生涯かけて仲間と味わう3000本超のワインストック
「医者というのは、何でも研究してみたくなるもの。書物に書かれているワインの味は、どんなものなのかと"研究対象"として集め始めました」
そう語るのは、外科医であり、桜幸会さくらクリニック理事長の田中克幸医師。6年前に建てた自宅には、酒屋顔負けの巨大セラーがあり、30年にわたって集められた3000本以上の名品が揃えられている。
20代で出合った"ワイン研究"は仕事同様に生涯のテーマとなり、ブラインドでも高確率で畑までを言い当てる。その正確な舌と知識、膨大なコレクションを体感したいと、多くの有名シェフやソムリエが、田中氏の自宅を訪れる。フレンチの名店「レストラン キノシタ」の木下和彦氏やミシュランを獲得した「カンテサンス」の岸田周三氏、「ル・ブルギニオン」の菊地美升(よしなる)氏などと豪華な顔ぶれだ。
「ワインは僕にとって、友人をつくってくれた大切なもの。一緒に料理を楽しみ、好きなものを好きな人たちと語り合う。人生のかけがえのない時間です」
ワインは一期一会だから買わずにはいられない
田中氏が忘れられない1本として挙げるのは、20年ほど前に飲んだ、ブルゴーニュで最も偉大なドメーヌといわれるアルマン・ルソー、マジ・シャンベルタンの1985年。
「こんなに薫るワインがあるのかと、衝撃的でしたね」
以降ブルゴーニュにとりつかれ、時間を捻出してはブルゴーニュの地図を眺める日々が始まった。しかし当時は大学病院勤務、当直も多く緊急オペに呼ばれることもあり、ワインを嗜む余裕はなかった。それでも「いつか飲みたい」と思うものを見つけるたび、買い続けていた。
「ワインは一期一会ですからいいものを見つけたら、手に入れたい。当時は1本1万円を超えないものでもいいものに出合えました」
アラン・ロベールや、カリュアド・ド・ラフィットをはじめ、当時3000〜5000円で購入していたものが、今もセラーの中で熟成され、現在価格は当時の30倍近くになり、田中氏の舌に触れる日を待っている。
「20年前に自分で買ったワインがこんなに美味しくなるんだと、自分でその歳月ごと味わえるというのはとても嬉しいこと。でもね、私はひとりでは飲みません。自分で熟成させたワインを仲間たちと飲むから、幸せを感じられるんですよ」
田中克幸のWine Profile
好きなワインの傾向
ブルゴーニュを中心に、世界中のワインを研究中。
ワインの師匠
ザ・ワインギャラリー代表成田忠明氏、エレヴァージュ サードオーナー吉田岳史氏、ボナペティオーナー西澤建氏、銀座おのでらシェフソムリエ市村暢央氏
“ワインホリック”なエピソード
ブルゴーニュへ行ったことはないが、畑の風の抜け具合が頭に入っている。
自分へのご褒美
ツウな人に振る舞う
生涯最後に飲むなら
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