んだ。発売初日は駆けつけたマスコミに髙橋氏自ら手渡しで商品を配りPR。多くの客もつめかけて商品は飛ぶように売れ「12時間で販売されたフィナンシェの最多個数」としてギネス記録まで樹立してしまった。

設立して間もない会社の商品で、なぜそもそも横浜高島屋という一等地での販売が叶ったのだろう。

「むちゃくちゃ営業しました(笑)。どこかにツテはないか必死で探して、このバイヤーさんだとわかったら、まだ試作段階の商品を持って押しかけて。でも大きな百貨店さんですから無理かな、という感じではあったんです。そこをもう『試作第3弾持ってきました!』『第4弾です!』って何度も行く。そうしているうちにアホなヤツがいるな、って面白がってくださったんだと思います」

髙橋優斗氏
「横浜バニラ」のメンバーは髙橋氏を含めて3名。全員中学時代の仲間だ。

かつて大手芸能事務所に所属、芸能界という華やかな場で活躍していたとは思えない、地道すぎる営業。そもそも菓子・土産業界完全未経験で始めたビジネスだ。業界の常識や言語をまだ共有していないからこそ、営業先へ、そしてともに働く人たちへ自分の思いを髙橋氏は実直に伝え続けた。

「きっとこの業界で長年やってきた方からしたら、僕の言っていることはとんでもないことなのでしょう。でも自分ではバカだとも思わないくらい、とにかく僕は真剣に伝えるようにしています。パティシエの方はそれを面白がってくださって、僕が無茶苦茶を言っても最高のものを作ってくださるので、とても感謝しているんです。

でもこんな自分でも、『こういうものを作りたい』とただ言い続けるだけではダメだと思っています。『こういうものができれば、必ず行ける』と自分が100%思えるセオリーがあって、それが自分の腑に落ちていて、はじめて思いが伝わる、仲間が増えていくのではないかと。そう信じて日々、勉強しているところです」

髙橋優斗氏

横浜高島屋での凄まじい売れ行きから話題を呼び、その後は国内最大のサービスエリア「EXPASA海老名 上り」で限定販売された。現在は新横浜駅、横浜赤レンガ倉庫での常設販売を行っている。スタートダッシュはまさに理想的だった。しかし髙橋氏が目指す「横浜土産の定番」となるためには、これからが勝負だろう。

「話題性だけではない、100年先も愛される商品にしていかないといけません。そのために開発時から味にはとことんこだわってきました。僕自身もこのフィナンシェの熱烈なファンです。ですから、まず最初にみなさんに味を知ってもらえるように動いてきました。そしてこれからは、もっとたくさん生産できるように組織と仕組みを整える。その後にさらに販売店を増やし、手に取っていただける機会を増やしていけたらと思っています。『塩バニラフィナンシェ』をエースとして、今後も第2弾、第3弾の新商品も準備中なんですよ、それもかなり! 美味しいです。楽しみにしていてください」

髙橋優斗氏

走り出す前はすごく怖い。でも、走り出せば止まらない

10代から起業への憧れを抱き、24歳でその夢を果たした髙橋氏。しかし実際に踏み切るまでは、40度の熱を4回も出すほどに悩み抜いた。

「15歳からいた芸能界から、ビジネスというまったく新しい場所に行く。環境が変わるのってやっぱり怖いですよね。それまでいた場所で、たくさんの方にお世話になって、いろんな方々に期待していただいているのもわかっていて、だから悩んで悩んで悩んで。でも前に進まないといけない。そういう思いで、次のキャリアに進むという、僕のこれまでの人生で一番大きな決断をしました」

髙橋優斗氏

起業でも独立でも転職でも、新しいことを始めようとすれば必ず外野からのプレッシャーはかかる。「あいつが他の会社でうまくいくはずない」「あいつが独立なんて早い」「起業なんて」と必ず誰もがどこかで言われるだろう。しかし髙橋氏は「そんなことに怯える必要はない」と、次のキャリアへ飛び立とうとする人たちへエールを送る。

「同じように飛び出した経験のある人の言葉なら、学ぶこともあると思います。でもそうではないなら、『自分とはやっている種目が違うんだな』くらいにとらえていいんじゃないでしょうか。周りの言葉を気にするよりも、自分が覚悟をしっかり決められているかどうかの方が、大事だと思います。

走り出す前はすごく怖いです。でも、走り出せばもう止まれないから、あとは必死でくらいついていくだけ。悩むよりも、実際にその環境に身を置いてしまった方が早いかもしれません。バンジージャンプで飛び降りてしまった、そういう感じすよ。もう後には戻れない。だから覚悟だけしっかり決めていれば。

失敗するかもしれない。そういう怖さもあります。でも僕はそれでも経験になると思ったんです。勇気をもって踏み出したことってキャリアとしてすごく貴重じゃないですか。失敗したとしても、そういう経験をしている人はすごく魅力的に見えます。だからきっと次につながるのではないでしょうか」

髙橋優斗氏

まっすぐ前を見てそう語る髙橋氏。

「僕も今、毎日いろんな困難に直面しながら、『やってやるよ!』っていう気持ちになっています」

横浜バニラはまだ、始まったばかり。これから髙橋氏の熱い想いが、どんなふうに商品を盛り上げていくのだろう。その仕事から眼が離せない。

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髙橋優斗/Yuto Takahashi
1999年神奈川県横浜市生まれ。2015年から芸能事務所に所属し、テレビや舞台、コンサートなどで幅広く活躍。2024年に芸能事務所を退所、横浜バニラの前身であるYX factoryを設立。2025年2月に正式に社名を「横浜バニラ」に変更し、「塩バニラフィナンシェ」の開発、販売を行う。

TEXT=安井桃子

PHOTOGRAPH=干田哲平

HAIR&MAKE-UP=Misato Awaji(POIL)

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