PERSON

2022.01.04

【オカダ・カズチカ】「心のスイッチを持つと、自分を一気に爆発させられる」──新刊『「リング」に立つための基本作法』Vol.5

2022年に創立50周年を迎える新日本プロレス。団体を牽引するプロレスラー、レインメーカーことオカダ・カズチカが自身のポリシーやプライベートを綴った『「リング」に立つための基本作法』が発売中。そのなかから一部を抜粋して紹介する。

オカダ・カズチカ氏

闘うためのスイッチをつくる

アメリカにいるときは、スーパーヒーローの映画をよく見た。それもプロレスの勉強のためだ。

たとえば、ジョン・ファヴロー監督の『アイアンマン』──。

ロバート・ダウニーJr.演じる主人公、トニー・スタークは、軍需産業の企業の経営者で発明家だ。ところが自社の兵器が人の命を奪う場面を目撃して心を改め、パワードスーツを着てアイアンマンとなり世界平和のために闘う。

日本の仮面ライダーやウルトラマンも同じだが、スーパーヒーローは、変身するときに心のスイッチが入る。闘うモードになる。

それならば、僕はどのタイミングでレインメーカー、オカダ・カズチカに変わるのか。映画からヒントを得ようと考えた。

タイトルマッチならば、スーツを着て家を出るときとか。あるいは靴を履いたときとか。いろいろなシチュエーションで試してみた。でも、なかなかしっくりとはこない。

自宅でスイッチを切り替えると、会場に入り、試合を行うまでの時間が長いので、集中が続かなかった。試合開始時間には神経が消耗しきって、ぐったりと疲労してしまっていた。

試行錯誤の末、会場のバックヤードから客席の花道へ出る入場口の布一枚で心のスイッチを入れることにした。

薄暗い場所からゲートを抜けた瞬間、僕にピンスポットが当たる。右から左からファンが押し寄せる。光を反射させながら、色鮮やかなコスチュームで進んでいく。そのときには、気持ちは完全に闘うモードになっている。すでに僕は岡田和睦ではない。レインメーカー、オカダ・カズチカだ。

やがて、リングが見えてくる。入場中は対戦相手を見ず、レインメーカーであることを楽しむ。僕の脳内にアドレナリンがガンガン分泌される。

心のスイッチ切り替えのこのプロセスは、最初はぎこちなかったと思う。自分がつくった流れやリズムに、自分を無理やり乗せようとしていた。しかし、回数を重ねることで、身体にも心にもしっくりと馴染んできた。今はゲートをくぐると、自然と気持ちが高ぶってくる。

自画自賛になるけれど、スイッチが入ってからの僕はすごくカッコいい。ふだんの僕と同じ人間とは思えない。映像で見ると、自分でもほれぼれするくらいだ。

人間は気持ちが変わると、見え方もまったく別人になる。

世のお父さんたちも、日曜日に家でごろごろしているときは、頼りなく見えるかもしれない。しかし、月曜日を迎えてスーツを着て出勤し、オフィスに入るころにはまったく違う心、まったく違う見た目になっているはず。ビジネスマンにとって、オフィスは闘いの場だからだ。

プロレスでも試合前はあまり試合のことを考えないほうがいい、ということを中邑(真輔)さんから教わった。疲れてしまうからだ、と。試合前にのほほんとしている中邑さんを最初は理解できなかったが、今はよくわかる。

心のスイッチを持つと、生活や仕事にメリハリがつき、自分を一気に爆発させることができる。

 

『「リング」に立つための基本作法』

『「リング」に立つための基本作法』
オカダ・カズチカ
¥1,600 幻冬舎
なぜ強いのか、なぜ特別な存在であり得るのか……。オカダがトップに昇りつめるにあたって、強く意識したこと、自分に課していることを、心と身体、両面から率直に綴る。老若男女、誰もが自らの「リング」に立つためのヒントになる、オカダ流人生の極意の数々。アントニオ猪木や天龍源一郎との遭遇、闘い、教えられたことの記述も興味深い。
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オカダ・カズチカ
1987年愛知県安城市生まれ。15歳のときにウルティモ・ドラゴンが校長を務める闘龍門に入門。16歳でメキシコのアレナ・コリセオにおけるネグロ・ナバーロ戦でデビューを果たす。2007年、新日本プロレスに移籍。11年からはレインメーカーを名乗り、海外修行から凱旋帰国した12年、棚橋弘至を破りIWGP ヘビー級王座を初戴冠。また、G1 CLIMAX に初参戦し、史上最年少の若さで優勝を飾る。14年、2度目のG1制覇。16年、第65代IWGP ヘビー級王座に輝き、その後、史上最多の12回の連続防衛記録を樹立。21年、G1 CLIMAX 3度目の制覇を成し遂げる。得意技は打点の高いドロップキック、脱出困難なマネークリップ、一撃必殺のレインメーカー。191cm、107kg。

PHOTOGRAPH=玉川 竜

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