時代を超えた至高のヴィンテージには、現存するだけの価値、いい物語が紡がれている。仕事人6名が愛でる、古き良き逸品とのグッドストーリーとはーー。ゲーテ10月号では「死ぬまでに一度は所有したい! 心震えるヴィンテージ」特集を掲載。
数々のヒットを生みだすイマジネーションの源泉
「ジーティ! ジーティ!」
クレイジーケンバンド(以下CKB)の4枚目のシングル『GT』は、クルマ好きの心をわし摑みにする力強いフレーズで幕を開ける。歌詞にある「血の色のGT」は当時、剣さんが乗っていた真っ赤な1965年型のフォード ムスタングのことだ。
「ボクのクルマ好きを決定づけたのは、6歳の時に観た映画『グラン・プリ』。ジェームズ・ガーナーが主演で、これでまずレースが好きになった。しばらくして実際のレースを見るためにサーキットへ通うようになると、街を走っているおっさんぽいクルマですらレース仕様になるとなんてカッコいいんだって」
しだいにクルマだけでなく、それを巧みに操るレーサーに憧れを抱くようになる。
「服飾関係でも有名だった福沢幸雄さん、『11PM』のテーマ曲を作ったジャズピアニストの三保敬太郎さん、北野元さん、親しくさせてもらっている桑島正美さんなど、モデルとか作曲家とか二足のわらじを履いているような格好いいスペシャルなドライバーがたくさんいた。僕はそういう人たちの真似を今も続けているんです」
剣さんは今年でデビュー40周年を迎える。音楽活動の傍ら、10年ほど前からクラシックカーレースに情熱を注ぐ。
「もとは作曲家志望でした。それがバンドマンになったことで、不思議と作曲の依頼が来るようになって、資金面においても自分でレースができる環境が整ってきた。ボクが子供の頃に思い描いていたのは、プロレーサー(笑)。でもわくわくどきどきする思いは今も変わらない」
CKBの曲には実に多くのヴィンテージカーが登場する。
「実際に所有していたクルマもあれば、映画で観て憧れたクルマなども登場します。シチュエーションに合っていれば、そのクルマの国籍はどこでも関係ありません。例えばフォードムスタングはアメリカじゃなく、映画『男と女』を見て憧れたので、僕のなかではフレンチカー」と話す。現在所有する2台のヒーレーを手に入れたのも、アメリカで見たのがきっかけ。
「ラグナ・セカやウィロースプリングスで行われるイベントで、アメリカ人なのにイギリス人のようなジョン・ブルなスタイルをして、こんなスモールサイズのヴィンテージカーで楽しんでいる。10代後半くらいに初めてそれを見て、ああ、いいなって」
ヒーレーではラ・フェスタ ミッレミリアなどのラリーイベントに、2台のダットサン510では、クラシックカーレースに参戦している。
「510の原体験は石原裕次郎さんの映画『栄光への5000キロ』ですね。昨年出したアルバムに収録されている『SSS』って曲が、まさにこのクルマを歌ったものです」
幼少期の憧れを手にすると、さまざまなイマジネーションが湧いてくる。剣さん自身が奇跡の曲と話してくれたのがCKBの『タイガー&ドラゴン』だ。
「『GT』と同じ年の曲で、ムスタングを運転しながら国道16号を横浜から横須賀方面に向かって走っていたんです。途中いくつもトンネルがあって、最後のトンネルを抜けると海が見える。そのあたりから『トンネル抜ければ〜』って間奏にいたるまでの歌詞とメロディが同時にひと筆書き調に出てきた。あんなこと後にも先にもないですね」
剣さんにとってヴィンテージカーはかけがえのないものだ。
「セクシーであり、宝物であり、身近なペットのようでもある。乗って、見てうっとり、魅力的な女性のような存在です」
“イイネ”。
YOKOYAMA KEN
1960年横浜生まれ。クレイジーケンバンドのリーダーで、作詞・作曲・編曲、ボーカルを手がける。クレイジーケンバンド初のカバーアルバム『好きなんだよ』が9月8日に発売。
1972年式 カワサキ900 SUPER4(右から)
「Z1」の型式名で有名なマニア垂涎のモデル。北米および欧州への輸出専用モデルで、当時の日本車としては最大排気量となる903cc。空冷4サイクル4気筒でDOHCと、カワサキ初の高度なメカニズムを採用していた。
1970年式 ダットサン510 2ドアセダン
米国市場向けの逆輸入モデルのため“ブルーバード”の名はつかない。心臓部は1800ccから1940ccへとボアアップ済み。もう1台同年式のダットサンブルーバード1800クーペを所有。ナンバーなしのレース仕様。
1959年式 オースチン・ヒーレー・スプライトMk.1
1958年に発表された英ライトウエイトスポーツカー。イギリスでは“The Frog Eyes”、アメリカでは“Bug Eye”、日本では“カニ目”という愛称で知られる。曰く「車重は約600kgで現代車にはない軽快さが魅力」だとか。
※ゲーテ10月号では「死ぬまでに一度は所有したい! 心震えるヴィンテージ」特集を掲載。完全保存版です。