日本一のチャンネル登録者数22万人超(2023年6月1日時点)を誇るサッカー戦術分析YouTuber、Leo the football(レオザフットボール)。YouTubeでの戦術分析が人気を博している、彼の理論を一冊にまとめた『蹴球学 名将だけが実践している8つの真理』より、一部抜粋してお届けする。4回目のテーマは、クロス対応について。
日本がW杯で勝ち上がるためにも改善すべきクロス対応
ゴールを背にして前方を見て構える守備の中でも、クロスに対する守備には独特の難しさがある。DFがボール方向に顔を向けると、背中側に隙が生まれやすいからだ。
どうすればクロスを防げるか?
本講義では「ロック」と「T字」の原則について説明する。
FIFAのテクニカルグループの発表によると、カタールW杯の全172得点のうちクロスからの得点数は「45」でした。これはロシアW杯の約2倍の数。クロスは依然として非常に有効な攻撃手段のひとつです。
逆に守備者の視点に立って言うと、クロス対応のディフェンスが失点を減らすうえで非常に大事だということです。
クロス対応についてはセットプレーの守備と同じように、人につくマンツーマン、やられやすい場所を埋めるゾーン、その両者の併用などいろいろな守り方が考案されていますが、そのひとつに「ロック」と「T字」の原則があります。
ロックの原則について
まず「ロック」とは、相手がクロスを上げようとするとき、守備者がボールと自分がマークすべき相手(マーカー)を視野内に入れて守ることです。
▼ロック
ボールとマーカーを同一視野内に入れ、なおかつクロスが上がってきたときにマーカーより先にボールに触れられる位置に立つこと。
クロスのとき、守備者がサイドからクロスを上げる敵だけを見ようとすると、自分がマークすべき相手を見失ってしまいます。逆にマークすべき相手だけを見ようとすると、敵がクロスを蹴る瞬間を見られません。
そこで両者を同時に見られるような体の向きをつくり、同一視野内に収める「ロック」が大事なのです。
具体的な立ち方としては、ボールと自身のマーカーを同一視野に入れられる、マーカーの若干ファー側に立ちます。クロスがマーカーに到達する時間を見越して、相手より先にボールに触れられる位置に立つことが大事です。
もし相手がこちらの背中側に立とうとしてきたら、ステップワークで視野に収めるようにします。ゴールエリアよりファーポスト側に離れるようであれば、手を伸ばして相手の体を触って位置を掴むようにします。視覚が無理なら触覚という考え方。これを「タッチ」と呼んでいます。
ただし、いくらDFラインでうまく相手を「ロック」したとしても、ボールが移動している間に寄せきれないエリアが出てきます。DFラインの前のスペースです。
それを抑えるための立ち位置が「T字」です。
T字の原則について
▼T字
DFラインの選手が相手をロックしたうえで、その前のスペースに他の守備者が立つこと。「T」の横棒にいる選手が相手をロックし、「T」の縦棒にいる選手がスペースを埋めるイメージ。
「T」の縦棒にいる選手(基本的にボランチ)があらかじめDFライン前のスペースを埋めているので、こぼれ球にも反応しやすく、マイナスのクロスにも対応しやすい配置になっています。
クロスポイントについて
ここまで守備のクロス対応において「どこを抑えるべきか」を話してきましたが、このノウハウはそのまま自分たちの攻撃時のクロスに転用できます。「守備側が抑えるべきところ」=「攻撃側が狙うべきところ」だからです。
クロスを上げる際に狙うべきはDFの死角のスペースです。これを僕は「クロスポイント」と呼んでいます。
相手が4バックであれば、上の図のように合計4つの「クロスポイント」ができます。ボールと走り込む選手が、そのポイントで待ち合わせをするイメージです。
ただし、一番ニアのクロスポイントは角度的にヘディングで合わせても枠に飛ばすのは簡単ではないので優先度は低くなります。
もし相手が「T字」をつくれておらず、DFラインの前が空いていたらマイナスのクロスを入れるチャンスです。
日本代表は過去のW杯において、クロスに苦しめられてきました。
ブラジルW杯のコートジボワール戦では、後半19分、右サイドバックのオーリエがクロスを上げる瞬間、FWのボニーが吉田麻也と森重真人の間でフリーになっており、森重が慌てて体を寄せたものの、ボニーが先に落下点に入ってヘディングで同点弾を決めました。
さらに2分後、再びオーリエがクロスを上げ、今度はジェルビーニョがニアポスト側で長友佑都と吉田の間でフリーになり、ヘディングでそらして逆転弾を流し込みました。日本はどちらの場面でも「ロック」できていなかったんです。
ロシアW杯のベルギー戦では、後半29分、左CKの流れからアザールが左足でクロスを上げると、フェライニが長谷部誠の死角からジャンプして豪快に同点弾を叩き込みました。このとき長谷部は完全にボールウォッチャーになり、背後を確認できていませんでした。
そしてカタールW杯のスペイン戦とクロアチア戦でも、クロスから失点してしまいました。いずれも相手の右サイドからクロスを上げられ、ファーポスト側でフリーになっていた選手にヘディングで決められてしまったのです。
スペイン戦では板倉滉と伊東純也の間でモラタをフリーにしてしまい、クロアチア戦では伊東が近くにいたもののペリシッチのジャンプに反応できませんでした。
日本がW杯で勝ち上がるために改善しなければならない点はたくさんありますが、間違いなくクロス対応はそのひとつです。
【まとめ】
・クロス対応では基本的にボールとマーカーを同一視野に入れる。
・DFライン前のスペースもT字の原則でカバー。
・攻撃目線ではDFの死角とマイナス、すなわちロックとT字の原則が守れていない場所を狙いどころにする。