幾多の試練を乗り越えながら、着実にスーパースターへの階段を上り続けるメジャーリーガー・大谷翔平。現在は、新型コロナウイルスの影響でシーズンの開幕が不透明となっているなか、アメリカで準備を整えている。今だからこそビジネスパーソンが見習うべき、大谷の実践的行動学とは? 日本ハム時代から"大谷番"として現場で取材するスポーツニッポン柳原直之記者が解き明かす。
3日でフォロワーは27万人超え
意外だった。最初は少し信じられなかった。大谷が5月28日(日本時間29日)、インスタグラムで公式アカウント(@shoheiohtani)を開設し、初投稿した。エンゼルスの広報から告知もあり、正真正銘、本人のアカウントだった。
初投稿は自身のメジャー初本塁打時にサイレント・トリートメントで祝福された動画を添えて「Hope my welcome to Instagram party goes better than this(インスタグラム開設が"これ"より歓迎されることを望んでいます)」と英語で粋なメッセージを送った。その2日後には実戦形式のフリー打撃「ライブBP」に登板した動画を投稿し、筆者を含めた日米メディアが次々に速報。6月1日現在でフォロワーは27万を超えた。
冒頭"意外だった"と記したが、コロナ禍で開幕が延期となり、ある程度、自分の時間が取れるようになったことが一番の理由だろう。これまで大谷は忙しすぎた。日本ハム時代は投打両方の練習に時間を割くため、野球に全てを注いだ。報道陣の取材は1日1回に限定され、栗山監督による「外出制限」も敷かれたほどだった。
グラウンドを離れれば、栄養学など健康管理に関する本を読みあさり、専門家級の知識も身につけた。プロ2年目の2014年オフ、当時20歳の大谷が「今、おいしいものを基準に食べていない。脂肪を増やさずに、筋量だけを増やしたい」と話していた時はその意識の高さに心底驚いた。
話が少しそれた。つまり、大谷がSNSの更新に割く時間はこれまでなかった。割く必要性もなかったのかもしれない。ファンサービスに熱心な選手だが、基本的に目立つことは好まないからだ。ただ、今回、インスタグラムのストーリーズという機能を利用し「主に野球関連の投稿をアップしていく予定です。これから皆さんと野球を通じて繋がるのを楽しみにしています」とつづっている。もちろん、今も野球に全力を注いでいる。一方で、ファンあってのプロ野球は海を越えても同じ。開幕が延期となり、何か思うところがあったのかもしれない。
最後に2013~'18年までエンゼルスの地元紙オレンジ・カウンティー・レジスター紙で英語記事を執筆していた志村朋哉氏の言葉を紹介したい。
「大谷選手が全米レベルでスターになるには、思ったことを積極的に発言することが大事です。野球に興味のない人は選手の人間性や生き方に興味を持ち"応援したい"という気持ちになるからです」
プロバスケットボールNBAのレブロン・ジェームズ(レイカーズ)もそう、女子テニスのセリーナ・ウィリアムズもそうだ。大谷はすでに大スターだが、前述の2選手のように競技の枠を越え、全米レベルで突き抜けた存在ではない。そのため、今後は社会に強いメッセージを発信し続けることが大事だという。
大谷が自身のSNSに求めているものとは少し違うかもしれない。ただ、将来的に大谷が自らの言葉で日本はもちろん、米国内に向けた強いメッセージを発信する日が来てもいい。大谷はそれほど影響力のある選手だと思っている。