音数少ないシンプルなロック。ストレートなボーカル。長瀬智也と久保田光太郎に音をどのようにしてつくっているのか訊いた。
さまざまなテイストの音楽が合わさったロック
――1stアルバム『Kode Talkers』はストレートで、飾らないロックですよね。
長瀬 自分たちが好きな音楽をやるといってもいろいろな選択肢があると思う。僕は子供の頃からポップスを歌ってきました。自分たちが満を持してやるバンドでやる音楽が逃げも隠れもしないポップスってところにメッセージがあると思っています。
僕は今までの仕事のなかでいろいろなジャンルの音楽を経験させてもらった。自分の仕事は、どんな仕事だろうがひとつの答えを出さなければなりません。そこに、自分らしさとほんの少しの面白さを生みださなければいけません。だって面白くなかったら観たいとも聴きたいとも思わないもんね。飯で言ったらただ旨い飯をつくって食べてほしいだけ。シンプルです。
――長瀬さんは自分の中に、自分自身の体験と久保田さんから学んだものが共存していると話していますよね。
長瀬 楽器や機材について、光太郎くんからずいぶん学びました。ライヴもふたりでよく観に行った。
久保田 タワー・オブ・パワーやジョン・スコフィールドとか? 挑戦的で、それでいてレイドバック(ゆったり大きくリズムを感じるサウンド)したギターが好きで。
長瀬 さまざまなテイストの音楽を聴くことはけっこう好きで、なにかひとつの音楽に影響されるということはなくて。だから、演奏する時には“〇〇風”にというように、直接的に意識することもありません。テーマや音色もバラバラで。
――確かにKode Talkersからは、ロックだけではなく、ジャズやファンクなどさまざまな音楽を感じます。
久保田 僕は1990年代にロサンゼルスの音楽学校に通っていて、西海岸のさまざまな州で生活していた時期もありました。そういった体験によってアメリカ的ななにかが身体に沁みこんでいるってのはあるかも。
メンバーの人間性が音に表れている
――ボーカル、ギター、ベース、ドラムス、キーボード。Kode Talkersは、シンプルなロックバンドの編成ですよね。
久保田 音は最小限。どうすれば長瀬のボーカルがカッコよく聴こえるかをメンバーみんなで考え抜いて、意見交換を重ねたサウンドになっています。
――楽器の音数が少ないと、長瀬さんの声や歌詞がはっきりと響きますね。楽器の音色も1音1音際立っていると思いました。
久保田 世の中には隙間なく音で埋められた音楽がたくさんありますが、音楽は音と音の間の休符が大切だと思っていて、そこにすべてがあるような気がします。
――小説の行間に読者が自分だけの景色を見るのと同じで、音楽が鳴っていない空白にリスナーが自分だけの景色を見たり物語を描いたりする、と。
久保田 そういうことをきちんと理解しているバンドだと思ってます。
――メンバーはどのように集めたのでしょう。
長瀬 みんな長い付き合いです。いつも一緒にセッションをしているメンバーで。
――長瀬さんが思う理想的なメンバーとは?
長瀬 自然に集まったメンバー。きっと魅力があるから一緒にいるわけだし、そんな人間の演奏に魅力がないわけがないと思います。
久保田 ドラムスの中畑大樹くんとは20年来の付き合い。演奏はタイトです。ベースのFIREはロサンゼルスの音楽学校時代からの仲間です。太く歌うようなラインを演奏します。天才ですよ。キーボードの浦清英くんは’90年代から同じバンドでやっています。ひとつのことを成すのに思慮深い人で、僕が知る限り、ナンバーワンのキーボードプレイヤーでしょう。
Kode Talkersのコアメンバーは長瀬と僕ですが、彼ら3人のおかげでご機嫌なサウンドになりました。
長瀬 大切なのは3人ともとても純粋な心の持ち主であるということ。だから純粋にクリエイトする。音楽が心から好きだから、いいね! というアイデアも生まれてくるんじゃないかと。
音楽による奇跡を体験したい
――Kode Talkersは、ひとつひとつの楽器のボディがしっかり鳴っているのも魅力です。
久保田 楽器そのものの鳴りを大切にしているので、音は加工していません。僕のギターも楽器の音色や響きを変えるエフェクターを使っていません。長瀬がAメロを歌っている時はボリュームを絞って、間奏のギターソロになったらボリュームを上げる。そんな感じです。
――ボリュームを上げ下げするだけとは本当にシンプルですね。
久保田 ギターソロといっても、ギターの音を聴かせるような演奏ではありません。長瀬の歌から引き継いで、いい感じで返す。どんなに複雑なコードでも、耳にはシンプルに響くというのが僕らのやりたいことです。
長瀬 超絶技巧のテクニックではなくて、一度聴いたら忘れられないような。
――テクニックよりもマインド、ハートということですね。
長瀬 僕がもしオペラ歌手だったら声量を上げなくてはいけないし、ビブラートも自在にコントロールできなくてはいけないでしょう。だけど、Kode Talkersはロック。リスナーの胸に響くことがすべて。
久保田 極論を言うと、ピッチのずれすらもカッコよく聴こえる、そんな音楽でしょうか。計らずに生まれる魅力こそ、音楽の宝物だと思っています。
長瀬 否定じゃないんだけど、例えば、筆で描いたイラストをデジタル修正すると僕はつまらなく思える感じが、音楽も同じというか。
――“奇跡”と出合いたいと。
久保田 それです。
長瀬 Kode Talkersの音楽を懐かしいと言ってくれるリスナー、けっこういるんですよ。それはアナログというか、きれいに整えようとしていないからですかね。こういう“化石”みたいなバンドがひとつくらいあってもいいじゃないですか。
Kode Talkers
長瀬智也と久保田光太郎をコアメンバーに、ドラムス、ベース、キーボードを加えた5人編成のロックバンド。長瀬のストレートなボーカルと、久保田が大切にする楽器そのものの鳴りが、リスナーの胸を揺さぶる。2023年6月に1stアルバム『Kode Talkers』を自主レーベル、CHALLENGER RECORDSからリリース。2023年9月から東京と大阪でライヴを予定している。
Instagram:@kodetalkers_official