日本のビジネス界やエンタメ界を牽引するイノベーターたちの“子育て論”に迫る本連載。第9回目は、「破天荒な経営者」として知られる、OWNDAYS代表取締役社長・田中修治氏が登場。型破りな経営哲学&手腕で、倒産寸前の企業を再建、海外を含め400店舗以上を展開するブランドへと躍進させた田中氏ならではの子育てを直撃! 【連載 イノベーターの子育て論はこちら】
社会で影響力を持つ人間は、教育と環境で育てられる
会社勤めの経験がないまま、20歳で最初の起業をした田中修治氏。2008年、30歳の時に、14億円もの借金を抱えて倒産寸前だったメガネ製造販売チェーン、OWNDAYSを買収。何度となく危機を迎えながら、斬新な発想と不屈の精神で乗り越えてきたその再生ストーリーは、書籍化されてベストセラーになり、ドラマ化もされるなど、大きな話題になった。
そんな破天荒なイノベーターは、いかにして生まれたのか。生い立ちをたずねると、「僕がこうなったのは、親の教育とか環境とかはまったく関係ないですね」とバッサリ。
「同じ親から生まれて、同じように育てられた兄弟が、同じ人生を歩むわけではありませんよね。つまり、親の教育は、それほど子供の将来に影響しないということ。少なくとも、僕の場合はそう。強いて言うなら、商店街に親が住んでいて、父親も家の一角で店をやっていたので、僕にとっての『働く』が、会社に勤めることではなかったことくらいでしょうか。中学・高校時代なんて、親は仕事で手一杯で、僕が学校さぼっているのにすら気づかなかったんじゃないかな(笑)」
各業界でトップ・オブ・トップに上り詰めた人々は、突然変異のようなもの。親が、“そうなるように育てる”ことは不可能で、「世界的なロックスターや、画期的な発明をするような天才は、才能や運など、さまざまな要素がぴたりとはまって誕生する」と田中氏。
「でも、親が授ける教育や環境で、社会で影響力を持つ人間や、やりたいことを自分の力で実現できるような人間は、ある程度育てられると思っています。僕には、今年11歳になる息子と、3歳の娘と息子(双子)がいますが、そうなれるように育てている真っ最中。ただし、僕が実践している教育や子育てが、正解かどうかはわかりません。子育ての専門家ですら、『2、3歳から英才教育を施すべき』と唱える人もいれば、『早期教育に意味はない』という意見の人もいるなど、さまざまな考え方、価値観がありますからね。正解も不正解もないのだから、親が腑に落ちた方法でやるしかないし、それでいいんだと思います」
「勉強したくない」には、「しかたがないだろ」と回答
田中氏が”腑に落ちて”実践している子育てのひとつが、「小学校入学前は勉強より運動をさせる」ことと、「小学生時代は徹底的に基礎学力をつけさせる」ことだ。
「幼少期は、手足や皮膚といった身体に刺激を与えた方がいい。その方が、勉強させるより、脳が刺激されるという説を、僕は信じているので。でも、小学校に入ったら、基礎学力をつけるため、ガッツリ勉強をさせます。学ぶ力はこの時期でないとつかないと思うし、中学以降は、親が言っても勉強なんてしませんからね(笑)。僕自身、小学校時代は、めちゃめちゃ勉強しましたよ。中学・高校とまじめに勉強しなかったし、経営学を学んだこともないけれど、小学生時代に学ぶ力をつけたせいか、今、とくに困っていることはないですね。実際、周りの経営者を見ても、大学に行っていない人はけっこういるけれど、子供時代に勉強しなかった人は少ない気がします」
田中氏の長男は、現在インターナショナルスクールに通っている。日本の小学校とは学ぶ内容が違うため、日本式の国語や算数を、塾で学んでいるという。もちろん、長男から「勉強したくない」と言われることもあれば、「なぜ、こんなに勉強しないといけないのか」と、反論されたこともある。その時の田中氏の答えは、「オレの息子なんだから、しかたがないだろ」。
「もっともらしい理由を説明しても、それで、子供が納得するわけではないと思うんですよ。だから、シンプルに、『パパはそれがいいと思っているんだから、しかたないじゃん』って。2、3年前は、『いっしょにゲームをする代わりに、勉強しなさい』なんてやっていたけれど、それはもうやめました。僕、ゲーム好きじゃないから(笑)」
と同時に、長男に告げているのは、「パパが勉強しなさいと言うのは、小学校まで」という言葉。それは、前述通り、基礎学力をつけられるのは小学生の間、思春期以降は親が勉強しろと言っても子供は従わない、という考えのほか、中学以降の勉強は自分は教えられないから、という理由もあるのだとか。
「勉強に限りませんが、親自身ができないことを、子供に『やれ!』と押しつけても、『オヤジもできないくせに』と反発されるだけでしょう。だから、息子が中学に入ったら、もう何も言いません。中学生になった彼に、『勉強はしない』と言われたら、『ああ、そうなんだ』と受け入れるつもり。だから息子も、『中学に入るまでの辛抱だ』と思っていますよ。そうやって、時には親が強制的に何かをさせることも必要なんじゃないかな」
ムカつく時はかまわず、「パパは今、怒っている」と告げる
「子供の自主性を尊重し、親は口出しせず、ただ見守るのみ」、「子供に勉強を強要するのはナンセンス」。そうした子育てが称賛されがちな現代にあって、田中氏の子育ては、やはり“破天荒”。子供には兄弟へだてなく平等に接するべき、という定説にも、笑って首を振る。
「僕は、娘を溺愛していて、それを息子ふたりから指摘されることもあるんですけど、その時は、『そうだよ、パパは〇〇ちゃん(長女)が一番大事』と答えています。『海で子供たち3人が溺れていたら、真っ先に〇〇ちゃんを助けるよ。だって、女の子なんだから。もし、パパが死んじゃったら、お前たちが〇〇ちゃんを助けてあげるんだよ』って。下の息子は、嫉妬することもあるけれど、上の息子は、そういうものだと思っていますね。妻は……、それぞれに対して、こっそりと『あなたが一番好き、大切』と言っているみたいだけど(笑)」。
昨今流行りの「怒らない子育て」についての意見を求めると、「僕は、怒りますよ。怒りの感情は、時に必要で大事なもの。殺す必要はないと思う」と、キッパリ。
「怒りの感情は、時に原動力になる。それは、僕自身が実感していること。だから、子供に、親が怒っている姿を見せるのは悪いことではないと思っています。ただ、これは怒っているのか、叱っているのかを、親自身が区別することは大切。僕は、自分が怒っている時は『パパ、今怒っているんだけど』とか、『パパは、そういうことをされるとムカつくんだよ』と、子供にきちんと伝えます。『道徳的にどうかは関係なく、パパはそれがイヤだから怒っているんだ』と。そうすると、子供たちは『これをするとパパは怒る。やらないようにしよう』と、学習しますね」
親としての振る舞いに、もっともらしい理由や理屈を無理やりつけて、正当化することや、子供に対して、見苦しい駆け引きや、ずるい計算はしない。田中氏の子育ては、どこまでも正直で、ストレートだ。
後編では、田中氏だからこそ語ってくれた、「持てる者として生まれた子供たちの育て方」を紹介しよう。
Shuji Tanaka
1977年埼玉県生まれ。20代から起業家として、さまざまなビジネスに携わり、2008年に「OWNDAYS」を買収、同社代表取締役社長に就任。著書『破天荒フェニックス オンデーズ再生物語』、『大きな嘘の木の下で ~僕がOWNDAYSを経営しながら考えていた10のウソ』(共に幻冬舎)で、独自の経営&人生哲学を披露している。