ダンサーがマイクを持ってのラップも今じゃ当たり前
昔も今も、一貫して「特攻隊長」を自任する。ラッパーCrazy Boyとしてマイクを握り、楽曲リリースやソロライブツアーを行ってきたことも、オンライン対戦ゲームの世界で名を上げたことも、ELLYが誰よりも先んじて切りこんできたからこそ成し得た偉業だ。それは好きなことを突き詰める自然さと、広い視野に基づいた戦略的意識の共存に裏打ちされている。
「もともとダンスを始める前からDJもやっていたし、トラックをつくるようになったのはごく自然な流れです。マイクを持つのはLDHになかった文化だし、デジタル配信だったりも会社として対応していないところでした。でも、これからはそれが定番になっていくだろうと思っていたんです。そこで挑戦した結果、今じゃK-POPを見ていてもラップがあるのは当たり前の時代だし、そのなかでLDHの後輩たちもみんなマイクを持つようになってますよね。
ゲームもそうで、コロナがピークになる以前から『もう外に出かける気分じゃないな』って考えていた時に、もともと好きだったことを仕事にしようと思って本気でレベル上げに取り組みました。日本じゃ、まだゲーム好き=オタクってイメージがあるけど、海外だとイケてるカッコいいものって認識なんですよ。アーティストやラッパーがやりこんで世界大会に出るのも珍しくなくて、それこそドレイクが『FORTNITE』をやっていてゲーマーに応援されていたり。そういう動きを見ていて、自分もやってみようと思った感じです」
「見る」。それはELLYにとっての挑戦の根底を支える、重要な要素だという。
「人を見ることは自分をつくること。何をするにも、まずは『すげぇ』と思う人、尊敬できる人をたくさん見て、その要素を物真似でいいから自分に入れる。子供の頃からずっとそうで、バスケでも野球でも、ダンスもそうやって上達してきました。自分はダンスのレッスンって、人生で1回か2回くらいしか行ったことないんですよ(笑)。映像を見て物真似するところから始まって、ここまで来てますからね」
今の日本社会では「人の真似」という行為が好意的に受け止められることは少ない。0を1にするオリジナリティこそが至上とされ、ましてアーティストであればなおさらだろう。だがELLYは堂々とそれを公言する。
「10人の物真似を取りこんで出したら、それはオリジナルになるんですよね。どんなアーティストでも、起業家や科学者でもみんなそうだと思うんです。マイケル・ジャクソンだってたぶん誰かに憧れて『この人みたいに歌いたい』って歌って、『こっちの人もすごい』ってダンスを真似して、そうやっていったらいつの間にか勝手にオリジナルになったんだと思う。いきなり最初からすごい人は本当の天才なんだろうけど、俺は全然そのタイプじゃないから。影響を受けたいと思える人が多いくらいが絶対いいです」
そのためにも日頃からインプットは絶対に欠かさない。
「気になることがあったらとことん調べるのが好きなんですよ。例えば『銀座ってどうやってできたんだろう?』って思ったら歴史をさかのぼって、『なるほど、だから今こういう街になってるんだ』って、納得するまで深掘りするのが楽しい。勉強に近いかもしれませんね。そうやっていろんな人や物事を知ってインスピレーションを受けるなかで、新しく挑戦したいことがどんどん出てくるんです」
無限の好奇心の翼がELLYをどこまでも羽ばたかせる。