日本一のチャンネル登録者数22万人超(2023年6月1日時点)を誇るサッカー戦術分析YouTuber、Leo the football(レオザフットボール)。YouTubeでの戦術分析が人気を博している、彼の理論を一冊にまとめた『蹴球学 名将だけが実践している8つの真理』より、一部抜粋してお届けする。3回目のテーマは、3バックと4バック、どっちが強いか。
よく訊かれる質問に答えを出す
4バックと3バック、強いのはどちらか? サッカーファンの間でよく議論になるテーマだろう。たとえばW杯が開催されるたびに、どちらのシステムが主流だったかが話題になる。本講義では両システムのメリットとデメリットを整理し、この論争に決着をつける。
僕が生配信をしているとき、よく訊かれる質問があります。
「4バックと3バック、どちらが強いと思いますか?」
多くの人がそうやって疑問に思っているのは、長らく4バックがオーソドックスだったところに、3バックを使うチームが増えてきたことが関係しているでしょう。
今回は4バックと3バックのメリット・デメリットを紹介して、各チームがそれぞれのシステムを選んでいる理由がわかるようにしたいと思います。
最初に断っておくと、ここで「4バック」、「3バック」というのは守備時の初期配置のことを示しています。
また、「3バック」はウイングバックがDFラインに入って実質的に「5バック」になるのが一般的なので、「3バック」=「5バック」ということを念頭に置いて読み進めてください。
4バックのメリット・デメリット
それでは4バックから始めましょう。
まず4バックと一口に言っても、アンカーを置くか、置かないかで話が変わってくる部分があります。
難易度がより高いのは前者、アンカー1人のみのときです。
なぜならDFラインの前のスペースを、アンカー1人で埋めることが求められるからです。アンカーだけでカバーしきれない場合、センターバックが前に出なければならず、それによってDFラインが乱れやすくなります。
また、アンカーはライン間の「掃除」だけでなく、DFラインにできた穴に降りて、視野を取りづらい中でのプレーも求められます。
カゼミロのような特別な選手がいれば別ですが、なかなかアンカー1人で守備を安定させるのは難しいんですよね。そこでDFラインの前に2人、もしくは3人の守備的MFを置くのが一般的になっています。
たとえばリバプールはファビーニョがアンカーのように思われますが、チアゴ、ファビーニョ、ヘンダーソンの3人がスライドしながら守るので、実際には3センターという言い方の方がしっくりきます。
レアル・マドリーも前からプレスをかけにいくときは、インサイドハーフのモドリッチが前に出て、出なかった方のインサイドハーフがアンカーの選手と2センターを組み、4-4-2のような形になることが多いです。
つまり、初期配置で1アンカーにしていても、実質的には守備的MFが2人以上になっているケースが大きな割合を占めます。
ですので、ここではDFラインの前を2人以上で埋めている4バックを想定したいと思います。
4バックの攻撃面のメリットは大きく2つあります。
4バックの攻撃面メリット①前線のポジションチェンジがしやすい
4-2-3-1のシステムで前線にセンターフォワード、トップ下、両サイドハーフがいて、彼らが大胆なポジションチェンジをしたとしましょう。
そのときボールを失っても3バックほどの混乱は招きにくいです。
なぜなら4バックの場合、前線のポジションにはDFのようなスペシャルな守備力を求められるわけではないので、入れ替わった先で守備をすることになってもやるべきことはあまり変わらないからです。
たとえばセンターフォワードの選手がボールロスト後、一時的に右サイドハーフの位置で守備をすることになっても、全体の守備力に大きな影響はないですよね。
このような理由で、4バックはポジションチェンジをしやすいのが特徴です。
一方、3バックだとそうはいきません。ウイングバックは守備のときにDFラインに入らなければならないからです。
もしウイングバックがペナルティーエリア内に上がってボールロストし、代わりにセンターフォワードがウイングバックになったら、守備力の低下は否めません。そんな状況を起こしてはいけないですよね。
4バックの攻撃面メリット② 可変をしやすい
4バックは3バック(=5バック)よりもDFが1人少ない分、中盤・前線に選手が多いシステムになっています。言い換えれば、テクニカルなキャラクターの選手の数が多くいるわけです。
その特徴を利用しない手はありません。攻撃時にアンカーがセンターバックの間に落ちたり、インサイドハーフがサイドバックとセンターバックの間に移動したりすると、相手を混乱させ、ビルドアップをしやすくなります。
一方、3バックはポジションごとに役割がはっきりしており、4バックより可変が難しくなっています。
センターバックの3人に中盤もできるようなプレス耐性を持つ選手がいることは稀(まれ)で、1列上がってMF的なパスさばきを求めるのは酷です。また、ウイングバックはアップダウンを繰り返す能力が基本で、中央に入って360度の視野でプレーしろと言ってもできる選手は少数派です。
4バックの守備面のメリットは2つです。
4バックの守備面メリット① ボールを中心に布陣したバランスの良い配置
欧州における4バックの一般的な守備は、前線の選手が相手ボランチを抑えながらボールにプレッシャーをかけ、サイドにパスを出させて「同サイド圧縮」で奪うというものです。前線・中盤に人数が多いのでピッチを幅広くカバーできます。
3バックでも「同サイド圧縮」はできますが、たとえば5-2-3で同じやり方の守備をする場合、前線の「FW3人+MF2人」に相当な持久力が求められ、ウイングバックが前に出ていく場合もDFライン5枚全体のスライドが必要になるので、初期配置の持ち場からかなり離れます。
4バックの守備面メリット② 後方が重くならない(カウンターに人数を割ける)
4バックの方が5バックよりもDFラインの人数が少ないので、前方に人を残しやすくなります。すなわちボールを奪ったあとにカウンターにかけられる人数が多くなります。
ちなみに3バックは「カウンターの人数不足」というデメリットを、個人の能力で解決することが多いです。
たとえばアントニオ・コンテが率いていた時代のインテルは、ルカクがパワーでボールをキープしたり、スピードに乗ってサイドに流れたりして、少人数のカウンターを成立させていました。さらにハキミ(現PSG)が右サイドを駆け上がってスピードに厚みを加えていました。
ただし、そういう特別な個人をそろえるにはお金がかかりますから、一般論として4バックの方が、サイドハーフがDFラインに吸収されないのであればカウンター要員を前線に残しやすいというメリットがあります。
では、4バックのデメリットも見ていきましょう。
4バックの攻撃面デメリット/ノープランだと機能性が低い配置になりやすい
4バック最大の問題点は、監督が攻撃に関してノープラン(またはデザイン性が希薄)だと、ボール保持時の配置がめちゃくちゃになってしまうことです。
最もよく起こるのが、両サイドバックが低い位置で張って(サイドフロント)ボールを受けプレスの餌食になる。もしくは両方とも上がって最終ラインがセンターバック2人だけになってしまい、センターバックからサイドバックまでの距離が遠く、パスは出せるもののボールが動いている間に相手に詰められ、サイドバックがプレスにはまってしまうという状況です。
そう、講義2で取り上げたテーマですね。サイドバックがペナ幅に立つというやり方を説明しましたが、残念ながらできている監督は少数派です。
仮に個人のセンスでMFが後方に落ちてパスコースをつくっても、他の選手が連動していなければ中盤の人数が減り、パスが引っかかったときに危険なカウンターを食らいやすくなってしまいます。
4バックの守備面デメリット① サイドバックのクロス対応
DFラインの人数が少ないので、シンプルにDF一人ひとりにかかる負担が大きくなっています。たとえばサイドからクロスを上げられたときに、ファーサイドのサイドバックは味方のセンターバックの背中を守らないといけません。
しかしながら、サイドバックはスピードと運動量を売りにするタイプが多く、高さが売りのタイプは稀です。どうしてもクロス対応で後手に回り、相手の狙いどころになってしまいます。
4バックの守備面デメリット② センターバックの迎撃守備がしづらい
センターバックが前に出て相手を潰すことを「迎撃」と言います。バイタルエリアを守るうえで不可欠なアクションです。
ところが4バックはセンターバックが2人しかいないので、「迎撃」をしたときに他のDFがスライドして絞らないと穴が開いてしまいます。そのため穴ができるのを恐れて、センターバックが「迎撃」を躊躇したり迎撃後に空いたスペースを他の選手がカバーできていなかったりすると、ピンチになってしまう傾向があります。
4バックの守備面デメリット③ フロントエリアの守備が弱いと致命的
センターバックが「迎撃」しないで済むように、なるべく相手にいい形でバイタルエリアを使わせたくありません。そのために必要なのがフロントエリアの守備です。FWがしっかり守備に参加して、フロントエリアで相手に圧力をかけ、ビルドアップを「外回り」にさせることが重要です。
これを実行できなかったのがアンドレア・ピルロ時代のユベントスでした。ピルロはクリスティアーノ・ロナウドと組ませる選手にフロントエリアの守備のタスクを徹底できず、そこを起点にチャンスをつくられてしまったのが10連覇を逃した大きな理由の一つでした。
4バックの場合、フロントエリアの守備が弱いと致命的です。
3バックのメリット・デメリット
こうやって4バックのメリット(デメリット)を整理すると、4バックこそが最強に思えてきますが、当然ながら3バックにもメリットがあります。
すでに4バックとの比較のために3バックのデメリットもいくつか登場させたので、既出のものは簡単に触れるに留めたいと思います。
3バックの攻撃面メリット/5エリアが整理されやすい
「5レーン理論」は場所基準のため、実際に使おうとするといろいろと不都合が起きます。そこで人基準の「5エリア」を定義し、各エリアを攻略する重要性を講義1で説明しました。
3バックの場合、3-4-2-1や3-1-4-2などいろいろなバリエーションがありますが、いずれにしてもウイングバックが大外で高い位置を取り、他の攻撃者3、4人が内側にいるので「5エリア」を埋めやすいシステムになっています。
攻撃のデザインが得意でない監督が、3バックを使った途端にうまくいき出すのは、「5エリア」が整理されて相手の嫌がるところに人が配置され、ボールが配球されるからなんですね。
3バックの守備面メリット① 自陣ゴール前に人数が多い
3バックの守備面メリット② 迎撃守備がしやすい
3バックの守備面メリット③ ハーフゲートを塞ふさぎやすい
5バックという言葉からもわかるように、最大の利点は4バックよりもDFラインの人数が多いことです。
最終局面で崩されづらく、クロス対応もセンターバックが3人いるので跳ね返しやすくなります。
また、DFラインに5人そろっているので、1人がバイタルエリアに飛び出しても他の選手がカバーしやすく、「迎撃」しやすいのが非常に大きなメリットです。
5人が横に並ぶと「ハーフゲート」がおのずと狭くなり、そこへのパスを塞ぎやすくなります。ニアゾーンラン(攻撃者がハーフゲートをフリーランで抜けること。サイドバックの場合はインナーラップとも言う)をされても対応しやすくなります。
3バックの攻撃面デメリット① ポジションチェンジをしづらい
3バックの攻撃面デメリット② 可変をしづらい
すでに書いたように、3バックでは「ウイングバックは大外のアップダウン」、「センターバック3人は後方での守備」というように、ポジションごとに役割がはっきりしています。ですがその分、ポジションチェンジや可変がしづらくなっています。
パスカル・グロスやリコ・ルイスのようにWBでも中盤でもプレーできるタイプがいれば話は別ですが、そういう選手がいるチームは限られていますよね。
3バックの守備面デメリット① ボールを中心にしたバランスの悪さ
3バックの守備面デメリット② 後方が重くなりカウンターに人数を割きづらい
3バックの守備面デメリット③ ラインコントロールが難しい
5バックは5人の息をそろえなければならない分、4バックよりもラインコントロールが難しくなっています。たとえば相手に深くまで攻め込まれてバックパスを出されたときに、5人中4人はラインを上げたのに、1人だけ上げておらず、ギャップが生まれてしまうという現象がよく起きます。そのときクロスを上げられるとオフサイドを取れないため、失点の可能性が高くなってしまいます。カタールW杯のスペイン戦で、まさに日本はそれに似た形からアルバロ・モラタに先制点を決められました。
攻撃側の視点に立てば、5バックの攻略には「横方向の揺さぶり」と「縦方向の揺さぶり」の掛け算が有効なのです。
ここまでにあげた4バックと3バックのメリット・デメリットを上の表にまとめました。
一言でまとめると次の通りです。
・4バック=アドリブと個の力が求められる
・3バック=役割分担がはっきりしている
4バックは攻守において「誰が出て、誰が下がる」といった個人の判断を求められる場面が多く、臨機応変さが必要です。噛み合えばものすごいパワーを生み出しますが、噛み合わないと崩れやすい。
一方、3バックは攻守において「誰が何をするか」という役割がはっきりしており、チームとして形になりやすいです。資金力が乏しくても一芸に秀でた選手を集めて組み合わせれば、一定の機能を持ったチームにできます。
では、スター選手がそろっているチームには、どちらのシステムが向いているでしょう?
もし役割が固定された典型的な3バックをやらせたら、選手の判断を制限する型を選んでいるため反発が起きるのではないでしょうか。現に3バックを愛用するコンテは自由を愛する選手が多いブラジル人と揉めがちですし、ナーゲルスマン(前バイエルン監督)も3バックを使用し出した時期にチーム内で反発が起きたというニュースが出ました。
レアル・マドリーやバイエルン・ミュンヘンが伝統的に4バックをメインにしているのは、この特徴が関係していると思います。
さて最初の問いに戻りましょう。
4バックと3バック、どっちが強いか?
僕の答えは、
「どのチームでも平均的に強くしやすいのが3バック。タレントを有したアドリブ的な感性を尊重する最強チームをつくるのにふさわしいのが4バック」です。
【まとめ】
・3バックは攻守において選手の役割がはっきりしやすい構造になっており、4バックはアドリブが許容しやすい構造になっている。
・選手の質と監督の具体的なプランが求められる4バック。
・選手や監督の質が相対的に劣るチームでも結果につながりやすいのが3バック。