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2025.02.15

女子アナが広報として駆け回る!?  元地方局アナ社長が生み出したセカンドキャリアの形とは

女子アナ経験者が、企業の広報を請け負う「女子アナ広報室」を手がけるトークナビ。彼女たちが請け負ったプロジェクトは軒並みメディアに取り上げられ、広報としての成果を出し続けているという。広報×女子アナという発想はどこから生まれたのか、代表アナウンサーの樋田(といだ)かおりさんに訊いた。

トークナビ代表アナウンサーの樋田かおりさん

言葉に長けたアナウンサーの“ビジネス力”を活かす

商品やサービスに自信はあるけれど、どうそれをPRしていいかわからない。人員が足りず広報専任でスタッフを配置することができない……。サービスや商品を提供する多くの企業が、少なからず頭を悩ませているのが「広報」。コミュニケーション能力があり明るく聡明、商品のことを理解してくれ、さらにメディアとのつながりもある人物がこの広報を担ってくれたら、どれだけ商品や企業のイメージを上げられることか……。例えば女子アナみたいな人に……。なんていう、企業の願いとわがままを叶えてくれるサービスが、実は2019年から発足していたのをご存知だろうか。

それが、かつてテレビ局でアナウンサーとして勤務していた経験のある女性たちが企業の広報代行を行う「女子アナ広報室」だ。

「アナウンサーは日々リサーチを重ねながら、取材相手にインタビューをしていく仕事でもあります。基本的にみなさんリサーチ力と取材力があり、企業やその商品・サービスの魅力を深掘りすることに長けている。またメディアで働いていた経験者でもあり、どんな言葉で商品をプレゼンすると伝わりやすいのか、その感覚を備えている人が多いのです」

とは、発足から約5年で2000件以上の商品、サービス、企業広報のメディア実績を持つこの「女子アナ広報室」の発案者であり、トークナビの代表取締役アナウンサー・樋田かおりさん。青森放送でアナウンサーとしてのキャリアをスタートし、フリーに転身したのち、2015年に28歳でトークナビを立ち上げた。

トークナビ代表アナウンサーの樋田かおりさん
樋田かおり/Kaori Toida
1985年岐阜県生まれ。大学在学中からフリーアナウンサーとして活動したのち、青森放送に入社。名古屋での局アナ生活を経てフリーランスに転身し『TBSニュースバード』のキャスターなどを務めた。2015年にトークナビ設立。2019年より「女子アナ広報室」のビジネスをスタート。設立5年で2000件以上の広報実績を持つ。著書に『社長の伝え方には会社を変える力がある』(青春出版社)などがある。

「テレビ局を退職後もアナウンサーとしての仕事を続けたい場合、フリーとしてアナウンサー事務所や芸能事務所に所属しようと考える人が多いです。一方で私は、仕事をいただけるのを事務所で待つより、自分で動いてさまざまな仕事を生み出せる場が欲しかった。さらにそれが、いつか仲間であるアナウンサー経験者のセカンドキャリアの場になればいい、そう思ってトークナビを起業しました」

事業を起こした当初は、経営者などに向けて「話し方研修」を行うビジネスを主に、登録してくれたフリーアナウンサーたちにイベント司会やメディアへの出演依頼を割り振っていたという。

「けれど、話し方講師の仕事もメディア出演依頼も、やはり人気のある人にどうしても集中します。うちに登録しているけれど、どうしても仕事が来ない人たちもいて、これはどうにかしなければいけないと思ったんです」

当時、トークナビに所属アナウンサーとして登録するには「テレビ局に勤めていてアナウンス業務に携わっていた経験があること」という条件があった。しかしアナウンサー経験者といっても、実は人によって行ってきた業務はそれぞれ。ニュースからバラエティ番組まで幅広く出役として出演してきた人もいれば、制作と兼務し自分で書いた原稿を自分で読む、という作り手サイドの人もいた。

「テレビ局にいた頃に番組の企画・構成をしていて、週に1度程度、自分が取材したことをカメラの前で話す、という制作兼リポーターの仕事をしていた人たちもいます。彼女たちは話すことよりも、企画や取材が得意で、話し方講師やイベントの司会業よりももっと輝ける場所があるはず。この貴重な人材が能力と経験を発揮できる場所はどこだろうと考え、広報に行き着いたんです」

アンモニアと靴下を持って、女子アナがプレゼン

商品やサービスがどんな思いでつくられ、どんなふうに魅力的なものなのか。どういう人たちにこそ、その商品やサービスが必要なのか。徹底的に取材をし、それを自分の言葉で人に伝える。広報とアナウンサーは、実は近いのではないか。樋田さんはそう考えた。

「『アナウンサー』というのは『アナウンスする人』。ニュースだけではなくて、商品の魅力をアナウンスする人、伝える人にもなれるはずだと。ですからまずは、登録メンバーに『広報をやってみないか』と伝えました。最初は『できるはずがない』と消極的なメンバーが多かったんですよね」

アナウンサーという仕事にプライドを持っているからこそ、それ以外の仕事には消極的になってしまう。そんなメンバーが多く、当初はなかなかこの「女子アナ広報室」に人は集まらなかったという。けれど樋田さんは、それぞれの経歴がどう新しい仕事に生きるのか、ひとりひとりを説得。「それなら挑戦してみたい」と集まったメンバーとともに、広報の研修を受け、さまざまな企業を周り営業、同時にメディアへの売り込みやリサーチを重ねた。メディアにクライアントの案件を掲載してもらうため、あらゆるテレビや新聞、雑誌も日々細かくチェック。どの番組や雑誌にどんなコーナーがあり、担当者は誰で、どういう情報を求めているのか、リストも作っていった。

「ある時は『消臭力が高くて、長時間履いても臭わない靴下』という商品の広報を任せていただきました。どうPRするべきか悩んでいた時、メンバーのひとりが『そういえば、テレビ局のADさんが3日ほど局に泊まり込んでいるのを見たことがある』と思い出し、さっそくテレビ局に売り込みのアポイントメントをとったんです。その際に考えたキャッチコピーは『3日間履いても臭わない靴下』。案の定、泊まり込んだことのあるテレビマンに刺さり、アポが通りました。そのプレゼンの際は、実際にアンモニアを持っていき、それを局員の方の目の前で靴下に塗り込んでから嗅いでもらいました。『臭わない!』と感動していただき、各メディアで取り上げていただくことができたんです」

かつてテレビ番組を作っていたアナウンサーだからこそ、テレビの特性を知り、プレスリリースの文言だけではなく、目の前で実演してみせる映像的なエンタメ性もプレゼンに盛り込めたのだろう。

どんな言葉と声で相手の心を掴むか。アナウンサーたちにとって広報とは、それまで培ってきた能力を最大限活かせる場所でもあったのだ。 そうして、メンバーそれぞれが経験値を上げ、広報を担当しているサービスや企業のメディア露出は増えていき、サービス開始から5年で2000以上の実績をつくるまでに至った。

トークナビ代表アナウンサーの樋田かおり
トークナビには広報室のほか、イベントなどで司会を行う「司会部」、採用の活動や人材の育成をサポートする人事の仕事を女子アナが代行する「人事室」もある。

アナウンサーのまま、新しいキャリアを作る

トークナビは現在70名以上の女子アナ、あるいは声の仕事をしてきた女性スタッフを抱える。それまでアナウンサーとして仕事をしてきた樋田さんは、どのように経営者としての手腕を身につけたのだろう。

「起業当初は、経営とはどういうものなのか、3ヵ月で100人の経営者にインタビュー取材することを自分に課しました。そんなにたくさんの経営者の知り合いはいませんから、取材をさせていただいた経営者の方に知り合いを紹介してもらい、と数珠繋ぎのように続けていったんです」

そうして100人の経営者の経営論を直接取材し学んでいくと当時に、自社のサービスを売り込み、クライアントとなってくれる企業も増やしていったという。

かつてテレビ局の顔として活動していた華やかさとは裏腹に、泥臭いまでのハングリー精神で今日まで邁進してきた。高校時代にアナウンサーに憧れ、アナウンススクールで学び、青森放送に入社。報道番組、お天気、ラジオなどを担当し、アナウンサー1本で生きてきた樋田さんは、これからもアナウンサーであるために、どうしてもこのビジネスを成功させたかったのだ。

「生涯の仕事だと思ってアナウンサーを選びました。私にとって、生きること=アナウンサーであること。けれどその実、地方局のアナウンサーは3〜5年の契約で、30歳以降はキャリアをつくっていくことが難しくなっていくのが現状です。その状態をなんとかしたい。アナウンサーという職業でいつつ、新しいキャリアを重ねながら、生きていける場所が欲しかったんです」

生涯アナウンサーと決めた樋田さんは、経営者である一方で、依頼があればアナウンサーとしてイベントやメディアに出演、話し方講師としての仕事もする。

「現在、私の名刺に書かれている肩書きは『代表取締役アナウンサー』。経営者/アナウンサー/広報/話し方講師/と、複数の仕事、肩書を同等に/(スラッシュ)で並べられる、『スラッシュキャリア』をこれからも積み重ねていきたいと思っています」

インタビュー後編(2/16公開)では、なぜ女子アナのキャリアは30歳前後までと言われているのか。知られざる女子アナの働き方に迫る。

TEXT=安井桃子

PHOTOGRAPH=田中駿伍(MAETTICO)

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