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2023.03.16

新社会人の競泳・池江璃花子「気持ち的にしんどい時期もあった」

競泳女子で2016年リオデジャネイロ五輪、2021年東京五輪代表の池江璃花子が日本大学卒業後の2023年4月1日からタイヤ大手の横浜ゴムと所属契約を結ぶ。白血病による長期療養を経て、2020年8月にレース復帰してから約2年7ヵ月。新社会人として新たな一歩を踏み出す心境に迫った。連載「アスリート・サバイブル」とは……

競泳・池江璃花子

綾瀬はるかもエール

2023年3月6日。都内で開かれた「横浜ゴム所属発表会」。

爽やかなピンクベージュのパンツスーツで姿を現した池江璃花子は「企業と個人で別々ではありますが、一緒に世界のトップを目指していきたい。高校生の頃から言っていますが、人間としても成長したい。横浜ゴムのタイヤのような粘り強い選手、人になっていけたらと思います」と語った。

決意表明のなかで、新たな所属先の主力商品であるタイヤをアピール。大学生とは思えない配慮だった。

配属先は経営企画部広報室。雇用契約ではないが、池江の希望もあり日程が許せば、新人研修などにも参加する可能性がある。会見には新卒研修講師も登場し、池江は名刺交換の作法を学んだ。

自身の所属先を告げる言葉に詰まったり、表情が硬かったりし、何度もやり直しを命じられ「カミカミで申し訳なかった」と苦笑い。「水泳選手をメインに活動することが多いと思うが、社会人1年目として社会のことを学んでいきたい」と視線を上げ、今後はワインのソムリエ資格取得にも意欲を見せた。

所属発表会に同席した横浜ゴムの山石昌孝社長は「困難を乗り越え、新たに夢に向かって挑戦し続ける池江選手の姿に深く共感し、サポートすることを決定しました」と説明。

同社は1917年創業。タイヤなどを製造、販売し「ヨコハマタイヤ」のブランド名で知られる。タイヤ販売額シェアは国内でブリヂストン、住友ゴムに次ぐ3位で、世界では8位。ゴルフ関連商品なども手がける。

2015~2020年にはサッカー英プレミアリーグの強豪チェルシーと胸スポンサー契約。個人の所属契約は池江が初めてだ。過去のタイヤメーカーと競泳選手の契約では萩野公介がブリヂストンに所属した例がある。

池江は2023年3月8日にはブランドアンバサダーを務めるSK-IIのイベントに出席した。2019年から同社の化粧品を使用する池江の肌年齢を測定すると、肌年齢は驚異の15歳。新社会人生活を前に、共演した女優の綾瀬はるかから「その瞬間、その瞬間、自分が前向きになれる選択をして楽しんでほしい」とエールを送られた。

練習拠点は現在の所属先であるルネサンスで変わらない。社会人としての初戦は2023年4月4日開幕の日本選手権(東京アクアティクスセンター)で、2023年7月に福岡で開催される世界選手権の代表選考会を兼ねる。白血病から復帰後初の世界舞台となった東京五輪はリレー種目のみの出場。2022年は世界選手権(ブダペスト)の出場権を逃しており、2017年世界選手権(ブダペスト)以来の個人種目での世界切符を懸けた大会となる。

2022年は記録が伸びず、数ヵ月前まで苦悩の日々を送っていた。2023年1月に出場した東京都新春競技会後には「思っている以上に病気の影響が大きく、戻れているように見えて実は戻れていない。速くなりたい、強くなりたいと思えば思うほどうまくいかず、空回りがずっと続いている」と弱音も吐いた。

だが、日本選手権が迫るにつれ、心身ともに調子は上向いている。所属発表会では「今はすごくいいトレーニングができている。気持ち的にしんどい時期もあったけど、気持ちも整ってきて、調子も上がっている。日本選手権に向けてワクワク、楽しみな気持ちが大きくなっている」と語った。レースのタイムや結果にとらわれすぎず、目の前の練習をクリアしていくことで自信を取り戻しつつある。

2020年7月に開催された東京五輪開幕1年前イベントでは、聖火を灯したランタンを掲げ、世界にメッセージを発信する大役を担った。白血病から復帰したことで注目度が増し、重圧に苦しんだ時期もあったが、今の池江からは人生を楽しもうという前向きな気持ちが伝わってくる。2024年パリ五輪へ。今季は泳げる喜びを噛みしめながら、新社会人らしいフレッシュな気持ちでスタート台に立つ。

池江璃花子/Rikako Ikee
2000年7月4日東京都生まれ。東京・淑徳巣鴨高校から日本大学へ進学。2023年春に日本大学を卒業して横浜ゴムと所属契約を結ぶ。2016年リオデジャネイロ五輪は女子100mバタフライで5位。2018年アジア大会6冠。2019年2月に白血病を公表。闘病生活を経て、2020年8月に実戦復帰した。2021年東京五輪は女子400mリレー8位、混合400mリレーに9位。身長1m71cm。

 
■連載「アスリート・サバイブル」とは……
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連載「アスリート・サバイブル」

時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。

TEXT=木本新也

PHOTOGRAPH=YUTAKA/アフロスポーツ

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