苦楽をともにした仲間、憧れのアートピース。椅子とは座るための単なる道具ではなく、その存在を紐解けば、人生の相棒とも呼べる存在であることがわかる。ミュージシャン・アーティスト TETSUYAさんが愛でる椅子と、そのストーリーとは? 「最高の仕事を生む椅子」特集はこちら!
使いこんだ風合いも魅力のフレンチヴィンテージ
幼少期から家具やインテリア、建築に興味があったというL'Arc-en-Cielのリーダー、TETSUYAさん。これまでにもミッドセンチュリーや北欧の家具も通ってきたが、行き着いたのはジャン・プルーヴェやシャルロット ペリアン、ピエール・ジャンヌレといったフランス系作家のヴィンテージ家具だった。
「2008年のパリ公演の際に、現地のギャラリーに行って手に入れたのが、ジャン・プルーヴェの『スタンダードチェア』。今回持ってきたブルーともう1脚、レッドの2脚を購入し、機内持ちこみで持って帰りました。前からフレンチヴィンテージに興味はあったのですが、手を出すまいと決めていました。ですがフランスのギャラリーで本物を見てしまうとダメですね。その出合いをきっかけに一気に……。例えば、この組み立て式の『ディスマンタブル チェア』は、12脚セットで購入しました」
そのコレクションは膨大な数になるそうだが、その多くを実際に日常で使っているという。
「北欧系のヴィンテージ家具って綺麗に補修して使うことが多いんですけど、フレンチヴィンテージって、傷だらけのモノを綺麗に直さずそのまま使うのがカッコいいという文化があるんですよね。僕も普通に使っています。赤の『カンファレンスチェア』は自宅の自室で使っていますし、スタンダードチェアの原型である『トゥボワ チェア』は、かなり希少な椅子ですけど、ダイニング用として使っていました。さすがに傷んできてしまったので、今は普通のスタンダードチェアやディスマンタブルチェアと入れ換えて、メンテナンスして倉庫に保管していますけど」
しかしなぜヴィンテージ家具に惹かれるようになったのか?
「ずっとインテリアにはこだわっていましたが、以前はヴィンテージには興味がなくて綺麗な新品家具ばかり。それこそマンションのモデルルームみたいな空間が好きでした。でも綺麗なものばっかり使っていると、だんだん飽きてきて、古いものに興味が出てくる……。このパターンは家具だけじゃなく、ギターやファッションも、同じように新品からヴィンテージへ興味が移っていくんですよね」
しかしこういったヴィンテージ家具は、どうしても贋作(がんさく)を掴まされる恐れもある。
「僕も随分と高い授業料を払いましたよ(笑)。結局大切なのは、信頼できる人から買うことしかないです」
今、気に入っているのはピエール・ジャンヌレの作品
そんなTETSUYAさんが今、気に入っているのがピエール・ジャンヌレの作品たち。巨匠建築家ル・コルビュジエのいとこで、さまざまな作品を共作してきた大物だが、家具デザイナーとして注目を浴びるようになったのは最近のことだ。
「ジャンヌレも、プルーヴェと同じ頃から集めていましたが、当時は今ほど人気はなかった。でも今は、ジャンヌレのほうが人気ですよね? そうなると、なんかカッコよく見えてくるんですよね。不思議ですよね、以前はプルーヴェのほうが圧倒的にカッコいいと思っていたのに。今回紹介したジャンヌレは普段、事務所の和室スペースに置いているものです」
しかもピエール・ジャンヌレの作品は、複数の会社からリプロダクションモデルが発表されたり、ちょっとした混乱期ともいえる状況になっており、「逆に今は手を出せない。贋作が増えているって聞きますから」とTETSUYAさんは言う。
一流の審美眼によって選ばれた椅子たちが、TETSUYAさんの感性と視野を広げ、創造性を磨いているのだ。
TETSUYA
1994年にL'Arc~en~Cielのリーダー&ベーシストとしてメジャーデビュー。結成30周年の今年も、シングルリリース、初のライヴ世界配信など、精力的に活動。2001年からはソロ活動も開始。自身がクリエイティヴディレクターを務めるアパレルブランド「STEALTH STELL’A」も展開。