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2025.04.14

「棟上ゲ」を再現した空間で伝統×未来を体験【CRAFT SAKE WEEK 2025】

2025年4月18日~29日の12日間、東京・六本木ヒルズで開催される「CRAFT SAKE WEEK 2025」。その空間演出を担う「MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO(マウントフジアーキテクツスタジオ)」の原田真宏氏と原田麻魚氏に自身のインスタレーションへの思いを語ってもらった。

「CRAFT SAKE WEEK」の空間演出を担う「MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO」の原田真宏氏と原田麻魚氏。

建築の神事を思わせる清々しさと浮遊感漂う空間で日本酒を楽しむ

日本各地の銘酒と美味が味わえることに加え、毎年独創的な空間演出にも注目が集まる日本酒の祭典、「CRAFT SAKE WEEK」。会場となる六本木ヒルズアリーナは、次世代を担う世界的建築家によるインスタレーションで彩られるが、今回、その任を受けたのは、「MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO」の原田真宏氏と原田麻魚氏だ。

「風景でつくり、風景をつくる」をコンセプトに、木材といった自然素材を巧みに用いる建築家夫妻が選んだテーマは、「棟上ゲ」。木造住宅の建築現場で骨組みが出来上がった際、感謝と今後の無事を祈る行事として行われる神事、棟上げ式をイメージし、檜とワイヤーから成る巨大なインスタレーションを展開するという。そこには、どんな思いが込められているのか。原田夫妻に話を聞いた。

――「CRAFT SAKE WEEK」は、毎回、日本の四季や文化をテーマにした空間演出を行っていますが、今回、原田さんたちが掲げたのは「棟上ゲ」とのこと。建築現場における神事をテーマに選んだ理由をお聞かせください。

CRAFT SAKE WEEK 2025
ワイヤーによる張力を利用することで、木材同士が接することなく自立。まるで空中に浮いているような構造物が実現する。材木は檜を使用。檜のやさしい香りが会場を包みこむ。

原田真宏(以下、真宏) 建築着工時に行う神事、地鎮祭は、施主も設計者も施工者もちょっと緊張しているんですが、棟上げ式は、「ここまで無事にきた」という安堵感と「どんな家になるんだろう」というワクワクした気持ちで、誰もが笑顔なんです。そこでお米や塩、野菜、果物などと一緒にお供えされるのが、日本酒の一升瓶。木の香りに包まれながら、製材されたシャキッとした木材が空に向かってすっくと立ち上がるさまを見上げつつ、晴れやかな気持ちでみんなでお酒を酌み交わす時間は、とても素敵なんですよ。その場にいるみんなが、未来への希望を共有しているような感じがして。そんな空間を大都会、六本木ヒルズにつくったらおもしろいのではないかと考えました。

今回は、木材とワイヤーをテンセグリティ構造(張力と圧縮を利用した骨組み)で組むのですが、そうすると木材と木材はどこも接することなく、まるで浮遊しているように見えます。伝統的な棟上げのように見えながらも、先進的な技術によって未来感のある構造になっているというか。来場者には、家の中にいるようでいて、ふわふわと浮いているような、不思議な感覚を味わっていただけると思います。お酒でほろ酔い気分になっているでしょうから、夢見心地という感じかもしれません。

原田真宏氏
原田真宏/Masahiro Harada
1973年静岡県生まれ。1997年、芝浦工業大学大学院建設工学専攻修了後、隈研吾建築都市設計事務所や磯崎新アトリエなどを経て、2004年、原田麻魚氏と共に「MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO」を設立。芝浦工業大学建築学部建築学科の教授も務める。

原田麻魚(以下、麻魚) テンセグリティ構造は、組み上げるまではとても不安定で、難しい作業になるのですが、完成すると、無駄な材料はひとつもない、ものすごく純粋な構造体です。それが、日本酒の純粋さに通じる気がしています。日本酒は、仕込んでいる段階はどろっとしているのに、ろ過して出てくる液体は、水よりも透明できれい。その純粋さを、このインスタレーションを通じて表現できればと思っています。

――イベントのオーガナイザーである中田英寿さんは、BCS賞を受賞した「道の駅ましこ」や「知立の寺子屋」に代表されるような自然と融合する建築に惹かれ、「MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO」にオファーしたと聞いています。今回の提案について、どんな反応がありましたか?

真宏 中田さんは日本の伝統技術に対して強い想いを持っていらっしゃる方。確か、ある企画で棟梁のもとに弟子入りするということもされていたんじゃないかな。なので、日本の建築や木材をフィーチャーすることは、中田さんの想いを反映することになると考え、この提案をさせていただいたんですよ。先日プレゼンを終えたのですが、共感いただき、すごく喜んでいただけました。

麻魚 日本酒は、日本の風土や日本酒づくりの伝統を受け継ぐ杜氏さんだけでなく、(発酵するための)樽をつくる職人さんがいて、その樽となる木材を生み出す林業に携わる人がいてと、さまざまな業種で、多くの人が関わってできています。そんな日本酒の文化的な位置づけみたいなものを、中田さんとお話しました。「棟上ゲ」というコンセプトを通じて、見えづらくなっている日本の伝統にスポットを当てるという私たちの意図も、中田さんには理解いただけた気がします。

原田麻魚氏
原田麻魚/Mao Harada
1976年神奈川県生まれ。1999年、芝浦工業大学卒業後、建築都市ワークショップに所属。2004年、原田真宏と共に「MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO」を立ち上げた。早稲田大学や東京理科大学で建築の授業を受け持つ。

――「CRAFT SAKE WEEK」史上最高となる11mの高さを誇るうえに、特殊な構造ということで、かなり大がかりなものになりそうですね。準備もさぞや大変なのではないでしょうか。

真宏 正直、大変です(笑)。良い建築には、良い人組、つまりどういった人たちに関わっていただくかが重要なのですが、素晴らしい人たちが即座に集まってくださいました。プレゼンからの帰りにタクシーの中で前田建設工業の前田(操治)社長に電話をして、企画を話し施工協力をお願いしたところ、その場でOKをいただき、そこからどんどん輪が広がって。構造設計は、いつもお世話になっている佐藤淳構造設計事務所の佐藤さんにご協力いただくことになりました。木材は檜材ですが、その一部を富士ヒノキが協賛してくれてもいます。

前田さんも佐藤さんも、こういったチャレンジングでおもしろい試みが大好きですし、日本の伝統にスポットライトをあてるという中田さんの活動にも共感されていらっしゃる。日本酒が好きというのも、引き受けてくださった理由かもしれませんが(笑)。

麻魚 日本酒をキーワードに、「やるぞ!」と声を掛けたら「よっしゃ!」って、一肌脱ごうという人たちが集まってくださった感じですね。日本酒、そして、このイベントの魅力を、改めて思い知らされた気がします。みなさん、会期中は毎日足を運ぶと、今から楽しみにしていらっしゃるんですよ。

真宏 僕も、晩酌は日本酒ですからね。もちろん毎日通うつもりです。

日本酒だけでなく空間においても、日本の伝統や文化の素晴らしさ、そして、未来への希望が感じられる「CRAFT SAKE WEEK 2025」。日本の魅力を再発見しに、足を運んではいかがだろうか。

CRAFT SAKE WEEK 2025 at ROPPONGI HILLS

日時|2025年4月18日(金)~29日(火・祝)15:00〜22:00(L.O.21:30)、土曜・日曜・祝日12:00〜21:00(L.O.20:30)

場所|六本木ヒルズアリーナ(東京都港区六本木6-9-1)

テーマ
18日「泡の幕開け」
19日「SAKEテロワール」
20日「進化する伝統」
21日「SAKEの自由形」
22日「SAKE TRIP」
23日「歴史が醸す一献」
24日「新風SAKE」
25日「SAKE DIVERSITY」
26日「SAKEレジェンド」
27日「ジューシーフレッ酒」
28日「職人が愛するSAKE」
29日「チーム十四代」

料金|スターターセット ¥4,200(オリジナル酒器グラス+飲食用コイン12枚)
※2回目以降の来場の際は、スターターキットの酒器グラスを持参すると、追加コイン購入のみで楽しめる。

公式サイトhttp://craftsakeweek.com

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=菊池陽一郎

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