ワインのない人生なんて、血の通ってない人生だ! 経営者やクリエイターが愛してやまない偏愛ワインを紹介する。【特集 情熱の酒】
つくり手の顔が見えるものに共感を覚えます
「ソムリエもうちの商売も、商品の魅力を伝える職人であるという点は同じ。その1本のワインの背景にあるストーリーを聞くことで、さらに美味しく感じられる。やはりそういう商いを心がけなきゃいけないと気づかせてくれるんです」
東京銀座の呉服店、銀座もとじの2代目である泉二啓太氏は、再開発プロジェクトによって賑わいをみせる日本橋兜町にあるいきつけのビストロ「Neki」のカウンターでそう話し始めた。
そもそもワインとの出会いは、高校卒業後にファッションを学ぶためにロンドン、そしてパリで延べ6年間を過ごした留学期間中のことだった。
「イギリスにいた時に、よく飲むものといえば紅茶とビールだったのが、フランスへ移ると自然とカフェオレとワインに変わっていったんです。外食をしても、友人のハウスパーティに招かれても、出てくるものはワインがほとんど。でも産地や葡萄の品種、製造方法なんて、当時は正直何も知りませんでしたね」
帰国後、かつて銀座にあった小さなビストロとの出会いから深くワインに傾倒するように。
「ご夫婦で営む小さな店に、とあるご縁で通うようになりました。当初はまだナチュラルワインという言葉も知らなくて、ただお薦めを飲んでいただけですけど、ソムリエの奥さんが、例えば『このつくり手はすごくストイックな人で火山性の土にこだわって、わざわざ山の斜面に畑を拓いて、有機栽培で肥料も与えず、選果に漏れた実は畑にかえし肥料にするなど、徹底した自然循環農法を行っていて……』といった感じで、いつも楽しそうに生産者の顔が浮かび上がってくるような物語を聞かせてくれる。ナチュラルワインには、原糸にもこだわっているうちの商売にも通じるものがあると気づいたんです」
銀座もとじでは、世界初となる雄のみの純国産蚕品種プラチナボーイを用いて、蚕を飼育する養蚕農家、製糸業者、製織業者、そして商品プロデュースおよび販売を担う同社がチーム一丸となって、“一本の糸からのものづくり”を実現している。
葡萄の栽培方法や、発酵過程、瓶詰めにいたるまで、ワインづくりの起源に近い形で製造されているナチュラルワインに興味を抱くようになったことは、必然だった。
「クラシックワインも飲むのでナチュラルワインだけにこだわっているわけではないんです。ただ同世代の友人にもナチュラルワインを飲んでいる人たちが結構いて、ある草履をつくっている職人とはワインがきっかけで意気投合して、ビジネス上でのアイデア交換も行っています」
ある意味で、古くて新しいナチュラルワインの製造過程に共感を覚える銀座の若旦那衆が増えているという。しかし銀座の現状には危機感を募らせる。
「銀座って老舗が多くある一方で、新しいものも受け入れる柔軟性のある街だと思うんです。伝統は守りながらも、一方で新しいことにチャレンジしていかなければ生き残っていけない。こうやって日本橋界隈に足を運ぶのも、学ぶべきところがたくさんあるから。先日も銀座で200年以上続く松崎煎餅の8代目と一緒にここで飲んでました」
銀座の未来を語り合う傍らにワインはそっと寄り添う。