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2020.12.06

【松浦勝人】家賃月6万円の家を借りた。そんな拠点を10ヵ所借りても、別荘を建てるより安上がり

素人目線

多拠点生活のススメ

大分に家を借りた。家賃は月6万円。会社勤めをする人にとっては不便な場所だと思う。でも、僕にとっては最高の立地。空港から30分もかからず、すぐ海に出ることができる。釣りの拠点として使っている。

以前の僕だったら、都心のマンションを借りて、内装を全部変えて、家具はイタリアから取り寄せて、みたいなことをやっていた。でも、今は普通のこぢんまりとした一軒家のほうが居心地がいい。近くのホームセンターやリサイクル家具センターで家具を買って、日用品を揃える。ソファもちゃんと座れるし、それで十分。

僕は飽きっぽいので、別荘を買ったり建てたりしてもすぐに飽きてしまう。でも、賃貸なら返せばいいだけ。家具はリサイクル家具センターに引き取ってもらう。釣り道具はハイエースに積んだままにしているので、そのままクルマで新しい家に移動して、またリサイクル家具を入れれば、すぐに釣りを楽しめるようになる。

そういう家を沖縄にも借りた。長崎にも借りようと思っている。石垣島か宮古島もいい。北海道にも欲しい。そんな釣りの拠点を国内に10ヵ所借りたとしても、別荘を1軒建てて維持するより安上がりになる。何より、飽きたら返せばいいという気軽さがいい。そうやって、日本全国を巡り、魚を釣りながらリモートワークをしている。

都内に自宅があるけど、そこも賃貸。もう、自宅というよりは、東京にいる時の拠点という感覚になってきている。少なくとも都心にある必要はない。以前は、会食や接待、どんちゃん騒ぎというのが日常で、酔ってすぐに帰れる自宅は便利だった。でも、新型コロナの感染拡大以降、どんちゃん騒ぎなどしていない。会食も、感染拡大の前に予約を入れていたものだけ。それも飲食店が厳しい状況になっているから、少しでも貢献しようと思って行くので、食事がすんだら二次会などに行かず、すぐに帰ってきてしまう。

僕は今56歳。60歳になっても、以前と同じようにどんちゃん騒ぎの人生を送り続けるのか、それとも、そういうことをしない人生を送るようになるのか、どちらになるのかを考えていた時、コロナ禍になった。強制的にどんちゃん騒ぎのない生活になってみると、これが心地いい。つまらないとか寂しいという気持ちが不思議に湧いてこない。何か、「お前はこうやって生きろ」と言われているような気がする。自分の人生を考えるきっかけになった。まあ、僕のことだから、コロナが完全に終息して明るい世の中になったら、またどんちゃん騒ぎをするのかもしれないけど。

3年前、青山の本社ビルが完成した時に、会社という器は溶けてなくなり、人の関係性だけが残る時代が来るのではないかと思った。働き方も、全社でフリーアドレス、ペーパーレス、シェアオフィスの考え方を取り入れた。そのため、コロナ禍が起きても、全社リモートワークにスムーズに移行することができた。アンケートを取ったら、平均の出社日数が月に5日くらいで、多くの社員がリモートワークを続けてほしいと答えている。現場作業が必要で、どうしても出社しなければならない部署もあるけど、自宅でもどこでも仕事ができる職種の人は、もうリモートワークでいいんじゃないかと思う。釣りでもサーフィンでも自分の趣味が楽しめる場所に住んで、自宅で仕事をして、週に1日ぐらい出社する。そういう生き方のほうがいいんじゃないかと思う。

先日、久しぶりに青山の本社に行ったら、頭が痛くなってきた。きっと僕は会社が嫌いなんだなと思った。CEOだった時代、重厚な会議室でこういうことがあった、ああいうことがあったという記憶で重苦しい気持ちになる。会社という器はもうなくていい。人間の関係性があれば仕事はできる。

週に何日かは、都内にあるスタジオに詰めている。ここに作曲家を集めて、全員で曲を作り、権利も全員で共有するというコライトという新しい手法に挑戦している。作曲家たちの意識のなかでは、会社という器はもう溶けてなくなっている。エイベックス専属の作曲家もいれば、他の事務所所属、フリーランスの作曲家もいる。参加する作曲家はプロジェクトによってどんどん代わっていく。大阪からリモートで参加している作曲家もいる。もう会社という枠組みは誰も気にしていない。

今挑戦しているのは、短時間で楽曲を量産する手法。彼らはヘッドフォンをしてキーボードを叩き、ひとつのサビを10分くらいで作ってしまう。それを、意識を集中させて、短時間で大量に作る。そのなかから、僕ができのいいものを選び、今度はその断片の前後を全員で作り、完成させていく。

僕にとっても、ものすごく怖い仕事をしている。どの曲がいいかなんて、僕にも確信があるわけではない。でも、誰かが「これがいい」と決めていかないとコライト作業は前に進まない。みんな、自分が作ったものが一番いいと思っているんだから、誰かが決めないと喧嘩になってしまう。「あの人が決めたんだから」と納得させられる人が決めなければ、チームは崩壊してしまう。

僕が決める自信を持てなくなった時、そしてできた楽曲が結果を出せなかった時、僕はこの仕事を辞めて、誰か別の人に任せなければいけなくなると思う。

この“決める”仕事ですら、リモートでできないわけではない。でも、本当にいいと思っているのか、どのくらい、いいと思っているのか、相手のそういう微妙な反応はリモートでは伝わりづらい。だから、僕は週の何日かはこのスタジオにいることにしている。早く「いつもどこかに行っていて、なかなか会えない人」になりたい。あるスタッフから「松浦さんがいてくれないと、現場がしまらないんですよね」と言われた。その気持ちはよくわかる。だから僕はスタジオにいる。でも、どこかで、もう古臭い考え方だと感じ始めてもいる。

TEXT=牧野武文

PHOTOGRAPH=有高唯之

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