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2021.06.03

うつを告白した大坂なおみがもたらしたもの

本連載「コロナ禍のアスリート」では、まだまだ先行きが見えないなかで、東京五輪メダルを目指すアスリートの思考や、大会開催に向けての舞台裏を追う。今回は大坂なおみを取り上げる。

(c)Abaca/アフロ

2018年から悩まされてきた長期間のうつ

テニス4大大会の全仏オープン(パリ・ローランギャロス)に出場していた大坂なおみ(23=日清食品)が2日に予定されていた女子シングルス2回戦を棄権。2020年全米、今年2月の全豪に続くグラウンドスラム3連勝が懸かっていたが、戦わずしてコートを去った。

5月31日に自身のインスタグラムで「大会や他の選手、自分の健康にとっての最善は、私が棄権することだと思います。邪魔になりたいとは思っていません」と表明。さらに「2018年の全米オープン以降、長い間うつに悩まされてきたことが真実です。対処にとても苦しんできました」と告白した。

開幕前の5月28日に「アスリートの心の健康状態が無視されていると感じていた。自分を疑うような人の前には出たくない」と大会中の取材に応じない方針を示した。30日の1回戦勝利後は予告通り会見を拒否。4大大会の主催者が違反が続けば全仏で失格、他の4大大会で出場停止となる可能性を通告する中、長期に及ぶ心の病が打ち明けられた。

夢を叶えた歓喜の瞬間が苦悩の始まりだった。'18年9月に全米で優勝し、4大大会を初制覇。決勝で憧れの存在であるS・ウィリアムズ(米国)を破って頂点に立った。当時20歳。ニューヒロイン誕生にテニス界が沸き、メディアも殺到した。注目を浴びる中、'19年全豪も制し、2大会連続のグランドスラム制覇を達成。アジア人として初めて世界ランキング1位に就いた。 

脚光を浴びる中、ブレークが重圧を生み、不安定さが目立ち始めた。'19年2月の国別対抗戦フェド杯(現ビリー・ジーン・キング杯)スペイン戦で世界79位の格下に0-6、3-6で完敗。第2セット3―5と追い込また場面では突然コートで泣き始めた。'19年7月のウィンブルドン選手権で1回戦敗退後は会見の途中で「泣きそう」と退出。そのまま会見場に戻らず打ち切りとなった。

「選手の心の健康を守る」ための問題提起

もともと繊細な性格。遠征が続くとホームシックになるため、出場する大会は絞ってきた。大一番の前夜はナーバスになり、食事が喉を通らずに眠れなくなることも多い。'19年1月に兄と慕ったNBAの元スパースター・コービー・ブライアント氏がヘリコプター墜落事故で死去したことも精神面に影響しているという。一方で'20年全米では黒人差別に抗議しながら優勝し、自身の考えを主張する精神的タフさを発揮。ここ数年は心が激しくアップダウンしていた。

会見拒否は「選手の心の健康を守る」ための問題提起でもあった。それでも、4大大会18回の優勝を誇るジョコビッチ(セルビア)が「会見はスポーツの一部」との見解を示すなど、否定的な受け取られ方も目立った。

騒動が拡大する中、5月30日には大坂の姉まりさん(25)が投稿サイトREDDITで会見拒否に至った背景を明かした。前哨戦2大会で早期敗退が続き、会見で苦手のクレーコートに対する質問が集中したことに言及し「イタリア国際の1回戦で敗れた時に、メンタルがOKではなくなった。彼女の自信は打ちのめされ、皆さんの意見や感想を思い出して自分でもクレーが苦手だと信じてしまった。その解決策が、すべてを遮断することだった」と説明した。

うつが明らかになり、会見拒否に否定的だった周囲の目も一変した。大坂は「ルールの一部がかなり時代遅れ」と会見出席の義務に改めて異論を唱え「少しの間、コートを離れるが、時期が来たらツアーと協力して選手、報道機関、ファンにとって事態を改善するための方法を話し合いたい」と主張。4大大会の主催者は「大坂選手がコートから離れる間、可能な限りの支援と援助を提供したい。メディアとの関連性も含め、大会での選手の状況を改善し続けていく」との共同声明を発表。ジョコビッチも「彼女を応援する。とても勇敢な行動を取ったと思う」と、その行動に理解を示した。

有名選手のうつの告白が多いとされる海外でさえもまだまだ理解されにくい現状を、大坂は自らの行動で確実に"変化"を与えた。全仏終了後の6月14日付世界ランキングで東京五輪出場選手が決定するが、現在2位の大坂は出場圏内。復帰時期は不透明だが、関係者によると、東京五輪には出場する意向だという。まずは休養に専念して心身共に万全の状態でコートに戻ってくる日が待たれる。

TEXT=木本新也

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