操上が求めるのは、写真家として“使える肉体”。驚異的な肉体と精神を支えるメンテナンスの秘密とは?
太平洋の真ん中からでも俺だけは泳いで帰る
操上と仕事をしていて、年齢を意識することはない、と口を揃えて皆が言う。背筋はしゃんと伸び、決して多くを語るわけではないが口調は滑らか。カメラを持つとその動きは俊敏でしなやか。被写体を見据え、シャッターチャンスを狙う。その瞬間的な判断の正しさは、何より撮った写真が証明している。
若々しいというのとも違う。どんなに若くとも操上ほどの動きができる人間は、多くはないだろう。ひと言でいえば、驚異的。操上和美の肉体も精神も日本人男性の平均寿命81.25歳をとっくに超えた84歳のものとは、とても思えない。
「毎日、今日という一日を精一杯生きる。とにかく前に向かって生きることしか考えない。死ぬことなんてまったく考えません。どう死にたいかなんてことも想像したことがない。30代、40代の頃は毎月のように海外ロケがあって、あちこち飛び回っていました。太平洋の真ん中とかで窓の外を見て思ったものですよ。もしここで飛行機が墜ちたとしても、俺だけは泳いで帰るって(笑)。今もその気持ちは変わらないですね」
それを支えているのは、日々のトレーニングだ。操上が通っているのは、東京の名門ジム、トータル・ワークアウト。長期ロケで東京にいられない時をのぞいて、操上は週2回のトレーニングを続けている。
「うちのジムは2001年9月にオープンしたんですが、操上さんが糸井重里さんのご紹介でいらしたのは1ヵ月後の10月。以来20年、週2回欠かさずいらっしゃっています。うちのジムでは間違いなく一番長く通っている会員です」
そう語るのは、入会以来ずっと操上を担当しているパーソナル・トレーナーの池澤 智さんだ。20年前とはいえ、入会時の操上はすでに60歳を超えていた。当時、操上のことをどんな風に見ていたのだろうか。
「せいぜい40代にしか見えませんでした。すごく若い人だなという印象。その時、操上さんがおっしゃったのが『まだまだ現役のプロでありたい。写真家としてシャッターチャンスを逃さない身体をつくってほしい』ということ。その時、私は操上さんがどれほどすごい方かも知らなかったんですが、そんなリクエストをされたことがなかったのでいろいろ悩みました」
写真家として必要不可欠な能力とは。必死で考えた池澤さんがたどりついたひとつの答えが、動体視力とそこに反応する筋肉を鍛えることだった。
「単に動体視力といっても、野球やテニスとは違うと考えました。相手の動きが見えていて、その球に反応するのではなく、突然訪れるシャッターチャンスに反応する能力。一番近いのはボクシングや格闘技かもしれません。ノーモーションで飛んでくるパンチにいかに反応するか。その能力を徹底的に磨いていこうと思いました」
現役アスリート以上の動体視力と反応力
このトレーニングのために使用しているのが「スープリュームビジョン」と呼ばれる機械だ。
黒いボードで74のライトがランダムに点滅、その点滅したライトにタッチ。いわば“光のもぐらたたき”のような動きをすることで、動体視力と反応力、集中力を鍛えることができる。
「0.5秒の点滅で半分タッチできれば上級者といえますが、操上さんは0.4秒で6割以上。現役のアスリートでもこのレベルの方は、ほとんどいません」
トレーナーの池澤さんは、操上のトレーニングに対する姿勢から学ぶことが多いという。
「操上さんは継続する力がすごい。出張の翌日とか、どんなに身体が疲れていてもトレーニングを休まない。足を骨折した時も通っていました。むしろしんどい時こそやるんだ、と。実際は、痛いところだらけだと思うんです。職業病ともいえる腰痛は、20代からの悩みだともおっしゃっていました。でもそういう痛みを理由に休んだことはいっさいありません」
操上はジムだけでトレーニングをしているわけではない。腕立て伏せ50回と腹筋50回が日課。体重は55.5キロをキープし、若いころからほぼ変わらないという。変動は0.5〜1キロ程度。
「美しいと思ったものを感じたままに表現することにとことんこだわっている。トレーニングはそのための手段でしかないんですが、だからこそ決してサボることをしない。起きている間は常に肉体のメンテナンスを心がけているんじゃないでしょうか」(池澤さん)
操上は言う。「僕は、いい写真を撮りたいから、そのための肉体を維持したいんです。年齢を言い訳にするなんて、カッコ悪いじゃないですか。年を取ったら衰えるのが当たり前なんて、僕から見たら甘えにすぎませんよ(笑)」
パーソナル・トレーニングジム
TOTAL Workout
2001年に創業、日本のパーソナル・トレーニングブームのさきがけとなったジム。トップアスリートや芸能人も多く通う。現在は渋谷、六本木、福岡で営業。