師匠か、恩師か、はたまた一生のライバルか。相思相愛ならぬ「相師相愛」ともいえるふたりの姿をご紹介。連載「相師相愛」第67回は、大企業トップと外交のプロ。
アサヒグループホールディングス 取締役会長 兼 取締役会議長 小路明善が語る、佐々江賢一郎
2016年に外交評論家の故・岡本行夫さんのご紹介でお会いしました。当時、佐々江さんは駐米大使。ニュースにも名前がよく出ていた、名の知られた方です。ビジネスパーソンにとってはまったく違う世界で活躍されている超絶エリートだと思っていたのですが、話をしてみると、なんとも親しみやすくて気さくな方で驚きでした。岡本さんから後任のご推薦もあり、弊社の非常勤顧問に就任いただきました。
その後、何度かビールを飲みながら食事をしたりもしたなかで、強く印象に残ったことがあります。世界のキーパーソンと交流され、まさに世界を股にかけてご活躍をされ、大変な経験をお持ちのはずなのですが、そういうことはまったくひけらかしたりされないことです。もちろん聞けばお話をいただくことはありますが、基本は常に相手を主役に話をされる。こういう方はなかなかおられません。すごいなぁ、と思う一方、これから時間をかけて、世界とは何か、じっくりお聞きしたいと思っています。
アサヒグループホールディングスは2016年から海外展開を積極的に行っていますが、改めて実感するのはビジネスの世界では知り得ない思いも寄らないリスクが存在しているということです。ここ数年のパンデミックを見ても、まさに経営は「海図なき航海」の時代に入っている。公私ともに学びたいことが本当にたくさんあります。
実は同じ1951年生まれなんです。お付き合いはまだ5年ほどですが、人生100年時代。これをプロローグとして、これから深く長いお付き合いをさせていただければと思っています。岡本さんに素晴らしいご縁をいただきました。
日本国際問題研究所 理事長 佐々江賢一郎が語る、小路明善
人と人が対面をすると、その瞬間に直感的に感ずるものがあるものです。たとえ短い会話ややりとりでも、生きてきた軌跡は垣間見える。ジェントルマンで洒脱、気配りの人。ビジネスの世界で生き抜いてきたけれど、自分という生地の魅力のまま生きてきた人だな、というのが小路さんの第一印象でした。そして日本を代表するメーカーのトップです。社内でさぞや愛されてきたのだろうな、と感じました。
私の講演で話を聞いていただいた際には、必ず積極的に質問をなさいます。欧米では「ここにいるからには何か言わねば」と質問には必ず手が挙がりますが、日本は必ずしもそうではありません。そんな空気のなか、先陣を切って躊躇なく自分の関心や思っていることを質問される。これはとても小路さんらしいところだと感じています。
まだまだお付き合いはこれから。もっともっ とお互いを知り、小路さんのまた違った面もぜひ見てみたいと思っています。
それこそ、どんな疑問を持つかで、答えの半分くらいは出ているものです。その意味では、単なるビジネスリーダーではないと感じています。私は役人として天下国家のことはよく考えてきましたが、それ以外については詳しくありません。実際に、自分がいかに無知であるが、気づかされることが多い。お付き合いを通じて、貴重な学びの機会をいただいています。
外交の世界でも、関係の変化はさまざまに起こっていきます。これはビジネスでも同じでしょう。ただ、堅くならずに「熊さん・八っつぁん」的なやりとりも含めながら、これからのお付き合いを楽しんでいきたいと思っています。
Akiyoshi Koji(右)
1951年生まれ。青山学院大学卒業後、アサヒビール入社。アサヒビール社長、アサヒグループホールディングス社長を経て、2021年より現職。
Kenichiro Sasae(左)
1951年生まれ。東京大学卒業後、外務省入省。アジア大洋州局長などを経て外務事務次官。2012年より駐アメリカ合衆国特命全権大使。’18年より現職。