幾多の試練を乗り越えながら、着実にスーパースターへの階段を上り続けるメジャーリーガー・大谷翔平。今だからこそビジネスパーソンが見習うべき、大谷の実践的行動学とは? 日本ハム時代から“大谷番”として現場で取材するスポーツニッポン柳原直之記者が解き明かす。
「出ても出ていなくても、毎日練習してやることは変わらない」
9月に入り故障以外では自己最長の6試合連続でスタメン落ち。大谷にとって野球人生一番の挫折ではないだろうかと勝手ながら思っていた。9月19日(日本時間20日)。7試合ぶりのスタメン復帰初戦で本塁打を放った試合後のオンライン会見。「欠場中に感じていた思い」について質問をぶつけた。
「もちろん(試合に)出たいなっていく気持ちはね、選手である以上あるんじゃないかと思うんですけど。出ても出ていなくても、毎日練習してやることは変わらないので。チームが勝つためと、毎日、毎日、自分のスキルを上げていくための練習をしっかりやるってことかなと思いますね。その練習が合っているか、合っていないかは試合じゃないと分からないので。そういう意味でも試合に出るかどうかはすごい自分としても大事なことではあるので、出たいなっていう気持ちはもちろん感じているかなと思いますね」
選手である以上、試合に出たいのは当然の思い。少し人ごとのように話す口ぶりは大谷らしいが、素直な気持ちを語ってくれたように感じた。練習では自分のことに集中し、試合になればチームが勝つために何かできるか必死に考える。試合に出ることは自分のスキルを上げることに直結するため、心の葛藤も垣間見えるが、落ち込んでいた様子は感じられない。きっと挫折などとは微塵も思っていないのだろう。
加えて、欠場中はあえて練習内容は変えなかったという。そこにも大谷のこだわりがあった。
「特に変わった練習はしていないですね。"ティー"と"手で投げるBP"と"マシン"。普通の練習をしていました。逆に違う練習をしたら、良い感覚かどうかもわからないですし。普段と同じ練習の中で、良い感覚かどうか、違うのかかどうかが分かると思うので。継続していくっていうことが大事かなと思いますね」
同じ練習に固執せず、自分に合った練習をどんどん取り入れるスタイルも悪くないだろう。ただ、大谷は同じ練習で不振脱却を目指すことを選んだ。同じ練習を継続することでわずかな感覚の違いや日々の体の変化に気付きやすくなる。そこに技術向上のヒントや答えが詰まっていると感じているのだろう。
ちなみに、人の助言を聞かないという意味ではない。大谷は3人の打撃コーチとジョー・マドン監督からしきりに助言を受けたことを明かし、こう話している。
「いろいろなやり方、アドバイスとか、全部が全部もちろん自分に合っているかと言われればそうではないですけど、その中で1個でも自分に合っているもの見つけるためのアドバイスはもらっていたかなと思います」
一度、素直に聞き入れ、試し、その中で取捨選択していく。柔軟でありながら頑固。それが大谷の野球への取り組み方であり、大谷自身の生き方にも通じていると感じる。
最後に、オンライン会見の最後に大谷らしい無邪気な笑顔が見られたので紹介したい。球団広報が「もう一人」と紹介すると救援右腕のラミレスが乱入。「俺は君のベストフレンドだ」と話しかけると、「また明日ね、ノエ(ラミレス)」と大谷が返し、大爆笑に包まれた。ラミレスはさらに「2本打って気分がいいだろう? 今晩“Warzone”のグループに参加しないか?」と勧誘。「Call of Duty:Warzone」は世界的な人気を誇る対戦型オンラインゲームだが、大谷が「NO!」と拒否すると、ラミレスも「カモン! “ショーゾーン”だ。今夜だよ!」と食い下がった。最後は大谷が「MANANA(マニャーナ=また明日)!」と流暢なスペイン語で締め、終了。3年目の今季も同僚から愛されている様子が分かり、自然と和んだ。
9月21日(同22日)時点でレギュラーシーズンは残り5試合。投打ともに思いもよらない3年目となっているが、最後まで大谷の姿を見届けたい。