「乗ると心が高揚するパワフルなボンドカー」
子供の頃から映画を観るのが好きだったと語るのは、USEN-NEXT GROUPを率いる宇野康秀氏。
「小さい頃、父と母が珍しく連れ立って映画に出かけて、帰ってきた母に何を観たのか聞いたところ『007を観てきた。すごく面白かった』と話してくれたんです。その影響か、自分もそのシリーズが大好きで、高校生の頃から、過去の作品、新作と、全部の作品を観ています」
宇野氏の人生のなかに現れたジェームズ・ボンドというヒーロー。そして、作品とともに印象に残ったのが、ボンドの愛車だった。その夢のクルマが宇野氏の相棒になったのは、2002年のこと。
「僕にとって激動の年だった年に、新作『ワールド・イズ・ノット・イナフ』が封切られ、BMWのZ8がボンドカーとして登場したんです。ものすごくカッコよくて、強く印象に残りました」
憧れのボンドカーを頑張った自分へのご褒美に
’00年は、宇野氏にとって大きな節目であった。20代で仲間と立ち上げたインテリジェンスが上場し、さらに1998年に父親から継いだ大阪有線放送社の最大のネックであった、コンプライアンス上の厳しい課題を、気の遠くなるような作業をこなして、社員とともにクリアできた年だったからだ。
「父の事業は電柱の無断使用に加え、多額の負債という負の遺産も抱えていました。でも僕は『こんなものを押しつけられた』と考えず、整理できれば大きなプラスになるはずだと。当時の僕はなぜか『自分はできる』という過信のような自信があって(笑)。実際、そこを起点に新しい光ファイバーサービスを始め、2001年に無事USENを上場できた。ここまで頑張ったんだから、自分に何かご褒美をあげようと思った瞬間、007の映画を思いだし、ボンドカーを買おうと思ったんです」
そうして手に入れたBMW Z8を、かれこれ20年近く所有し続けている。このクルマに乗りたくなるのは、朝起きて天気がよく、自分に使える時間がある日だという。
「乗るたびに興奮するクルマです。この車体に、M5と同じ4.9ℓV8エンジンを積んでいるので、パワーが半端なく、最初はエンストしたほど(笑)。よく出かけるのは、湘南です。ドライブといえば『湘南』『海岸線』『オープンカー』というのが鉄板だった時代の人間なので(笑)」
クルマを走らせる際のBGMにもZ8と歩んだ歴史を感じる。
「古いクルマなので当然Bluetoothなどなく、CD6枚連奏オートチェンジャーがついていて、昔いれたCDがそのまま入っている。そのうち何枚かはディスコのユーロビートみたいな曲なので、気持ちを高揚させるにはぴったりですね(笑)」
今や事業会社23社を抱え、仕事上、大きな判断を下すことも多い宇野氏。その際に頼るのは?
「経営判断の際に大事にしているのは“肌感”。直感のひとつでもあると思うのですが、僕自身、世の中の大きな動きを予測できる情報収集力は持ち合わせている。だけどその情報が、新聞に書いてあったからではダメ。僕自身が見て、触れて、周りが何を言っているかを聞いて、そこにピタッと一致する情報こそが信じるべきものであり、世の中が求めることなんです。それを見極めてやっていけば、必ず成功すると信じています」
常に時代の先を読み、敏感であり、迷いなく進む。時にその強さを保ち、自分を鼓舞させるために、ハンドルを握ってリフレッシュ。そんな宇野氏の生き様は、まさしくボンドカーにふさわしい。
Yasuhide Uno
1963年大阪府生まれ。’89年インテリジェンスを創業後、’98年、大阪有線放送社の代表取締役に。2009年U-NEXTを設立。’17年、USENとUNEXTを経営統合。USEN-NEXT HOLDINGSに商号変更し、代表取締役社長CEOに就任した。
UNO’S TURNING POINT
19歳 親から独立しよう、環境を変えようと、大学入学のために東京へ。
25歳 就職した企業を1年で退職し、仲間たちとインテリジェンスを設立。
35歳 父親の急逝により、事業を受け継ぎ大阪有線放送社の社長に就任。
47歳 USENからU-NEXTを分社化し、約300人の社員と新たなスタートを切る。