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2020.05.31

この星も、宇宙も、時間も、みな極小のものの積み重ねだ。ドリアン助川【ゲーテの名言㉛】

世界的文豪、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。作家のドリアン助川さんは言う。ゲーテの言葉は「太陽のように道を照らし、月のように名無き者を慰める」と。雑誌『ゲーテ』2010年10月号に掲載した、今こそ読みたいゲーテの名言を再録する。

原理は常に同一であるが、その原理を実行するには一生を要する

――『イタリア紀行』より

旅先のポンペイから故国ワイマールへ送った手紙で、ゲーテはこう記している。

「自分は余生を観察に捧げるべきではないだろうか。もしそうすれば人智の増進に資するような多くのことを発見できるかもしれない」

自ら切り拓いてきた植物学に関して、ここからすべてを捧げるべきかどうかと迷いの言葉を発したのだ。これは同時に、かつてゲーテの精神的支柱となってくれた人妻への伝言でもあった。これほどの天才にして、よほど答えを欲していたのだろう。

なにかを思い、なすことは、その大小を問わなければ誰にでも可能だ。しかし、それを本当になし切るためには一生が必要なのだとゲーテは看破していた。たかが数年の営為、ましてや数日で結果が出ることなど、ゲーテにとっては仕事や創作の範疇に入らなかったに違いない。

ただ、だからといって日々のよしなしごとを軽んじたわけではない。むしろ逆だ。

イタリア滞在中の積もり積もった記録、それはおもに故国へ向けて書いた手紙の束だった。彼はそこから記憶を起こし、三十年後に『イタリア紀行』をまとめた。また、詩の一篇ずつを、こちらもまた三十年間編み込むことによって『ファウスト』を著した。一生、と大上段な言葉を使う彼の努力は毎日の陰陽のなかにこそあった。

今日。それが人生の正体である。原理とはこのことだ。ひとつひとつのセル(細胞)から草木がなり、やがては大木となるように、ゲーテが観察を続けた自然界の森羅万象は、すべて小さなものを単位として成り立っている。この星も、この宇宙も、この時間も、みな極小のものの積み重ねなのだ。その原理は常に同じだと彼は言っている。

一生、などと言われると肩が凝って一杯呑みたくなるのだが、しかし、今浮いていようが沈んでいようがそんなことは関係ない、一喜一憂するなと励まされているような気もする。すぐに結果を求めようとする世間の風潮に飲み込まれることなく、今日をじっくり生きることだ。それができたかどうかは、誰でもない、自分の胸がわかっている。

――雑誌『ゲーテ』2010年10月号より

Durian Sukegawa
1962年東京都生まれ。作家、道化師。大学卒業後、放送作家などを経て’94年、バンド「叫ぶ詩人の会」でデビュー。’99年、バンド解散後に渡米し2002年に帰国後、詩や小説を執筆。’15年、著書『あん』が河瀬直美監督によって映画化され大ヒット。『メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか』『ピンザの島』『新宿の猫』『水辺のブッダ』など著書多数。昨年より明治学院大学国際学部教授に就任。

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