去る2020年10月26日夕刻、第一回「令和京都博覧会」が、青蓮院門跡・本堂で開催された。驚くのは、実行員会に名を連ねる錚々たるメンバーだ。華道家元池坊・池坊専好氏、御所人形司・伊東庄五郎氏、観世流能楽師・片山九郎右衛門氏、黒田装束店装束司・黒田知子氏、放送作家・小山薫堂氏、大蔵流狂言方能楽師・茂山千三郎氏、京都吉兆総料理長・徳岡邦夫氏、青蓮院門跡執事長・東伏見光晋氏、永楽屋14世・細辻伊兵衛氏の9名。いずれも、知らぬ人がいない存在であるとともに、日本の伝統文化を牽引する著名人である。

現代の伝統文化を担う「令和京都博覧会」実行委員会のメンバー
沈滞ムードの日本を伝統文化で盛り上げたい!
なぜ今、彼らが心をひとつにして、「令和京都博覧会」を開催するに至ったのか。まずは、その成り立ちについて、永楽屋14世・細辻伊兵衛氏に聞いた。
「コロナ禍で自粛を余儀なくされるなか、能や狂言などの舞台は開催できない、京都の寺社仏閣といった名所へも足を運べないという時期がありました。そのさなかに、世の中の沈滞ムードをなんとか一掃できないかと集まったのがこのメンバーでした」
明治維新直後に開催された「京都博覧会」の令和版
かつて明治維新後に都が京都から東京へと移され、京都経済は停滞した。その際に意気消沈した京都をなんとか元気にしたいと京都の経済人や文化人が集結して明治4年に開催したのが、日本初の博覧会、「京都博覧会」だった。初回は西本願寺の大書院で300点以上もの国内外の品が展示され、1万人以上の人が訪れた。また2回目以降には附博覧として「都をどり」が登場、その後昭和3年の第56回まで続けられることになる。
「この京都博覧会の開催メンバーには、当家の永楽屋八世細辻伊兵衛も名を連ねていました。そんな先人たちに習い、この消沈した世の中を伝統芸術で盛り上げたいと、今回のメンバーが集結しました」
2020年6月以降、何度もリモート会議などで意見を交わし内容を吟味したという。開催を公に発表すると、瞬時に60名定員のチケットは完売した。「文化的な催しに参加したい」「心を潤す芸術に触れたい」と願う人が、コロナ禍になっていかに多いかを知らしめた。

歴史ある青蓮院門跡で平安時代へタイムスリップ
第一回「令和京都博覧会」のテーマに定められたのは「源氏物語の世界」だった。会場には、奇しくも平安時代に始まったとされる「青蓮院門跡」が選ばれた。由緒ある場と現代の文化芸術が連動したのだ。
18時開演。開会の挨拶は伊東庄五郎氏。そしてその次に登場したのは、この会の呼びかけ人のおふたり。大蔵流狂言方能楽師・茂山千三郎氏と観世流能楽師・片山九郎右衛門氏だ。博覧会の趣旨の説明や、「平安の時代に思いを馳せ、夢の世界を愉しんでほしい」という言葉に、観客全員が心を浮き立たせた。

博覧会の幕開けは、茂山千三郎氏による狂言の舞台
最初の演目、茂山千三郎氏の狂言が幕を開けると、その重厚な物語に観客は息を飲み、一挙に引きずり込まれた。

華道池坊次期家元・池坊専好氏による生け花パフォーマンス
休憩をはさみ、青蓮院門跡執事長・東伏見光晋氏がこの院の由来などを教えてくれた。
「お釈迦さまは、心を開放しなさいとおっしゃいました。今日、ここにいらっしゃるみなさまにも京の催しを言葉で理解するのではなく、心で感じてほしい」
その後、十二単に身を包んだ池坊専好氏による生け花「秋宵夢草」が披露される。この後に演じられる能「融(とおる)」をテーマに秋の草花が美しく生けられ、観客はかたずをのんで見守った。

鼓や太鼓、笛など邦楽の音色が響き、装束に身を包んだ融が登場する。
その花を前に最後に演じられたのは、片山九郎右衛門氏による「融(青蓮院バージョン)」。厳かで迫力あるその舞台を、みなが息をのんで見入った。
最後に委員会メンバー全員の紹介と挨拶。大阪万博のプロデューサーで放送作家の小山薫堂氏も「伝統をつなぐことが未来を紡ぐ」と話した。
またこの公演前後に、観客たちは、次の舞台「HANA吉兆」で、徳岡邦夫氏が手掛ける「源氏物語」にちなんだ華やかな特別料理を満喫した。

会場となった「青蓮院門跡」。着物姿の女性たちに見送られる。
十三夜もすぐという月の美しい秋の夕暮れ、観客たちは何を感じどんな想いを心にとどめたのだろう。
委員のひとり14世細辻伊兵衛氏は「未来だけでなく過去に輝いたものを知る機会になってほしい。今後も京都の素晴らしさを表現していきたい」と語った。
問い合わせ
令和京都博覧会実行委員会 TEL:075-256-7881(永楽屋内)