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2023.02.23

ブーム沸騰中! 生みの親・小山薫堂に聞いた「湯道って何?」

「湯道とは作法にあらず、湯に向かう姿勢なり」。風呂が大好きな小山薫堂さんが提唱する湯道が今、映画になって本になって世の中をホッコリ温め中! 小山さんはどのように湯の道を拓いたのか、何を伝えたいのか、その神髄とは――。たかが風呂、されど風呂。「やっぱりいいなぁ、風呂は!」。

湯道家元 小山薫堂氏

湯道家元 小山薫堂
放送作家・脚本家。1964年熊本県生まれ。大学在学中に放送作家としての活動を開始し、これまでに斬新な番組を数多く企画・構成。くまモンの生みの親としても知られる。現在、公開中の映画『湯道』では、企画・脚本を手がけた。

日本ならではの入浴の精神を突き詰める

湯の道は京都から始まっている――。

湯道の提唱者であり初代家元の小山薫堂さんは、東京の大学生だった頃から京都の街に足繁く通っていた。「街に自分の足跡を残したい」と思い、とあるバーにボトルキープをしていたほど、京都やそこに根付く文化に強く惹かれていたのだという。年齢を重ねてからもそれは変わらず、知らないことを教えてくれる人がいて、豊かな文化の土壌が広がる京都は、居心地がよく、刺激をくれる場所だった。

2012年には縁が繋がり、160年以上続く京都の料亭・下鴨茶寮を受け継ぐことになった。そこで茶道に触れるうちに、あるアイデアが浮かんだ。それは、自分が大好きな“入浴”を道にすることはできないか、というものだった。飲めるほどに綺麗な水を沸かし、それに浸かる。日本で暮らしていると何てことはない日常のひとつだが、実はこのうえなく稀有で贅沢なことでもある。茶を点(た)てて飲むという行為を高め、茶道という文化に昇華したように、日本ならではの“入浴”の精神と様式を突き詰めれば、それも道になるのではないか――。

そして、京都・大徳寺真珠庵の第27世住職である山田宗正(そうしょう)さんに相談をしながら構想を固め、「湯道温心」という言葉を賜り、2015年に湯道の歴史は始まった。「もしも、ずっと東京にいる暮らしだったら、湯道を始めようとは思わなかったかもしれない」と、小山さんは言う。古い文化と新しい文化が心地よく共存する京都という街で時間を過ごしたからこそ、自身も新しい道を築こうと後押しをされたのだ。

湯道の精神を日本の文化として発信

京都で生まれた湯道は、ゆっくりと広がりを見せていく。由緒ある旅館の温泉から新築のホテルのスパ、そして町に唯一残る銭湯や、所有者が不明な野湯まで……気になる湯があれば、場所や知名度は関係なく、どこへでも小山さんは足を運んだ。湯道の家元として、そしてひとりの風呂好きとして湯に浸かり、楽しみ、その魅力を発信していく。精神の核にあるのは、「感謝の念を抱く」「慮(おもんぱか)る心を培う」「自己を磨く」。大仰な作法や決まりにこだわることなく、湯を慈しみ、ありのままの自分と向き合うことが、湯の道を進むということだった。

やがて、その精神を体現した湯室「おゆのみや」が宮崎フェニックス・シーガイア・リゾートにオープンしたり、タオルや桶などの「湯道具」を伝統工芸の職人たちとともに制作したりと、湯道の考えに共鳴してくれる仲間も増えていった。

2017年には仲間を海の向こうにも増やす機会を得た。世界最大級の家具見本市である「ミラノサローネ」にて、日本の伝統工芸の技術によって生まれた湯道具の展示と、日本の入浴文化や精神性を説く講演の場が設けられたのだ。その後は台湾でも講演を行うなど、日本の入浴文化を世界に伝えたいという小山さんの想いは、少しずつ形になっていった。

そして2018年からは映画『湯道』の企画が動き始める。湯道の精神、そして日本の風呂文化の素晴らしさを伝えるためのエンターテインメント作品を手がけられるのは、小山さんにとって願ってもないことだった。鈴木雅之監督をはじめ、スタッフたちと全国の温泉や銭湯のロケハンを重ね、地方都市の小さな銭湯を舞台に置いた、さまざまな人間ドラマが交差する物語を小山さんは温めていった。ちなみに映画の舞台となるのは架空の街だが、京都や長崎など、親しみのある場所をモデルにしている。

映画の誕生は通過点のひとつ

湯道の誕生から7年が経ち、映画の公開を3ヵ月後に控えた2022年の秋、湯道はまた新たな局面を迎えた。湯道文化振興会によって、入浴に関する文化的な取り組みに光を当てる「湯道文化賞」が創設されたのだ。

11月3日に、大徳寺真珠庵で初代受賞者6名と1団体の表彰式が行われた。湯道文化賞には「亀の井別荘」の中谷健太郎さんと「由布院 玉の湯」の溝口薫平さん。湯道特別賞は出羽三山 奥宮・湯殿山神社本宮と、銭湯絵師の丸山清人さん。湯道創造賞には「小杉湯」の平松佑介さん。湯道工芸賞には中川木工芸の中川周士さん。湯道貢献賞には、ノーリツ創業者で名誉会長の故・太田敏郎さんが選ばれた。

表彰式のあとには、小山さん主催の「湯会」が執り行われた。茶会ならぬ湯会とは、浴室に人を招き、交代で風呂に浸かりながら食事やお喋りに興じる会のこと。小山さんは日頃から、自宅の浴室で湯会を開き、人をもてなすこともあるという。この時、会場となったのは京都の某所。竹やぶのなかに特別に誂(あつら)えられた「はじまりの湯」で、井戸水を沸かして湯をつくった。参加者は、引いたくじの順番に入浴し、その合間に宴会に興じた。湯に浸かると心も解けるのか、和気あいあいとしながらも和やかに時は過ぎていった。

この湯会は小山さんにとっても忘れられない時間になった。会がお開きになったあとに、その日出会ったばかりの参加者たちが肩を並べ、“二次会”と称して近所の銭湯へ仲良く足を運ぶ姿があったのだ。その光景を見て、小山さんは大きな満足感に満たされたという。「湯には身体を温めるだけではなく、心を温め、そして人と人を繋ぐ力がある。風呂の見方を少し変えると、幸福を創造する装置になる」

湯道が開かれておよそ8年。映画『湯道』の誕生は集大成ではなく、あくまでも通過点のひとつ。初代家元である小山さんは、自分の代で湯道を極めようとは思っていない。それこそ今後数百年、茶道や華道のようにその道を愛し、精進してくれる人々が志を受け継ぎ、文化を育んでくれることを祈っている。

時を経てもきっと変わらないのは、日々の入浴を楽しむことは「幸せ」に繋がるということ。湯の道は、風呂を愛するすべての人が極めることができるのである。

湯道とは……

1.湯への感謝、湯への姿勢
2.湯を慈しみ、自分と向き合うこと
3.身体だけでなく、心も温めてくれるもの
4.人の視点を変え、幸福を創造する装置
5.人と繋がり、幸せと繋がるもの

映画『湯道』

映画『湯道』
『おくりびと』小山薫堂×『マスカレード』シリーズ製作陣×超豪華出演者が贈る、“湯”一無二の完全オリジナル「お風呂エンタメ」。出演は生田斗真、濱田岳、橋本環奈、小日向文世、吉田鋼太郎、窪田正孝ほか。監督は鈴木雅之。現在公開中。
©2023年映画「湯道」製作委員会

『湯道』の本と銭湯

ノベライズ『湯道』
¥660 幻冬舎文庫
原作・小山薫堂による映画『湯道』のノベライズ。映画のストーリーが、三浦史朗、秋山いづみ、梶斎秋、横山正の4人の登場人物の視点で描かれる。笑って泣いて心が整う感動の物語。

TEXT=加藤茶子

PHOTOGRAPH=筒井義昭

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