弱く、強く、繊細で優しい。私を育ててくれました
先生との出会いは40年以上前で、私は小学4年生。先生も40代と今の私より若く、いつも何かに怒っているような雰囲気を醸しだしていました。『北の国から』の富良野ロケでは先生が現場に来るとピリピリと空気が変わっていました。幼い純君が父である五郎さんに「北海道は自分には合わない」と打ち明けるシーンでは、お芝居が終わり表に出ると先生が走り寄ってきて私を抱きしめてくれました。「よかったよ」と。頭と背中を撫でてくれた感触と、先生のカーキ色のジャンパーのタバコの匂いをよく覚えています。
去年(2021年)、敬愛する田中邦衛さんが亡くなりお手紙をいただきました。いつも力強い先生の文字が力無く震えているように見えました。たまらない気持ちになり富良野に飛びました。「先生、書いてください」「そう言ってくれるのは貴一とヒデだけだ、ありがとうございます」。86歳の作家が50の役者にありがとうございますと言うことにショックを受けました。そういう人なんだと思います。弱く、強く、繊細で優しい。その晩はタルタルステーキをふたりで食べ、よく飲みました。
この頃、改めて五郎さんの生き方に力をもらっています。何かを作り出そうとする時、時間や金がないなら、それをどう工夫するのか考えることだって俺たちの仕事だと去年仰っていました。そのとおりだと大きく頷けるように私を育ててくれたのは先生です。先生の生き方、作品、役と時間を通して教えていただいたことが役者としての私の財産です。
Hidetaka Yoshioka
倉本作品は、1981年に始まったテレビドラマ『北の国から』シリーズに出演。『2002 遺言』まで21年にわたって黒板純を演じた。ほかに『やすらぎの刻〜道』。現在、映画『峠 最後のサムライ』が公開中。
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