多様性が重視される時代が到来し、仕事に対する考え方や働き方が変容しつつある。変わりゆく社会に対応し、なおかつ成果を出す新しい仕事論を、時代を牽引するキーパーソンに聞いた。【シン・男の流儀】
合理性と直感の両立が新しい価値を創りだす
ラフ・シモンズやバレンシアガをその身に颯爽と纏い、髪色はシルバー。
慶應義塾大学医学部の教授、データサイエンティストという肩書きから連想されるイメージ像とはかけ離れた宮田裕章氏の姿を初めて見た時、驚いた人も多いに違いない。
「多様性がより重要となる時代、研究者という立場から、服装についてもこの点を意識しています。科学では、研究を積み上げて普遍的な真理を追い求めることが多いですが、私自身は短い時間の中で変化していくものも重要だと考えています。刹那的で感覚的な側面から、ファッションに学ぶものは多いです」
宮田氏は、刹那のなかに感じられる美にも普遍性が潜んでいると話す。
「例えば『枕草子』。冒頭に“春はあけぼの”という一節がありますが、当時の状況においても普通は“春”に続くのは“花”なんですよね。でも、清少納言は“春はあけぼの”という情景で、春の夜明けの美しさを表現した。その鋭い感性が時代を超えて、私たちに普遍的な美を感じさせています。データに基づいた合理性はもちろん必要ですが、直感やひらめきも大切な要素です」
合理性と直感の両立。そのセンスは仕事場にも表れている。
宮田氏が慶應大学に移った時、最初に行なった取り組みが研究室の改装。結果、“大学の教室らしからぬ空間”が完成した。
「例えば教授室は観葉植物の緑や古い木材といったナチュラルな要素と、ガラスの机や鉄板の壁など工業デザインを融合させています。重要なのは、その場がどんな目的で使われるのかを想定すること。ここは共同研究の打ち合わせを中心とした空間です。ともにプロジェクトを行う人々と対話し、新しい可能性を見出すシーンを念頭において設計しました。いわば、イノベーションを生みだす場です」
一方、来客を迎える会議室は、やわらかなピンク色が基調。リラックスして過ごせるよう、座り心地のよい椅子を置き、初対面の方々をゆったりと迎えるような空間になっている。
コロナ後の未来のために多様なアプローチを重視
その見た目やメディアでの印象からか、孤高の人というイメージを持たれることも多いと話す宮田氏。しかし、実際は他者とのつながりやコミュニケーションを大事にし、Co-Creationしていくことを強く意識している。
「プロジェクトをともにするメンバーともよく雑談しますよ。特に僕は食べることが大好きなので、最近食べた美味しいものの話を聞いたりとか。それに、老若男女問わず、多様な背景を持った人たちが何に興味を持っているのかを知ることは、とても勉強になります。そういった雑談から、仕事のヒントを得ることも少なくありません」
多くの人たちとアイデアを出し合い、シナジーを発揮しながら新たな価値をつくっていく。そのチャレンジのひとつが、2025年に開催される大阪・関西万博のプロデューサー就任だ。コロナによって大きく変わった世界で、「いのちを響き合わせる」をテーマに新しい社会像を模索していくという。
「未来は多様な人々と一緒につくり上げていくもの。仕事では最終的な目標を共有したうえで、多彩なアプローチを仕かけていくべきです。私が請け負う仕事も、自分がこれまで培った経験や専門性を活かせるものに加え、異質な要素を大切にしながら、挑戦し続けることを意識しています。合理的かつ直感も大事に。多様で豊かな未来の実現に向けて、挑戦はまだ始まったばかりです」
宮田裕章の仕事の流儀
1. 自分自身がダイバーシティの表現者になる
2. 合理的でありつつ、直感的に
3. 多様な人とともに未来につながる仕事をする