平成生まれの選手として初の2000本安打達成した、楽天・浅村栄斗がスターとなる前夜に迫った。

プロ野球史上56人目、2000本安打を達成
毎年多くの記録が誕生するプロ野球。2025年シーズンも5月24日の楽天vs日本ハム戦で大記録が誕生した。
楽天の主砲、浅村栄斗が第1打席でライト前へのタイムリーヒットを放ち、プロ野球史上56人目となる2000本安打を達成したのだ。
本拠地での達成ということもあってその瞬間、楽天モバイルパークは大歓声に包まれた。ちなみに34歳6ヵ月での達成は史上7番目の若さであり、また平成生まれの選手としては最初の達成者ということも大きな話題となっている。
2年春までメンバー外
そんな浅村は高校野球きっての強豪である大阪桐蔭出身だが、決して早くから注目されていたわけではない。
1学年上には中田翔(現・中日)がいたこともあって現地で試合を見ることも多かったが、2年春に出場した選抜高校野球ではメンバー外だった。
新チームとなった2年秋もチームは大阪府大会の準々決勝でPL学園に0対9で7回コールド負けを喫しており、浅村も目立った活躍を見せることができなかった。
ようやくその名前がスカウトや関係者の間から聞かれ始めたのは3年生になってからである。
春の大阪府大会では秋に大敗を喫したPL学園や、前年秋優勝の履正社などを破って優勝。続く近畿大会でも準優勝を果たし、浅村は中軸としてチームを牽引する活躍を見せている。
さらに評価を大きく上げることになったのが、浅村自身が唯一の出場となった3年夏の甲子園大会だった。
1回戦では日田林工を相手に19安打、16得点で大勝。1番、ショートで出場した浅村は1打席目から5打席連続ヒットを放ち、リードオフマンとしての役割を果たす。
甲子園で大阪桐蔭を優勝に導く活躍
そして高校時代の浅村で強烈な印象が残っているのが2回戦の金沢戦だ。
第1打席にレフト前ヒットで出塁して先制点の足掛かりを作ると、2回の第2打席にはレフトスタンドへのホームランを放つ。その後試合は先発の福島由登(現・Honda)が4回に集中打を浴びて4点を奪われて逆転を許す。
大阪桐蔭も反撃を見せるが1点をリードされて8回もツーアウト。このまま逃げ切られるかと思った場面で、浅村はこの日2本目となるホームランをレフトスタンドに叩き込んで見せたのだ。まさに起死回生と言える一発であり、甲子園の大観衆が沸いたのを今でもはっきりと覚えている。
その後試合は延長戦に突入。大阪桐蔭は10回裏に主将の森川真雄がサヨナラタイムリーを放ち、逆転勝ちをおさめた。当時のノートには浅村のプレーぶりについて以下のようなメモが残っている。
「少しオープンスタンス気味の構えで左足を高く上げるが、ステップする動きが慎重で、踏み出してもバットがしっかり残っているため緩急にも惑わされない。踏み出し方に絶妙のゆったり感がある。
(相手先発投手の)アンダースローにタイミングを外そうとするボールにも完璧に対応。内角から入ってくる変化球に対しても体を開くことなく、レフトポール際に運ぶ。
バットが内から出ないとファウルになるボールでスイングの軌道も理想的。(3番手投手の)速いストレートに対しても鋭く体を回転させて対応。これだけ内角をさばける高校生はなかなかいない。トップバッターだがフルスイングの迫力は十分で、飛距離と打球の勢いも申し分ない。
(中略)
ショートの守備は少しスローイングが雑になるところがあるのは課題だが、ハンドリングの巧みさは素晴らしく、難しいバウンドも逆シングルで難なくさばく。打てるショートという意味では高校生でもトップクラス」
試合での大活躍があったとはいえ、ここまで褒める言葉が並ぶことも珍しい。それだけ浅村のプレーが素晴らしかったことがよくわかるだろう。
チームはこの後も勝ち進み、西谷浩一監督にとって初となる甲子園優勝を達成することとなるが、この試合での浅村の活躍が大きなターニングポイントとなったことは間違いない。
また浅村はこの大会を通じて29打数16安打、打率.552という圧倒的な成績を残し、ドラフト3位で西武に入団することとなった。
高校時代に比べると少し体格やプレースタイルは変わったが、積極的にフルスイングする姿勢は貫いており、それができるのも高い技術の表れと言えるだろう。
2000本安打達成直前には自身ワーストとなる35打席連続ノーヒットを経験し、連続試合出場も1346でストップするなど、苦しい時期もあったが、それだけに喜びも大きかったのではないだろうか。年齢的にもまだまだ余力はあると思われるだけに、今後もそのバットでチームを牽引する活躍を見せてくれることを期待したい。
■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。