ここに2人のトップリーダーが存在する。
1人はWeb広告の代理店業からスタートし、今やメガベンチャーにまで育て上げた経営者。1人は高校サッカーの名将からJリーグの監督に就任し、たった1年でJ2優勝に導いた指導者。サイバーエージェント代表取締役でゼルビア代表の藤田晋氏、FC町田ゼルビア監督の黒田剛氏。2人のリーダーがクロスオーバーした時、ゼルビアの新しい歴史が動き出した。
黒田剛監督への独占インタビューを全3回公開の最終回。【#1】【#2】
「黒田監督はうちのグループ会社の社長になっても結果を出しそうです」
――ゼルビア代表の藤田晋さんは、昇格が決まった試合後の会見で「シーズン前に、1年でJ1に昇格させよう」と黒田監督や原靖フットボールダイレクターと話し合ったと聞きしました。
黒田 やるからにはそこを目指すと話をしましたが、僕は「J1昇格」とは言わないで「J2優勝」と言いました。2位でもいいとかいうマネジメントはしたくないと言ったら、藤田さんに「めちゃくちゃセンスいいですね」と言っていただきました。J1昇格と言わないところがセンスがいいと。
――熊本での会見で藤田さんは「黒田監督は経営者のようなマネジメント能力がある。うちのグループ会社の社長になっても結果を出しそうです」ともおっしゃってました。
黒田 そういうふうに思ってもらえているのならすごく光栄なことです。冗談半分だとは思いますけど(笑)。藤田社長はホーム戦のほとんどは来られていたし、アウェイでも何回か来られて立ち話もしました。それはすごい面白いトライですねとか、こちらがやることに対して素直に喜んでくれて認めてくれるんですよね。本当に心温かい方だと思います。
――オーナーにもいろんな方がいるかと思いますが、監督にとって藤田さんはやりやすかったのでしょうか。
黒田 我々にとっては最高にやりやすかったですね。私はまだこの世界で1年目ですが、チームによってはオーナーが口を出してきたりするところもあると聞いていましたから。こちらを心から信じてくれているのがわかります。カテゴリーは違いますが「青森山田をあそこまで強くし続けてきた人ができないわけがない!」という評価をしていただいて。あれだけの企業をつくり上げた人の勘というのでしょうか。それこそ素晴らしいセンスです。
いくら能力が高くても勝てない指導者はいっぱいいます。組織をつくれない、組織の運営がうまくいかない、またはサッカーをよく知っているからといってマネジメントができるとは限らない…結果が何よりも物語るということを藤田さんは知っていました。
全国大会でも毎年のように勝ち続けている事は普通のマネジメント能力ではないなということを見越して、藤田さんは自分に監督をやって欲しいって言ってくれたのだと。実際に組織をつくってきた人だからこそ強く感じるものがあったのではないでしょうか。
藤田晋の覚悟、黒田剛の覚悟
――藤田さんの覚悟、そして黒田さんからも覚悟を感じます。
黒田 もういい加減、いろんな監督たちのローテーションや、ここをクビになった選手をまた入れてまたクビになってという、こんなローテーションはハッキリ言ってもう意味がないというのが、藤田さんの思いだと思います。外国人監督を呼ぼうが何しようが、今までの常識の範囲内でやっていては、たぶん今の状況は変えられない。だったら思い切ったことをやろうよというのが藤田さんの覚悟であったと思います。
そうでなければ老舗の東京ヴェルディやFC東京みたいな人気チームに肩を並べること、また超えていくことはできません。だからこそ、何か新しいこと、新しい風、普通では選ばないだろうと思う人にチャレンジさせることを覚悟を持ってオファーした。その気持ちや熱意をものすごく感じたので、こういう人に期待されるんだったら自分も覚悟を持ってやってやろうという強い気持ちを持って町田に来ました。
自分は期待されれば絶対に答えるのが信条。期待されないとかプレッシャーのない人生はつまらないです。意識的にそういったプレッシャーの中に自分の身を置きながら、あえて自分で不安材料をつくりながら、結果を出していくのが自分の望む人生なのかもしれません。
リーダーとしての決断と勘
――リーダーとして、数多くの決断の場面を経験されています。上手くいく時の決断とはこうだったなというものはありますか。
黒田 やはり勘じゃないでしょうか。勘というのは今までの経験に基づいています。何の根拠もなく挑戦はできません。あとは自分の勘を信じられるかどうか、後悔しないかどうかということだと思います。勝負ごとで成功など何も保障されてないからこそ、日頃から勝負運を蓄えておく必要があるのです。肝心な時に自分を信じたい。信じられる自分でありたい。それが理想的な自分だと感じています。
――最後に、ひと言いただけますか。
黒田 町田を世界へという言葉があるように、1つステージを上げたことは通過点に過ぎません。J1昇格1年目から頂点を目指すくらいの意気込みと覚悟と準備力を持ってやりたい、そう強く思っています。「東京に町田あり」これが来季のメッセージです。