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2020.06.03

素晴らしい一日は遠くにあるのではなく、今日のこと。ドリアン助川【ゲーテの名言㉞】

世界的文豪、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。作家のドリアン助川さんは言う。ゲーテの言葉は「太陽のように道を照らし、月のように名無き者を慰める」と。雑誌『ゲーテ』2011年5月号に掲載した、今こそ読みたいゲーテの名言を再録する。

一切の理論は灰いろで、緑なのは生活の黄金の木だ

――『ゲーテ格言集』より

生きることの意味を考える時、人は理想を掲げがちになる。世の中の役に立ちたい。歴史に名を残したい。自分にしかできない仕事を成し遂げたい。その一方で、意味なんてない、ただの暇つぶしさ、金を稼げてなんぼのものでしょうと、人生への問いかけそのものを否定する人もいる。

もちろん見解はそれぞれの自由だ。快楽のみを追求という人生があってもいいし、やり切れるなら、それはそれであっぱれである。だが、どんな人生を過ごそうと、誰もが避け切れないものがひとつだけある。

それは日々の生活というものだ。

これをないがしろにしたり蔑んだりすれば、本人は遅かれ早かれ虚無を味わうことになる。だからゲーテは、「生活を信ぜよ! それは演説や書物より、よりよく教えてくれる」とも記した。生きることへの理想はあっても、その基盤は地に足の着いた生活のことなのだと繰り返し彼は説く。

毎日の些事。食、通勤、靴の感触、人との付き合い、言葉、オフィスから見える空、家族のために買うもの、乾杯。そうしたことのひとつひとつに鮮やかさを感じられるなら、人生はなにかのためにある道ではなく、すでにそれ自体が黄金であり、辿り着いているのだ。

歳をとると、着るものはどうでもいい、食べるものもどうでもいい、という人が増えてくる。だが、若き日々ではないからこそ、私は衣食住に一点の輝きを持つべきだと思っている。帽子でもいい。ネクタイでもいい。下着でもいい。自分の思うところを一点おしゃれにすべきだ。食べ物も大事。贅沢ができる時代ではないことはわかっているが、それでも一日に一食は好きなものを食べ、好きなものを飲めばいい。住に関してはもっと厳しい環境下だが、たとえアパート暮らしでも、家から駅までの通勤路で短い詩をひとつ考えるといった習慣をつけるだけで、街の細部が鮮やかに見えてくることがある。私はある小説誌で詩の連載をやっているが、その作品の多くはこうして生まれてきたものだ。これらはすべて祝祭のためにある。

では、なぜそうやって一日を祝うのか。それは、素晴らしい一日は遠くにあるのではなく、今日のことだからだ。

――雑誌『ゲーテ』2011年5月号より

Durian Sukegawa
1962年東京都生まれ。作家、道化師。大学卒業後、放送作家などを経て’94年、バンド「叫ぶ詩人の会」でデビュー。’99年、バンド解散後に渡米し2002年に帰国後、詩や小説を執筆。’15年、著書『あん』が河瀬直美監督によって映画化され大ヒット。『メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか』『ピンザの島』『新宿の猫』『水辺のブッダ』など著書多数。昨年より明治学院大学国際学部教授に就任。

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