PERSON

2020.06.28

【松浦勝人】「僕は“マックスマサ”の時代に戻る。ピンチをチャンスに変えていく」

【画像】matsuura

僕のこれからの仕事は、コンテンツのど真ん中を作ることと、それを広げること

CEO職を退任し、代表取締役会長のみになる。これからは、クリエイティヴに専念する。

社長、会長CEOを務めてきた16年間、経営と楽曲制作を両立させようと努力してきたけど、(今さらながら)無理だということがはっきりわかった。最高経営責任者であるCEOは、社内のすべてを把握していなければならない。クリエイターが作品を見せにきても、経営関連の仕事があって、「あとにして」と言わなければならないことが度々あった。こんなレスポンスの悪さでは、楽曲作りはできない。

僕のなかでの優先順位の一番に楽曲作りを持ってくるためには、CEOを退任したほうがいいと以前から考えていた。僕にとって役職なんかどうでもいい。創業者でも株主でも一社員でもなんでもいい。世間が「エイベックス=松浦」と思っていることは、創業した時からずっとそうで、これからも変わらない。松浦は松浦。僕のなかでは何ひとつ変わらない。変わったのは、これからは思いっきり楽曲作りに集中できるということ。

緊急事態宣言が解除され、ライヴもクラシックから徐々に再開していくけど、以前と同じ状況に戻ると思っている人は時代に取り残されていく。今までと同様の日常は戻ってこない。

密になってはいけないと言われている今は、三密が何より大好きな僕ですら、そういう場に行くのは極力控えている。第2波、第3波が想定される状況でもとどおりのライヴは、もはやできない。満席といっても席はスカスカ状態にしなければならない。マスクをして、歓声はお控えくださいという状況で、盛り上がるわけがない。心から楽しめるわけがない。ライヴハウスやクラブにとっては致命的なできごとになってしまった。

これはひとつの文化を消してしまうほどの大きなできごと。でも、逆をいえば、新しい文化が生まれる可能性がある。僕はいつもピンチをチャンスに変えてきた。コロナ禍はエイベックスにとって大ピンチ。エンタテインメントにとっても大ピンチ。これをチャンスに変えていかなければならない。新しい文化が生まれてくるのだったら、僕たちはそれを見越して動かなければならない。

僕たちは以前から、生配信やアーカイブ、仮想空間などさまざまな手法でオンラインライヴ配信を進めていた。でも、今ひとつ流行らなかった。それがコロナ禍により、オンラインライヴがエンタメの楽しみ方のひとつになっていくかもしれない。

オンラインライヴといっても、ライヴ映像をただストリーミングするだけではない。さまざまな仕かけが可能になる。例えば、観客同士は自分のほかに誰が観ているかわかり、ライヴの前後に観客同士でコミュニケーションが取れる。自分のアバターが作れて、Tシャツなどのデジタルグッズを購入して着させることができる。ブロックチェーンで管理をし、限定販売もできる。観客席から応援メッセージを送ることも、バーチャルな紙テープを投げることもできる。

観客アバターは、アーティスト側からも見える。アーティストが観客と交流して、何人かの観客をアフターパーティに招待をすることもできる。今まで、自分のなかだけで考えていたアイデアの点と点が、ぐるっと線で結ばれてきている。

僕たちコロナ前の世代は、ライヴ会場の熱気とか音の振動とか、そういうものに惹かれていた。でも、コロナ後の世代が同じものに惹かれるかは、わからない。それよりも、クラウド上でひとつのライヴを世界中の何百万人、何千万人と一緒に観ているという世界観に惹かれるかもしれない。身体は遠く離れているけど、心理的には以前より“密”に感じられるもの。そういうものが求められている。

仕かけはそれぞれのアーティストが考えればいい。そのためには試行錯誤が必要で、先行して始めることが何よりも大切。これから、こういうオンラインライヴをどんどん開催していこうと考えている。

僕のこれからの仕事は、コンテンツのど真ん中を作ることと、それを広げることのふたつ。都内のファクトリーに作曲家を集めて、楽曲作りもどんどん進めている。

自粛期間中、自分が好きだった’80年代、’90年代の音楽を聴いていた。どんどん思い出す。どの曲がどの曲の影響を受けて作られているか、昔はその関係構造がすべて頭の中に入っていた。CEOの間は忘れていたけど、聴くたびにその関係構造が僕の頭の中で復元されていく。

若い作曲家が曲を作ってくると、この部分にはあの曲のあの部分を使おうと、頭の中の引き出しからすぐに出てくる。でも、若い作曲家には「あの曲のあの部分」がわからない。その曲を聴かせると、作曲家はすぐに理解し、若い感覚で新しい音楽に仕上げてくれる。このやり方は使えると思った。

昔の曲を再現するのではない。今の曲に昔の曲のエッセンスを入れると、若い世代は新鮮に感じる。その引き出し、僕の頭の中には情報が誰にも負けないぐらい入っている。今のサウンドに古い要素が入ることで、より新しいものが生まれてくる。音楽の歴史はそれを繰り返しているように思う。

僕たちは、多くの人に広く受け入れられる音楽を作っている。トガった芸術的な音楽は狙わない。広く聴かれて、影響力を持つ音楽。それを作りたい。

僕はそういうつもりで音楽を作ってきたわけではないけど、Every Little Thingにしろ、浜崎あゆみにしろ、たくさんの人に聴かれて、たくさんの人の思い出になっている。それは、その人の人生に関わることができたということ。これは音楽が持つものすごく大きな力だと思う。

音楽を通して、たくさんの人の人生に関わってきた、そういう自負を持っているわけではないけど、改めて今思うと、僕はそういうことをしてきたんだと思う。これからもそれを続けていきたい。時代を象徴する楽曲という枠に入るような音楽を生みだしていきたい。

結局、僕は僕。“マックスマサ”の時代に戻れ。そう、神様に言われた気がする。

TEXT=牧野武文

PHOTOGRAPH=有高唯之

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