PERSON

2024.03.08

高橋大輔「旅も人生も“自然”に身をゆだねてみたい」

圧倒的な存在感と世界最高の技術で多くの「日本男子初」を成し遂げてきたプロスケーター高橋大輔が語る理想の旅。そして長きにわたった競技人生という旅を、今改めて振り返る。【特集 エクストリーム旅】

高橋大輔

未開拓の道を歩みを続ける、人生という名のジャーニー

「エクストリームな旅か。地球からは出たくないし、海底も無理だなぁ、ビビりだから(笑)」

今号の特集内容を聞き、そう言って柔らかく笑うのは、日本代表として長く世界で戦ってきたフィギュアスケーターの高橋大輔。バンクーバー五輪で日本人男子初の銅メダルを獲得し、ソチ五輪後に一度引退。その後32歳で現役に復帰をし、アイスダンスに転向したことで世界を驚かせた。そんな彼の印象に残っている旅とは?

「プライベートな旅ではなくお仕事で、郵政民営化のCMに出させていただいた時に訪れたロサンゼルスの塩湖。一面に真っ白な塩が広がっている景色は今までにない経験ですごく感動しました」

高橋大輔
高橋大輔/Daisuke Takahashi
1986年岡山県生まれ。日本男子初の五輪メダリスト、世界ジュニア、世界選手権、グランプリファイナル王者。3度目の五輪出場後に引退。32歳で現役に復帰し、翌年アイスダンスに転向。2023年2度目の引退。現在はプロスケーターとしてアイスショーへの出演、プロデュースなどを行っている。

旅をするなら自然を感じる場所へ

プライベートでも自然を感じる場所が好きだと高橋は言う。

「大学の仲がいいグループで屋久島に行きました。6人くらいで4泊5日、毎日宿を変えての旅。屋久杉を見に行ったんですけど、朝4時半に出て帰ってきたのが午後7時くらい。12時間くらい歩き続けました。山に登る体験がまず初めてで。結構過酷でしたけど、それも楽しかったです。旅をする時はホテルとチケットだけ押さえて、あとはその時の気分で。プライベートでは旅館に泊まることも多いですね。もっと年を取ったら宿でゆっくり過ごす贅沢も楽しめるようになるのかも」

今してみたい究極の旅を聞くと、やはり自然に関する旅が次々と出てきた。

「すごく高い雪山に挑戦してみたいし、オーロラも見に行ってみたい。北極にも行って圧倒的な自然を感じてみたいですね。圧倒されて、人間ってちっぽけだな、と感じると思います。あと、いろんな動物に会いに行く旅もしてみたいですね。珍獣ハンターのロケとかやってみたいです(笑)。巨大コウモリに会ってみたい。コウモリ、可愛くないですか? ライオンとかチーターとかも見てみたいし、とにかく大きい動物が好き。だから巨大動物とか変わった動物に会いに行くエクストリーム旅はしてみたいですね」

二度経験した競技生活はまさにエクストリーム旅

そんな高橋の人生の旅は、決して楽なものではなかった。海外のアスリートは自分の競技生活のことを“Journey(旅)”と表現することがよくある。高橋大輔の現役時代はどんな旅だったのだろうか。

「第一部(一回目の引退まで)と第二部(復帰から二回目の引退まで)では全然違う旅でした。長すぎて話すのが難しいんですけど、旅が始まったなと思ったのは18歳くらいから。それまでは好きの延長で、ただ楽しんでやっていたんですけど、トリノ五輪に行きたいと思い始めてから最初の引退をするまでは常に上を目指すという感じでした。

ニコライ・モロゾフコーチに指導を受けるようになってからは、勘違い、というわけではないけれど、なるべく自信を持とうと意識していました。まぁ、“自信を持て”と、怒られていたからなんだけど(笑)。そこに結果もついてきて、結果が自然と自信につながって。トリノ五輪からバンクーバー五輪までは怪我もあったけど、23歳まではやると決めていたのでずっと突っ走っていました。

その後は怪我と付き合いながら競技の世界にしがみついて過ごし、スケートがしんどいという気持ちで引退。そこからはいろいろな仕事をさせてもらいましたが、自分の中では身動きが取れていない、止まっていた感覚でした。どこに向かっていくのかわからないから、ただそこにいる。で、次の復帰からまた進みだした。そこで昔の自分とは一度区切りをつけ、新しいスタートを切って。そこからはずっと挑戦し続けている感じですね」

紆余曲折の競技生活のなかで、彼の意識を変えたターニングポイントがふたつある。

「まずはバンクーバー五輪。あの景色や気持ちはなかなか経験できないことだと思います。たくさんの方に男子フィギュアスケートを知ってもらえる機会になったと思いますし、大きなターニングポイントになったんじゃないかなと思います。

自分が変わったターニングポイントはトリノ五輪前の世界選手権。日本代表の人数を決める大事な試合で失敗して、代表枠が1枠になってしまって。そこから初めてトリノ五輪に出たいという目標を持って1年を過ごしました。僕の場合、失敗した時のほうがその後のプラスになったり糧になったりしていたなと思います」

本当の意味で、まさにエクストリームな人生の旅を歩んできた高橋。そんな彼のこれからの旅は、あくまでも自然体だ。

「ノープランで行きたいです。最終目標に向かっていくよりは、ふらふらと寄り道をしながら最終的な目標を決めていきたいと思っています」

 

『氷艶2024 ─十字星のキセキ─』
2024年6月8日(土)、9日(日)、10日(月)、11日(火)に横浜アリーナで開催決定。主演・高橋大輔、演出・宮本亞門が再タッグを組み、スペシャルゲストアーティストにゆずを迎え、豪華キャストとともに現代版『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治原作)の世界を氷上で創り上げる。詳細はこちら

高橋大輔着用衣装(1枚目):ジャケット¥291,500、シャツ¥78,100、デニムパンツ¥146,300、ベルト¥79,200(すべてエトロ/エトロ ジャパン TEL:03-3406-2655)

【特集 エクストリーム旅】

この記事はGOETHE 2024年4月号「総力特集:エクストリーム旅」に掲載。▶︎▶︎購入はこちら

TEXT=山本夢子

PHOTOGRAPH=矢吹健巳(W)

STYLING=折原美奈子

HAIR&MAKE-UP=宇田川恵司(heliotrope)

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