タイの人気俳優パース・ナクンが日本で活動を開始。彼はなぜ世界的人気作品に出ていながら、日本でのキャリアを望んだのか。連載「NEXT GENERATIONS」
マンガの最新刊を早く読みたい! だから日本語を学んだ
「見ている人を、キュンキュンさせられたらいいです」
擬音語まで使いこなした流暢な日本語で、そう答えたのは、タイで活躍する俳優パース・ナクン。タイのBLドラマに数々出演し、なかでも出演最新作『Kinn Porsche The Series』は、エピソードが配信される度に世界各国でTwitterトレンド1位を獲得するなど世界的な人気を博している。
その彼が、日本での活動を本格的に開始することを決めた。日本でどんな作品に出演したいかという質問に、パースは笑ってそう答えたのだ。
「日本のドラマ『1リットルの涙』を見た時、すごく感情が揺さぶられて。キュンキュンもしたし、悲しい気持ちにもなって、とにかく1エピソードごとに大泣きしていました。ドラマでここまで揺さぶられたのは初めてで。続きは気になるけど、泣きすぎて顔がむくんでしまうから、1日1話以上は見られませんでした(笑)。キュンキュンでも、ワクワクでも、悲しい感情でも怒りでも、いつか自分も、見た人の感情を揺さぶることができたらいいです」
父がオーストラリア人、母がタイ人のハーフで、19歳までオーストラリアで過ごした。
『美少女戦士セーラームーン』や『NARUTO』『ドラゴンボール』など日本のアニメを見て育ち、「原作コミックを原文で読みたい」という一心で、大学では日本語を専攻した。
「オーストラリアではアニメ放送だけで、コミックが出版されていない作品もたくさんあったし、翻訳出版されていても日本で最新号が出てから翻訳されるまで時間がかかります。早く読みたいなら日本語を読めるようになればいいんだ!と」
日本では何歳になっても挑戦できる
20歳で家族とともに母の故郷であるタイに渡った。そこからは、日本語とタイ語を同時進行で学び続け、タイでの芸能活動もスタート。
「僕の母国語は英語ですから、タイ語のセリフはやはり難しいんです。最初はセリフの少ない役や、外国人役でスタートしました。それなりに仕事をいただけるようにはなりましたが、いつか日本で暮らしてみたいなと、ずっと思っていたんです」
世界配信の作品を通し、各国で人気に。日本でもすでにファンクラブが結成され、誕生日にはイベントも開催されるほど、熱狂を生んでいる。それなのに、本人はいたって謙虚だ。
「芸能活動でなくても、他の仕事でも日本に来て働いてみたかったんです。僕は今28歳で、30歳が見えてきています。タイの芸能界では、30歳がとても大きなターニングポイントになるのですが、日本はいくつになっても挑戦できる。だからなるべく早く日本で挑戦しようと決心しました」
日本語を学ぶ外国人に向けて、自身がどう日本語を学んできたのかも40万人の登録者数がいる自身のYouTubeチャンネルで発信、他にも日本のアニメを紹介するなど、その活動は、まるで、世界に向けて日本のPRをしているかのようだ。
「日本語を覚えていくのは楽しいし、オタク活動も好きですから。漫画を読んだり日本のドラマを見たりとにかく楽しく学んでいます。以前は、漢字の書き取りとかも頑張って毎日やっていました。最近はスマホで打つばっかりでもう書けなくなってきましたが、昔は結構難しい漢字も書けたんですよ!」
コンビニのクリームパンが美味しすぎる
半年ほど前から日本とタイを行き来もしてきた、これからの日本での生活に不安はないという。
「僕、すごく筋トレが大好きで、筋肉のためには食事が1番大事だと思っているんです。でも、日本のコンビニに売っているクリームパンが美味しすぎて……。あとお寿司も大好きで食べすぎてしまいます。牛丼も美味しいと聞いて、牛丼屋も先日行ってしまいました……」
あまりに流暢すぎる日本語、そしてそれを伝えると「いやいや」と謙遜する。この彼がオーストラリア育ちの、タイの俳優、ということがにわかには信じられなくなってくる。
「やめてください! 褒められるのがすごく苦手。『お疲れ様、よく頑張ったね』って言われても、『そんなに頑張ってないです』って言っちゃう。だって本当はもっと頑張れるはずだし、僕日本語の勉強も最近サボっているし、もっと頑張ったら、もっとできると思うから……。ストイックとかではないんです、普通に真面目なだけ(笑)」
生真面目なほど謙遜を続けるパース・ナクン。日本での活動を本格的に開始するにあたり、今後いくつもプロジェクトが動き出している。
幾度も国境を超えてきた彼が、これから日本で、どんなふうに羽ばたいていくのか。今から注目していきたい。
総フォロワーは200万人超え! タイの人気俳優パース・ナクンの撮り下ろしカット
■連載「NEXT GENERATIONS」とは
新世代のアーティストやクリエイター、表現者の仕事観に迫る連載。毎回、さまざまな業界で活躍する10~20代の“若手”に、現在の職業にいたった経緯や、今取り組んでいる仕事について、これからの展望などを聞き、それぞれが持つ独自の“仕事論”を紹介する。