各界の第一線で躍動するプレイヤーたちは、こぞって資本となる己の肉体を磨き続ける。仕事も人生も謳歌するための、彼らの肉体論に迫る。
鍛えられた肉体は信頼を得るための名刺代わりになる
筋肉という筋肉が美しく隆起し、ギリシャ彫刻と見紛(まが)うほどのパーフェクトな肉体を持つ武田真治。約30年前のデビュー当時、華奢な姿体でフェミ男の代表格とされていたのが噓のようだ。
「筋トレを始めて20年になりますが、自分でもここまで続くとは思いませんでした。ましてやタンクトップに短パンで筋トレを披露する(2018年〜’20年NHK放映の『みんなで筋肉体操』出演)とは(笑)。子供の頃から運動が嫌いで、運動ばかりする人を冷ややかに見ていたくらいでしたから」
身体を鍛え始めたのは、26歳で顎(がく)関節症を発症したのがきっかけだった。心身ともに不調を抱え、仕事もできずオファーも減り、芸能界引退も頭をよぎった武田に、担当鍼灸師が、顎の負担を軽減すべく、全身の筋肉を鍛えるよう指導したのだ。
「最初に薦められたのが縄跳び。楽勝だと思ったのに、いざやってみると、連続して10回も跳べなくて。連続で100回連続で跳べるようになるまで、1ヵ月くらいかかりました」
体力がついたところで筋トレをスタート。ボクシングやジョギングに力を入れた時期もあるが、現在は、ほぼ1日おきに自宅でベンチプレスをメインにしたトレーニングを行っている。
「30キロ、50キロ、70キロ、90キロと重さを変えるんですが、インターバルをとりながら、マイペースでのんびりやっています。30キロが終わったらスマホでニュースをチェックし、50キロが終わったら洗濯物を取りこんだり。今の僕にとって筋トレは、日常におけるルーティンのひとつなんです」
そう涼しい顔をして語る武田だが、アンチ運動派からの転換で、最初は苦しくて、何度も挫折しそうになったという。そんな彼を奮い立たせたのは、「たいした苦労もなくスポットライトを浴びたという幸運に、見合うだけの努力を一度くらいしてみよう」という想い。
「分不相応な幸運に恵まれ、それに甘えて好き勝手やって、挫折を味わったことで自分の生意気さや傲慢さに気づき、謙虚さを覚え、与えられるより与えること、支えられるより支えることに価値を見いだすようになって……。ちぐはぐな人生かもしれないけれど、この順番で本当によかった。あの挫折がなければ、今僕はここに立っていないと思うから」
身体を鍛えたことで、メンタルも鍛えられた。
「ハードなトレーニングを続けられたのだから、大概のことは乗り越えられるという自信がつきました。それに、鍛錬を続けられるということは、ちょっとやそっとのことでは音(ね)を上げず、責任を持って仕事をまっとうするという証明にもなる。いわば、この肉体が、名刺代わりになっているんですよね。おかげさまで今、いろいろなオファーをいただけるようになりましたし、僕自身も挑戦したいことがたくさんあるんです」
筋肉によって新たな道を切り開き、輝きを増した武田。
「身体を鍛えるのは、いくつになってからでも遅くありません。大変なのは、最初の一歩。そこで、“やらない理由”を探さず、縄跳び10回でもいいからやってみる。それを続けるうちに、きっと習慣になるはず」