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2022.12.10

岡崎慎司が語る「中村俊輔」の凄さ。想像もつかない日本代表10番の重み

26年に及んだ現役引退を決意した中村俊輔。2008年に上梓した『察知力』は20万部を超える大ヒットとなり、多くのフットボーラーに影響を与えている。その一人、現在ベルギー・シント=トロイデンVVでプレーする岡崎慎司選手に、「中村俊輔」の知られざる素顔を聞いた。

岡崎と中村

俊さんには『俺はできなかった』と言ってほしくない!

――中村俊輔さんは、イタリア、スコットランドで活躍し、2009年夏に念願といわれたスペイン移籍を果たしましたが、先発定着には至らず2010年32歳でJリーグに復帰しました。岡崎慎司選手は36歳の今もヨーロッパでプレーしていますが、そのことについて、俊輔さんから褒めてもらったことはありますか?
「直接褒めてもらったことはないですけど、俊さんは海外でプレーしている選手に対して、すごくリスペクトしてくれるんです。それは僕に限らず、どんな選手に対してもそうです。その姿勢がスゴいと思うんですよ。俊さんは半年でスペインを去ることになったから、『僕は居続けられなかった』という想いがあるからかもしれない。でも、僕の考えとしては俊さんには『俺はできなかった』というふうには言ってほしくなくて」

――スペイン時代に俊輔さんは「僕とスペイン人は似ているから、同じ力ならスペインで育ったスペインサッカーに適したフィジカルを持っているスペイン人を起用することも理解できる」と話していたことがあります。
「僕もスペインでプレーしていたのでわかるんですが、やっぱり日本人選手というだけで、欧州や南米の選手とは違う扱いを受けることがあるんです。それはスペインに限らず、ヨーロッパでは常に日本人は『お前はできるのか?』と試されている。アジア人というだけで、理不尽な扱いも受けるし、そういう難しさもある。それでも僕らプレーヤーは、そういう環境を言い訳にはしたくないし、俊さんもそれはしない。だからこそ、潔くダメだったと認められるんだとも思うんです」

――次の場所で生きていくうえでは、そうやって切り替えていく力も必要なんでしょうね。
「はい。それも理解できるけれど、そういう人種の壁とかを抜きにして、本当は『やれたかどうか』というのを訊いてみたいなと思います。謙遜抜きで。実際、イタリア時代の映像を見てもすごい選手だから。セルティック時代のチャンピオンリーグもそうだし、スペインでも劣っていたとは僕は思わないから。謙虚な俊さんも素晴らしいけれど、日本人でもこれだけやれるというのを見せてきた人だと思うので、そういうところをもっと言ってほしいなと思うんですよね」

――悔しさがあるからこそ、続く世代をリスペクトできるんでしょうね。
「たとえば、ワールドカップでも苦しい思い出がたくさんあると思うんですよね」

――俊輔さんは、2002年はメンバーから外れ、2006年はグループステージで敗退。そして、満を持してと挑んだ2010年大会では、直前に先発から外れました。当時の俊輔さんをどのように見ていましたか?
「僕自身、正直なところ初めてのワールドカップで必死だったので、余裕はなかったです。のちに、俊さんからそのときの話を聞くことがあって、俊さんの日本代表に対する想いを知りました。そのとき、僕は日本代表でプレーしていたけれど、俊さんのような気持ちでサッカーはしていなかったなと痛感しました」

――2010年のワールドカップは地獄だったという話をされていますよね。
「それは、俊さんの日本代表に対する気持ちの強さの表れなんだと思います。南アフリカ大会に限った話じゃないんですよね。日本代表はどういうチームで、若手だろうとベテランだろうと、どういう立場であれ、日本代表でプレーすることの意味が僕とは違ったんです。俊さんが日本代表の10番を背負ってプレーするというのは、担っているものが違う。僕はその話を聞いて、自分はそういうタイプじゃないし、背負いたいとか背負えるとは思わなかったけれど、中村俊輔の生き方はすごいなと感じました。日本代表の10番ってそこまでの重さなのかと」

――日本代表としての責任みたいなものは岡崎選手からも感じますが。
「もちろん責任は痛感しています。でも、キャリアとしては、クラブが一番で、代表は選ばれたら頑張るというのが僕の意識でした。でも、俊さんは選ばれるのは当然だし、代表のピッチで結果に繋がる仕事をし、一番目立たなくちゃいけない。活躍しなくちゃいけないと当たり前のように話す。そう言い切れるというのはそれだけですごいし、きっと失敗は許されないというような使命感があるんだと思います。それは僕には想像もつかないものです」

2010年W杯。俊さんはいろんなものを押し殺し、普通じゃないことをやっていた

――だからこそ、スペインから日本へ戻る決断に至ったのかもしれませんね。しかし、2010年の大会前には負傷がありながらも、試合に出場。でも壮行試合の韓国戦で敗れて以降、先発を外されたわけですからね。
「僕も先発を外れましたが、僕ら控えの選手が感じる気持ちと、俊さんの感情はまったく異なるだろうし、悔しさや居心地の悪さは想像もできないですね。チームを盛り上げていくという行為ひとつとっても、僕がそれをやるのと、俊さんがやるのとでは全然違うものがあったと思います。それでも当時の僕は俊さんのそんな苦悩を感じることはなかったし、そういうものを押し殺して、普通じゃないことをあの人はやっていたんですよね。このときの話は美談になっていて、俊さんの『地獄だった』という言葉でも有名ですけど、みんなが感じる何倍も地獄だったと思うんです。『あのときあそこで頑張れたのは、自分にとって大きな経験だった』という俊さんの言葉も、本当に本心から出たもので、綺麗事じゃないなと。そう考えると、改めて尊敬できる人だと思います」

――そういう俊輔さんの話を聞いて、岡崎選手の代表への想いは変わりましたか?
「俺はそうはなれないと感じました。ここまで、日本代表への気持ちは強いけど、自分の心が崩れそうになるくらい、追い込んだことはないなと。だから、今の代表選手や代表を目指す人たちに俊さんと同じようにというつもりもないし、誰もができることじゃないから。でも、そういう先輩がいたということを知ってほしいですね」

――日本代表に選ばれることの光栄さと、同時にそこでの責任の重さを感じるのは、選手の力にもなると思いますか?
「思います。結局俊さんもそういう重責を背負いながら戦えたのは、やりがいがあったからだと思うので。実際アジアカップとか、俊さんが輝いた大会や試合もたくさんあるから」

――岡崎選手も今回のカタール大会出場を目標にしていたんですよね。
「はい。初めて、元日本代表として代表を追いかけました。本当に呼ばれるかわからないなかで、過ごした4年間でした。ロシア大会が終わったあと、スペイン2部へ移籍しました。1部に昇格し、活躍してイタリアへ行って……とビジョンを描きました。その通りに1部への昇格を果たしたけれど、その後は2部に降格し、移籍も経験しました。それでも試合出場機会が減って、折れそうなこともあったけど、それでもワールドカップという目標は揺るがなかった。それがあったからこそ、妥協せずに過ごせたと思っています。結果、メンバーには選ばれなかったけれど、個の経験は自分にとっての糧になったと思っています。ただ、今までずっとワールドカップという目標をモチベーションとして来たからこそ、それがなくなった今、これから何をモチベーションにしようかと考えているところではあります」

――俊輔さんはワールドカップ以降、12年間も現役を続けてきましたよ。
「そうですよね。僕はまだ日本へ戻るという気持ちにはなっていないので、このままヨーロッパでやり続けるのもひとつのモチベーションにできるかなと思っています」

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岡崎慎司/Shinji Okazaki
1986年兵庫県生まれ。2018年、ロシアワールドカップのメンバーに選出され、W杯3大会連続出場を果たす。2019年、キリンチャレンジカップのメンバーに選出され、森保体制での代表初招集。コパ・アメリカ2019のメンバーにも選出された。国際Aマッチ 115試合 50得点。現在はベルギー・シントトロイデンに所属。

TEXT=寺野典子

PHOTOGRAPH=ロイター/アフロ

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