日清食品のヒット連発の裏には、経営者でありながらクリエイションに長けた男と、クリエイターでありながら経営者視点を持つ男、そしてうまいウイスキーがあった。
安藤徳隆と佐藤可士和の関係は、まるで信長と利休!?
ーー戦国時代の武将・織田信長は、出陣前に千利休と茶を飲み、語り合ったという。時は流れ、茶碗をグラスに持ち替えて語り合うのは、日清食品の安藤徳隆社長と佐藤可士和。そんなふたりにとって茶室のような存在であるバー「ヘルムズデール」で安藤氏は言う。「可士和さんは、僕にとっての利休そのものなんです」と。
佐藤 徳隆さんの決断力と行動力には驚かされるばかりですよ。
安藤 10年前に初めて食事をした次の日、いきなり「一緒にミュージアムをつくってください」とメールしましたからね。
佐藤 そのスピード感とスケールに、正直驚きました。
安藤 義兄から「佐藤可士和さんと食事するけど」と誘われ、せっかくお会いするならと、著書の『超整理術』を読み、可士和さんがどういう思考の方なのか、勉強してから臨んだんです。で、お会いしたら、ぜひ一緒に仕事がしたいと(笑)。当時、ミュージアムでやりたいことは明確でしたし、会社のキャラクターもはっきりしていた。それをダイナミックに表現するにはどうすればいいのか悩んでいたので、もうお願いするしかないと。
佐藤 僕も「日清食品のミュージアム? 面白そう!」と、スムーズに始まりましたよね。
安藤 そこからは毎週のように打ち合わせ。後ろに予定がないほうが集中できると、20時から夜中まで意見を交わしました。
佐藤 家が近所だったから終わった後、西麻布の僕の事務所から高校生みたいに一緒に歩いて帰りましたね。偶然にもお互いウイスキーが好きだとわかってからは、僕の行きつけのバー「ヘルムズデール」に寄ったり。
安藤 疲れた高校生が買い食いするみたいにね(笑)。
佐藤 そうそう。本当にミュージアムをつくるためにやるべきことが膨大にあった。でも最初にミュージアムをつくったことが、のちのち日清食品と関わるうえで、本当によかったと思っています。創業者の安藤百福さんの思考やクリエイティブシンキングを、ミュージアムをつくるという過程でとことん整理して、その本質を摑むことができました。
ーーカップヌードルミュージアムを皮切りに、日清食品のブランドコミュニケーションに深く関わった佐藤は、安藤氏とタッグを組み、カレーメシ、カップヌードル リッチなど次々とヒット企画を連発する。
佐藤 徳隆さんは経営者ですが、クリエイターでもあると思いました。細かいことにもこだわるし、諦めない。僕の尋常じゃないクリエイティブのこだわりにもまったく動じなかった(笑)。
安藤 可士和さんこそクリエイターでありながら視点が経営者。ここまで経営戦略を相談できて、クリエイティブサイドからソリューションを引っ張ってきてくれる方は、他にいませんよ。
佐藤 ありがとうございます。
安藤 可士和さんが「ここまではいいよ。でもこれはやっちゃダメ」と、僕の悪ノリをたしなめてくれるから、安心して無茶な提案もできる。ふたりで話し合いながら、その場で面白いと合致したものをカタチにしていく、ジャムセッションみたいなクリエイティブですよね。
ーーふたりの大切なコミュニケーションの場が、月に1度のクリエイティブディナーだ。
安藤 日清食品には可士和さんと月に3回の定例ミーティングがあり、そのうちの1回が僕と可士和さんのサシのクリエイティブディナー。それは悩み相談の場であるとともに、茶の湯の時間。千利休のような可士和さんに、新しい企画だけでなく、会社経営や日清食品のあり方など僕の胸の内を話し、可士和さんの考えを聞く。頭の中を整理する時間なんです。
佐藤 徳隆さんのすごいところは、食事前に必ず課題をきちんと用意してくること。
安藤 そうしないと、相談できないと思っていますから。
ーー話題の企画を立て続けに生みだす日清食品の根底にあるふたりの奇天烈な発想。それを限界まで突き詰めてカタチにしたのが、「ハードボイルドコミック社史」と「カレーメシ」だ。
安藤 せっかく社史を作るのなら、他の会社の方から「欲しい」と言われるものにしたいと。社史をコミックでつくる会社なんてありますか(笑)。しかも「この社史はフィクションである」から始まるんです。
佐藤 そもそも百福さんは、侍じゃなかったし(笑)。でも日清食品は“ユニークな会社”ではなく“ユニークでなければいけない会社”だから、普通の社史ではダメだったんですよ。
安藤 今までの仕事のなかで僕が一番感心したのはカレーメシ。祖父も父もインスタントライスを手がけたもののうまくいかず。三度目の正直で僕も挑戦しようと可士和さんに相談しました。
佐藤 コンセプトは「理解不能な新しさ」。そもそもラーメンとカップヌードルは似て非なるもの。だったらカレーライスでない、新しい「カレー×ライス」の食文化をつくろうと。
安藤 しかも15〜35歳がターゲット。そんなセグメントの切り方なんて普通しないです。
佐藤 新しいマーケティングの方法をやりましょうと振り切って、まもなくカレーメシの売上は100億円(年間)に到達します。日清食品の快進撃は徳隆さんの決断の早さの賜物(たまもの)でしょう。これからも世界を一変させる食文化をつくってください。それをやるのは徳隆さんしかいないし、やるべきだと思う。
安藤 はい、つくっていかなければと思っています。展覧会もまもなくですね。
佐藤 日清食品のビッグロゴの展示などもありますよ。本当はジャイアント社史を展示したかったんですけどね。コロナで触る展示がNGになり……。
安藤 社史でギネス取りません? って、サイズまで調べたんですけどね(笑)。
ヘルムズデール
住所:長野県北佐久郡軽井沢町大字長倉9-131
TEL:0267-46-8337
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Noritaka Ando(右)
日清食品代表取締役社長。1977年大阪府生まれ。祖父であり創業者の安藤百福の鞄持ちを務めた後、2007年に日清食品入社。’16年に日清食品ホールディングス代表取締役副社長・COO就任。ビジネス誌の「世界を動かす日本人50人」にも選出。