「手帳に夢を綴り何度も想起することで実現への力が漲る」
夢手帳がなければ、今の僕はなかったーー。そう言い切るのは、GMOインターネット代表の熊谷正寿氏。今や10社の上場企業を率い、多忙を極めるなかで、大型自動二輪、1級小型船舶、PADIのレスキューダイバー資格、ヘリコプターのパイロット免許を持ち、現在はすでに所有するプライベートジェットを自ら操縦するために、飛行機のパイロット免許の取得にチャレンジする、アクティブという言葉だけでは語れない人物だ。
仕事においても、プライベートにおいても、常に夢を持ち続け、大勝負に挑み続ける熊谷氏。その原動力となっているのは“手帳”なのだという。
夢を何度も想起するため手帳に書いた文字を眺める
「夢や目標をかなえる力は、それを何回想起できるかに比例していると思う。でも人間の脳は忘れることができるような仕組みになっている。だから手帳に書き、繰り返し読み返すんです」
何かを犠牲にし、血を吐くような努力をしないと、夢はかなわない。自分がこうなりたい、こういうことを成し遂げたいとイメージを持ち続ければ努力が続くものの、人というのは辛いことをつい先送りにしがちである。脳は身体や心にストレスをかけ続けて壊れないよう“忘れられる”仕組みを持っているのだ。
「それを忘れず、辛くても努力を続けるためには手帳に書きとめ、何度も何度も想起するしかないんです」
熊谷氏の夢手帳は、6つ穴のリフィルを、クロムなめしのナッパレザーのバインダーに挟むタイプ。
「リフィルをどんどん足していけるバインダー式です。自分のやりたいことを書き、写真などのビジュアルも貼りつける。僕は20代の頃から『いつか手に入れるぞ』と、プライベートジェットの写真を貼っていました。そして手帳は毎年更新します」
毎年夢のリストの達成率を確認し、達成できなかったことは、次の年の強化目標として見直す。
「目指すべき姿をイメージし、その誤差を埋める作業を繰り返すことで、人は前進し、理想の自分をつくり上げるんです」
最新のインターネットに長けた熊谷氏が、アナログの手帳に頼るのにも理由がある。
「ものを調べたり、記録するのはPCやスマホのほうが優れています。でもパソコンだとせっかく書いても、読み返す機会を失い、ブラックホールに吸いこまれるように溜まるばかり。手帳はパラパラッとめくれば言葉が目に飛びこんでくるんです。僕は夢や自分の仕事の改善点を、写経のように何度も書き写しています。繰り返す言葉で想いがより強くなるし、自分を奮い立たせる力が生まれます」
例えば2006年に、倒産の危機があった。400億円をつぎこんだグループ企業を、たった500万円で売却しなければならず、395億9500万円の損益を出してしまったのだ。
「その時は手帳に『弱気にならない、諦めない』という言葉を毎日書き、繰り返し読み、歯を食いしばりました」
手帳に書くことで踏みとどまり、’20年には、グループ全体の時価総額が1兆7000億円を突破した。
「さまざまな判断を行う時も、自分の直感をそのまま口にするのではなく、一度手帳に書き、絶えず反復します。そうすることで直感が自分の心と合致し、軸となる。僕は26年間、一度たりとも言ったことにブレはありません。手帳に書くことで遠くの灯台が見えているから、真っ暗な海でも船の針路が逸れない。手帳に書くということは、そういうことなんです」
今や辞書のような厚さになった手帳。その厚みは、熊谷氏の人生の豊かさそのものだ。
KUMAGAI’S TURNING POINT
20歳 2、3年かけて自分の夢を全部手帳に書きだし、未来年表を作った。
30歳 何かの分野で日本一の実業家になると決めインターネットに出合う。
32歳 社名を「インターキュー」として、インターネット事業を開始。
36歳 インターネット系独立企業として、日本で初めて店頭公開。
42歳 東証一部に上場。直後金融業に進出し、損失を出し、倒産の危機。