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2020.06.15

逃げ出したくなる状況があれば、それを君が背負え。ドリアン助川【ゲーテの名言㊴】

世界的文豪、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。作家のドリアン助川さんは言う。ゲーテの言葉は「太陽のように道を照らし、月のように名無き者を慰める」と。雑誌『ゲーテ』2011年8月号に掲載した、今こそ読みたいゲーテの名言を再録する。

二つのことが肝要だ。第一に、頭のいいこと、第二に、大きな遺産をうけつぐことだ

――『ゲーテとの対話』より

この世に於いて画期的なことをするための条件とはなにかと前振りをし、ゲーテはこれらふたつを挙げた。まずは頭。納得だが、これは時々まったく起動しなくなる自前の廉価版を叩いたりさすったりして使っていくしかないので、聞かなかったことにしよう。

問題はふたつ目。遺産である。いや、ちょっと待って下さいよ。これもどうにもなりません。親が親なもので、実家に戻ったところで田畑ひとつあるわけじゃなくて。となる人の方が圧倒的に多いだろう。だが、早とちりしてはいけない。ゲーテは遺産の例をこう語っている。ナポレオンはフランス革命を、フリードリヒ大王はシュレジエン戦役を、ルターは教会の暗愚を継いだと。

なんだ、すべて修羅場ではないか。苦労の底なし沼に飛び込むようなものだ。ゲーテはしかし、だからこそ意味があると言った。逃げ出したくなる状況があれば、それを君が背負え。金品や土地を継ぐよりも、はるかに大きな仕事をすることになる。

なるほど。

誰もが尻込みをしそうな負の遺産だからこそ価値があるのだ。いつかは誰かが先頭に立ち、そのやっかいな状況を改めていかなければならない。更地に直し、次の時代に送り届ける。それが丸々自分の仕事になるのだ。

この思考法こそを受け継げば、今、私たちの国はまさに大きな遺産だらけだ。震災、原発問題、構造的不況、外交的閉塞。これを継ぐということは、現状とは対極をなす場所に向け、おのれが旗を揚げ、歩いていくことを意味する。すなわちそれは復興であり、エネルギー転換であり、構造的活況、外交の安定である。

いや、こうなると話が大きくなり過ぎるかな。ナポレオンはたしかに修羅場に乗じたかもしれないが、その分だけ人を殺している。たとえそこに社会的正義が謳われようと、人を圧するようなことはしたくない。自分一人だけでもなんとか生きていければ、というのが多くの人の胸のうちではないか。

でも、やっかいだと感じる場があったら自分が背負えというゲーテのこの考えは、個人の生活のなかでもずいぶん有効なのではないだろうか。内外に負の遺産を抱えた人は、そのことでくじけてはいけない。負があればこそ、その人にとっての正が見えてくる。そこに道ができる。

――雑誌『ゲーテ』2011年8月号より

Durian Sukegawa
1962年東京都生まれ。作家、道化師。大学卒業後、放送作家などを経て’94年、バンド「叫ぶ詩人の会」でデビュー。’99年、バンド解散後に渡米し2002年に帰国後、詩や小説を執筆。’15年、著書『あん』が河瀬直美監督によって映画化され大ヒット。『メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか』『ピンザの島』『新宿の猫』『水辺のブッダ』など著書多数。昨年より明治学院大学国際学部教授に就任。

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