PERSON

2021.06.06

「食と美術品の趣味が合う」クリスティーズ ジャパン 山口 桂×武者小路千家 千 宗屋

師匠か、恩師か、はたまた一生のライバルか。相思相愛ならぬ「相師相愛」ともいえるふたりの姿をご紹介。第58回は、美術品を愛する経営者と茶人。

山口桂様×千宗屋様

山口 桂氏(右)、千 宗屋氏(左)

クリスティーズ ジャパン 代表取締役社長 山口 桂が語る、千 宗屋

千さんとは共通の友人の結婚式の2次会で初めてお会いしたんですが、もう16年になります。僕はお茶の弟子でもないし、学校の先輩後輩でもないし、何も直接関わりがない。それがよかったんだと思います。ちょっと会いたいな、と頭に浮かんだ時にお声がけができるんですね。

とにかく何でも知っている人。博覧強記で、もちろん日本文化にも詳しいんですが、お茶で使うものに限らず、美術品が好きな人なんです。

何しろ忘れられないのが、2012年に私の父が亡くなった直後にお訪ねした時。一服いただいて食事にと思っていた時に点ててくださったのが濃茶。父の死は悲しいできごとでしたが、なぜか僕は涙が出なかったんです。その話をしたら、父はもう僕のなかに取りこまれているんですよ、とさらりと言われて。これで、すっと気がラクになったんです。一服のお茶を飲むことで、胸のつかえのようなものがここまで取れるのか、と驚きました。お茶の力と、人をもてなす心。一生忘れられない最高の一服でした。

千さんとはいろんなモノに関して、忌憚のない話ができるのでとても貴重です。それこそ、骨董市に行ったら、開会待ちの列で後ろに並ばれていたりご縁を感じます(笑)。

そんな千さんのすごさを改めて思ったのが、ニューヨーク本社でお茶のデモをしてもらった時。床の間代わりの壁にかかっていたのが後に世界最高値で落札されるピカソでした。でも、ゲストはみな千さんのお点前に見とれていました。流石でした!

武者小路千家 官休庵 千 宗屋が語る、山口 桂

かつて文化交流使として1年間、ニューヨークに暮らしたことがあり、桂さんとは毎月のようにお会いしていました。その時一度だけクリスティーズで求めたのが、掛け軸(写真中央)です。約350年前のもの。書いたのは、大徳寺の玉舟和尚(ぎょくしゅうおしょう)。家の初代の禅の師匠で、歴代が名乗ってきた「宗守」「宗屋」の名をくださった方。たまたまクリスティーズで茶道具のコレクションセールが行われることになり、ぜひ事前に見てほしいと桂さんが下見に呼んでくださったんですが、こんなご縁はなかなかないし、書も力強くて、すぐに気に入ったんです。

日本を愛している人。海外に長くおられたからこそ、日本を客観的に見られているんだと思います。誠実で、情熱的で、表裏がない。人を見る目も確か。だから、モノも人も寄ってくるんです。まさに天職に就かれていると思います。実は食の好みが似ていて、通いつめていたレストランが一緒だったりもして。美味しいものと美しいものの趣味は似ているんです(笑)。

今は質の高い、よい美術品を使ったお茶会は、日本国内でしかありません。これからは、日本の美術品が世界でも再評価され、各国でよいお茶会に招かれるようになるといいな、と思っています。例えばパリで、「光悦のいい茶碗がある」なんてことになったらな、と。オリエンタリズムのもの珍しい文化じゃなく、アートとして評価される。それこそ、床の間にピカソの絵があってもいい。

美術品好きをお互いに“積み重ねて”、今後もいろんな話ができたら、と思っています。これからの世界における日本の文化的評価は、桂さんを見ていれば見えてきますから。

TEXT=上阪 徹

PHOTOGRAPH=太田隆生

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