各界の第一線で躍動するプレイヤーたちは、こぞって資本となる己の肉体を磨き続ける。仕事も人生も謳歌するための、彼らの肉体論に迫る。今回はお笑い芸人のミルクボーイ・駒場孝。
駒場孝「トレーニング前は憂鬱。けれど、心も鍛えられた」
2019年M-1グランプリの覇者ミルクボーイ。ボケ担当の駒場孝は、現役ボディビルダーとしても活動する美しい逆三角形ボディの持ち主だ。
「筋トレに夢中になったのは、すべて遺伝子のせい。父親がトライアスロンをやっていて、仕事から帰ってくると、夕飯を待つ家族を置き去りにして筋トレを始める。頭にトレーニングのことしかない人だったんです」
だが、同じ遺伝子を引き継ぐ息子には、なんともありがたい環境。自宅にトレーニング器具が揃っており、小学生の頃からごく自然に筋肉を鍛え始めた。
「中学生になると、近所のジムに通い始めました。そこにトレーニング雑誌が置いてあり、表紙がアーノルド・シュワルツェネッガー。肉体美に魅せられ、いつかシュワちゃんのような身体を手に入れると決意したんです」
その後、大阪芸術大学に進学し、現在の相方・内海崇と出会う。お笑いコンビを結成し、芸人としての道を歩み始めた。
「お笑いの勉強をしながら、筋トレも継続。大阪のB&Fという、ボディビルダーを輩出する、より専門的なジムに替えて、コンテストを目指しました。でも、駆けだしの芸人の収入では、ジム代を払い続けられない。しばらくは自宅のみで筋トレという欲求不満の日々が続いたんです」
だが、筋トレへの想いに引き寄せられたのか、神は駒場に幸運をもたらす。お笑い好きの実業家・小川淳氏と知り合った。
「小川さんはジャングルジムスポーツ代表で、大阪ボディビル・フィットネス連盟の理事長を務めている方。小川さんの厚意で、ジャングルジムに通わせてもらえることになったんです。短時間で一気に身体を追いこむキツめのトレーニングは、まさに僕好み。計算しながら結構な量を食べられる減量法も体質に合いました。みるみる筋肉が立派になっていきましたね」
’15年にジャングルジムでの筋トレを開始し、’18年には大阪市オープン・クラシックボディビル選手権で優勝を果たした。そして’19年のM-1グランプリで優勝し、本業もブレイク。現在はテレビやラジオ等で多数のレギュラー番組を持ち、ドラマやCMでも活躍している。
「移動やホテル泊まりが多くなりました。ホテルでは、腹筋、腕立て伏せ、壁を使って逆立ち。回数は決めずに、できなくなるまで続ける。回数を決めると、その回数に合わせて疲れるように限界を設定してしまうんです」
ブレイクに伴い、収入も増えた。どう使っているのか。
「40キロまで設定できる可変式ダンベル、インクラインベンチ、懸垂バーを買いました。もっと稼いだら、自宅にトレーニングルームを作る。それが夢です」
これほど筋トレにのめりこみながらも、ジムに行く前は憂鬱な気持ちしかないと駒場は言う。
「本当に行きたくないんですよ。トレーニング中は、“なんでこんなしんどいこと、しなきゃアカンの? ”としか思えないし。それでも身体を鍛えるのは、いいことのほうが断然多いから。筋トレ中は頭が空っぽになって、いいネタがふと湧いてきたりする。机に向かって考えても全然浮かんでこないのに」
そして何より、心が強くなる。筋トレの辛さを乗り越えられるのだから、どんな厳しい仕事でも平然と臨める。自信と超ポジティブ思考が得られたという。
「でも、それが最近の悩み。いじられた時のリアクションが、どんどん薄くなっているような気がするんです(笑)」