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2021.08.11

栄光、挫折、対立、葛藤。東京五輪2冠の大橋悠依が歩む紆余曲折な人生

本連載「コロナ禍のアスリート」では、まだまだ先行きが見えないなかで、東京五輪メダルを目指すアスリートの思考や大会開催の舞台裏を追う。

平井コーチとの関係悪化。そして修復

本人が一番驚いていた。競泳女子の200m、400mの個人メドレーで2冠を達成した大橋悠依(25=イトマン東進)はメダリスト会見で「夢みたいで実感がない。本当に自分がやったことなのかな。びっくりしています」と目を丸くしていた。最初に400mを制した後は号泣したが、続く200mの優勝後には涙はなく笑顔。本来は涙腺が緩いだけに、現実に感情が追いつかなかったのかもしれない。

日本女子の同一大会複数金メダルは夏季五輪初の快挙。競泳では男子平泳ぎで2004年アテネ、’08年北京で2大会連続2冠の北島康介以来だった。’13年9月に東京が開催地に決まった時は高校3年で目立った成績はなし。「ボランティアやトレーナーなど何らかの形で関われればいいな」と考えていた遅咲きのスイマーが歴史に名を刻んだ。

開幕7ヵ月前は危機的状況に陥っていた。昨年12月の日本選手権を欠場。表向きは「体調不良」と説明されたが、実は平井伯昌コーチ(58)との関係悪化が本当の理由だった。海外遠征から帰国後の11月下旬に練習方針を巡り、意見が対立。激しい口論となり、信頼関係に亀裂が入った。

決別へ傾いた大橋は別のコーチに師事を打診したが、平井コーチとの関係を重視する先方に断られた。日本選手権中は滋賀県に帰郷。東京に戻っても、萩野らのいる”平井チーム”に合流せず、母校・東洋大の学生と練習した。状況を見かねたチームメートの清水咲子(29=ミキハウス)が仲介し、話し合いの末に1月に関係修復。急ピッチで本番に間に合わせた。

平井コーチは北島康介らを育てた金メダル請負人。高校時代まで無名だった大橋のスケールの大きな泳ぎに才能を感じ、東洋大に勧誘した。何度もぶつかりながら世界一に導き「365日、信頼があったわけではないが、悠依はよく頑張ったし、俺もよく頑張った。紆余曲折ありましたが、きれいにまとまった」と笑った。

負けん気の強さで不振から復活

大橋は3姉妹の末っ子。幼少時代は4歳上の長女・芽依さん、3歳上の次女・亜依さんにひっついていた。生後11ヵ月ごろ。2人の姉がマンション3階にある自宅から8階の屋上まで階段を駆け上がると、後をついていった。四つんばいで階段を上り、屋上に到達。父・忍さんは「歩けないのに屋上にいるから”えー”ってなりました。昔から負けん気が強く、粘り強い性格でした」と回想する。

5歳で初めて海に行った時も、臆せずに水に入った。幼少時代は体が弱く、姉が風邪をひくと必ずうつされ、一人だけ肺炎になり何度も入院。卵や甲殻類などアレルギーもあり、家族と別の食事を取ることも多かった。

東洋大進学後も左膝の脱臼や重度の貧血に悩まされ、大学2年時の’15年日本選手権の200m個人メドレーは最下位の40位。引退して公務員になることを本気で考えたが、投薬治療や食生活改善で貧血を克服すると、一気にタイムが伸びた。’17年に初めて日本代表に入り、世界選手権で銀メダル。日本女子のエース格となった。

その後は伸び悩み、’18年秋には平井コーチに「自信がない。メダルを獲らない方がよかった」と漏らした。周囲の期待から壮行会などでは「金メダル」を宣言していたが、本音は「そう言っておいたほうがいいかな」だった。’19年世界選手権の200m個人メドレーは泳法違反で失格。号泣してふさぎ込む中「競泳界のおかん」と慕う日本水連の村松さやか氏に声を掛けられた。

「自信を持たないで泳ぐことは、頑張ってきた自分に失礼だよ」。
どん底から救ってくれた言葉は今も心の支えになっている。

日本競泳陣のメダルは男子200mバタフライの本多灯(19=アリーナつきみ野SC)の銀を含めて計3個。2000年代の五輪では最少メダル数に終わった。決勝に進出した種目はリレーを含めて8種目。入賞数は9で1988年ソウル五輪以来、8大会ぶりに1桁に沈んだ。

競泳ニッポンで数少ない光明となった大橋は「始まる前までは、こんなに楽しい五輪になると思っていなかった。自分らしさが出せた」と頷く。2024年パリ五輪については「まだ先のことは考えていない」と明言を避け、来年5月の世界選手権福岡大会には出場する方針を示した。

2つの金メダルの重さは計約1,112グラム。選ばれしアスリートしか体感できない至福の重みが、夢のようなひとときを現実だと教えてくれた。

TEXT=木本新也

PHOTOGRAPH=アフロ

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