プロ野球選手、球団監督、そして現在は解説者として活躍の幅を広げる"デーブ大久保"こと大久保博元さん。2020年に開設したYouTubeチャンネル「デーブ大久保チャンネル」では、経営する居酒屋「肉蔵でーぶ」を舞台に、球界の豪華OB陣を迎えたトーク動画が投稿されている。大久保さんのもとに大物たちが集う秘密とは。【特集 仕事に効くYouTube】
「僕は結局野球好きなんです」
新橋にある居酒屋「肉蔵でーぶ」。選手時代は西武ライオンズや読売ジャイアンツで活躍、楽天イーグルスの監督も務めた大久保博元さんは、自身が経営するこの居酒屋を舞台に日々YouTube「デーブ大久保チャンネル」の配信を行っている。
「テレビではできない話ってあるじゃないですか。たとえば、ベンチからピッチャーに『(打者に)ぶつけろ! 』って指示をするのかといえば、実はしているんです(笑)。でもそれは、本当にぶつけろ、怪我をさせろということではなくて、バッターをのけぞらせるくらいの気持ちで内角を攻めろという意味。実際、狙ってぶつけるのって難しいんですよ。それだけの技術やメンタルを持っているピッチャーはほとんどいないですからね。こういう話ってテレビだと問題になる可能性があるけど、YouTubeなら遠慮なくできるでしょ。そういうのがやっぱり楽しいですね」
元プロ野球選手のYouTubeチャンネルは数多くあるが、そのなかでも登録者数33万人と屈指の人気を誇る理由は、とにかく豪華で多彩なプロ野球OBのゲスト陣。清原和博、江夏豊、中畑清、秋山幸二、谷繁元信など名球会クラスの元選手から、パンチ佐藤、愛甲猛、羽生田忠克など"記憶に残る"元選手まで。ときには、コーチやスコアラー、プロ野球の中継担当者など、裏方まで登場。昭和から平成、現在に至るまで野球に関するさまざまな話題で毎回盛り上がっている。
「キヨ(清原)がゲストに来たときは、150万再生を超えたのかな。もちろん彼のような人気選手、有名選手が出てくれれば数字は上がるんでしょうけど、そこにはこだわっていないんです。まずは自分が楽しむこと。そして観てくれる人が喜んでくれること。あまり活躍できず二軍生活が長かったような選手とか、若い人はまったく知らない昔の選手とか、そういう人たちにもどんどん来てもらう。それを観て、たったひとりでもいいから、その選手のファンだったって人が喜んでくれたら、それでいいかなと。結局僕は野球が好きなんですよ。その魅力、楽しさを少しでも多くの人に伝えたい。だから数字も気にしないし、再生回数がいくつで、それによってどのくらいの収入があるのかもまったく知らないです」
「デーブ大久保チャンネル」がスタートしたのは、2020年6月。コロナ禍で居酒屋は休業を余儀なくされ、'10年に開講した野球塾「デーブ・ベースボール・アカデミー」も休講状態が続いていた。
「暇はたっぷりあるのに稼ぎがない状態。なんとかしなきゃなと思っていたときに、事務所の社長である息子(泰成さん)から『YouTubeをやってみないか』と言われたんです。それまで僕にとってYouTubeは観るもの。大食いのチャンネルとかが好きでよく観ていました(笑)。他のプロ野球OBがやっているチャンネルにゲストで出たりしたこともあったけど、自分がやるという発想はなかった。でも時間は余っていたし、家でゴロゴロしている野球ファンの暇つぶしになればいいかなというくらいの気持ちで始めました」
"居酒屋トーク"で語られる赤裸々なエピソード
当初は、自分の現役時代、楽天イーグルス監督時代の思い出話などのひとり語りがメインだったが、長嶋一茂をゲストに迎えたことを皮切りにプロ野球OBのゲスト出演が増えていくことになる。
「YouTubeのルールもなんにも知らない状態で始めましたから、最初は試行錯誤ばかり。それでもキヨみたいに自分から『デーブさんのYouTubeに出たい』と言ってくれる人たちもいて、徐々にいまの形ができあがっていった。居酒屋の経営もそうでしたけど、やっぱり“カタチ”ができるのには2年くらいかかりましたね」
ゲストと交わされるのは、まさに“居酒屋トーク”。若き日のやんちゃなエピソードやロッカールームでの出来事、レジェンドプレイヤーの裏の顔など、テレビでは語られないようなコンプライアンスぎりぎりの話は、いつまで聞いていても飽きることがない。収録は毎回100分以上。2時間を超えることも珍しくないという。
「愛甲さんのときは、午後1時から始まって終わったのが7時(笑)。お客さんが入ってきても話が止まらなかった。プロ野球選手って話し好きの人が多いんですよ。しかも昔の話になると延々喋り続ける。話を引き出すのにコツはいらないですよ。だって僕が好きで、話を聞きたい人しか呼んでないから。誰を呼ぶかは、毎回スマホの電話帳を見て決めています」
デーブさんのスマホの登録者数は、1871件。そのうち3分の1以上が選手も含めたプロ野球関係者だという。
「スマホを眺めながら、『あ、久しぶりにこの人に会いたいな、話したいな』と思ったらすぐ電話します。基準はありません。有名とか無名とかまったく気にせず、そのときの思いつき。有名なOBのほうがいいのかもしれないけど、事務所の社長は息子なので、そんなことはまったく気にしない。息子もなにか言おうものなら、文句あるなら自分で呼べよって言われるのが分かってるんでしょうね(笑)」
■【デーブ大久保】やんちゃな野球仲間たちの"非常口"になりたい(9/17公開予定)
Hiromoto Okubo
1967年茨城県生まれ。'84年にドラフト1位で西武ライオンズに入団。'92年に読売ジャイアンツにトレード移籍。'95年のプロ野球引退後、2008年に西武ライオンズでコーチとしてチームの日本一に貢献。'12年からは東北楽天ゴールデンイーグルスの打撃コーチ、二軍監督を経て'15年に一軍監督に就任。同年限りで辞任後、'16年からは野球解説者として活躍する一方、東京都新橋に居酒屋「肉蔵でーぶ」を経営。'20年から開設したYouTube「デーブ大久保チャンネル」では、居酒屋「肉蔵でーぶ」店内で、幅広いプロ野球関係者のゲストを招くトーク動画を配信している。