幼児に読み・書き・計算はまだ早い。そう唱えるのは、入塾希望者が殺到する名門幼児教室「こぐま会」の代表・久野泰可氏だ。どんな子どもでも賢くなるオリジナルの教育「KUNOメソッド」を世界に広めた久野氏は、現代の親が頼りがちな「幼児教育」に疑問を投げかける。 『子どもが賢くなる75の方法』(2014年刊)の一部を再編集してお届けする。
通信教育・教材・ゲームに効果はあるのか?
成長するにつれ、子どもは少しずつできることが増えていきます。そのひとつひとつに喜び、「もしかしたら才能があるのかもしれない」と期待を寄せるのが、親というものでしょう。
こうした成長の過程で、「幼いうちから我が子の力を伸ばしたい」「賢い子になってほしい」という気持ちが強くなっていくのは、ごく当たり前のことです。
では、どうすれば子どもの力を伸ばし、賢くすることができるのでしょうか。残念ながらこの答えを知っている方は少数です。
我が子を賢くする方法がわからない方が頼りにするのが、さまざまな「幼児教育(または早期教育)」です。特に塾や教室ではなく自宅で効果的な教育ができるという触れ込みの通信教育や、遊びながら勉強になる教材、ゲームなど、巷(ちまた)にはさまざまな「教育法」があふれています。
では、これらの方法は本当に効果があるのでしょうか。
通信教育
毎月届く幼児用の通信教材を取り入れている家庭は多いことでしょう。絵本や知育玩具やDVDなど、幼児の興味を引きつける魅力と工夫に満ちています。幼児期だけでなく小学校、中学校、高校と継続していくものも多く、うまく使えば大きな教育効果が得られそうに思えます。
しかし、当たり前のことながら、それは「うまく使えば」のこと。親子で取り組むようすすめられている課題は手をつけず、DVDやおもちゃばかり使っている、という家庭も多いと聞きます。確かに家事などで手が離せないときに、子どもが1人で何かに熱中してくれるのはありがたいことでしょう。しかし、本来なら親子で会話をしながら取り組むものを、子どもが1人で幼児番組と同じように見ているのでは、あまり意味があるとはいえません。子どもが飽きてしまってそれきり、というのもうなずけます。
高価な教材
「聞くだけ・見るだけで○○がマスターできる」という幼児教材は昔から数多くあります。中でもよく知られているのは、「くり返し聞くことで自然に正しい発音や言い回しをマスターできる」という英会話教材ではないでしょうか。
こうした教材は得てして何十本というセットになっており、何十万円もする高価な教材も珍しくありません。これで値段に見合った効果があれば言うことはないのですが、そううまくいかないのが現実のようです。
「家庭で簡単にできる」と謳われる教材の多くは、たとえ少しずつでも毎日使い続けることをすすめています。しかし、その通りにできるのは残念ながらごく一部。やがてほこりをかぶり、どこかにしまいこまれてしまいます。
「毎日少しずつでも勉強する」ことができれば苦労はありません。教材に取り組む前に、一緒に絵本を読んだり遊んだりするほうが教育効果が高いということを、もっと多くの方に知っていただきたいと思います。
最新の教材──タブレット
パソコンや携帯ゲーム機器を使った幼児向けの教材は今までもたくさんありましたが、最近はその主流がタブレット端末に移ってきたようです。飽きっぽい子どもが夢中になって取り組む姿を見たり、親以上に機能を使いこなしている姿を見ると、これからの時代に不可欠な、最新鋭の教材と思ってしまうかもしれません。
確かにコンピュータを使った教育には未知の可能性があります。しかし、驚くような経験ができたとしても、それはしょせん仮想のものにすぎません。たとえば、タブレット上にある地図をタッチすれば、そこに住む動物や魚がたちどころに現れる図鑑があり、そこで何百もの動物や魚の名前を覚えたとしても、川に入って捕まえた小魚の色や動きを見て感じた驚きに勝るものはありません。それは「2つの色を混ぜる」「箱を分解してみる」という単純な経験でも同じこと。
実体験を通して子どもは学び、賢くなっていくことを、親は忘れてはならないのです。
久野泰可/Yasuyoshi Kuno
1948年静岡生まれ。横浜国立大学教育学科卒業。1972年現代教育科学研究所に勤務。1983年幼児教育実践研究所「こぐま会」の室長を経て、1986年代表に就任。教育者として常に現場に身を置きながら、国内外で講演を行う。約50年に及ぶ教室での実践を通して「ひとりでとっくん」100冊シリーズや、多くの具体物教材・教具を開発。幼児の発達段階をふまえた独自のカリキュラム「KUNOメソッド」は、中国、韓国、ベトナム、シンガポールなど、海外の幼稚園・教室でも導入されている。2012年「KUNOメソッド」を更に広めるべく、幻冬舎と共同でブランド「100てんキッズ」を立ち上げ、商品を開発。著書に『間違いだらけのお受験』『3歳からの「考える力」教育』(ともに講談社)、『「考える力」を伸ばすAI時代に活きる幼児教育』(集英社)など。